赤子の処遇って話
『アトラク=ナクア収容完了!!移送用コンテナ着底確認!!排水開始!!』
「グィネヴィアは待機してるな!?最優先だぞ!!」
『既に格納庫にて待機中です!!何時でもどうぞ!!』
アルビオンに帰還した俺たちは作戦終了しても大慌てだ、何せ赤子を1人保護したんだからな。基地を爆破処理するにも赤子が居るコンテナがある状態で盛大な花火を打ち上げる訳にも行かず、爆破のタイミングはアルビオンに帰還し安全を完全確保してからということになった。
『排水完了!!エルピダちゃん中に入れていいよ!!』
「はいなのです!!」
『コンテナ解放!!お父様!!こちらに!!』
「よしっ!!あとは任せたぞ。」
専用ストレッチャー(見た目は完全にベビーカー)に赤子を乗せたグィネヴィアは本当に目にも止まらぬスピードで格納庫を後にして、医務室にカッ飛んで行った。
何でこれだけ急いでいるかと言えば、体調をモニターしていたテュロノエがバイタルの低下を確認したからだ。赤子にとってバイタルの低下は一大事、一度下がってしまえば自力で元に戻すことは困難を極めるためにアルビオンの最新最先端の技術力を持って全力でカバーするのだ。
『基地内に設置した爆弾の起爆を確認、振動来ます。…基地内施設の崩落を確認、作戦成功です。』
「とりあえずこれで終わりか…しかし…生存者を残したことでなんていわれるかねぇ?」
問題はそこだ、今回の仕事関係者は全員消せとの指示だったのだが俺の気の迷いともいえる行動の生で赤子を一人保護してしまったからな。まぁ基地内で生まれていることから戸籍もへったくれもあったようなものではないと思うのだが、もし戸籍があった場合は面倒なことになってしまうのは確定している。管理局に報告はしておくとして、出来ればこの子はウチで育てていきたいと言うのが本音だ。身内をすべて消した張本人として、この子には俺に対して復讐する権利があるからな。勿論簡単にタマを取らせる気は無いが、肉親を失った子どもと言うのは精神的に不安定になりやすいと思う。
それをいかに軽減できるか、それよりもそもそも自分の肉親の事すら把握できていないかもしれない子だ。そんなことを気にする必要もないのかもしれないが…まぁその時はそのときだろう。
ぶっちゃけて言えばウチには親の顔を知らないって言う前例が居たしな、あまり気にしないでおくとしよう。
「ただいまなのです!!」
『おかえりエルピダちゃん、潜水用装備の使い心地はどうだった?』
「重くて使いづらいのです!!でも水中用推進器としての機能は申し分ないと思うのですよ。」
アトラク=ナクアのコックピットから出てきたエルピダを迎えるヴィヴィアンが早速急造した潜水用装備の評価を確認している、まぁ今回は行きも帰りも水中を進まなきゃいけないってことでパージしないという事を前提に作ったからエルピダの評価も仕方のない物なのかもしれない。
まぁ今後今回みたいな水中行動が無いとも限らないから、利用したエルピダからのフィードバックは重要になってくるだろう、出来ればやりたくないというのが本音ではあるがな?
「さて!!モルガン、管理局に作戦完了の報告を。」
『既に送ってあります、流石に爆震まではごまかせないので暫くは地球の情報に欺瞞情報をばら撒くので手一杯になるとの事です。報酬については既に入金を確認、大気圏外に脱出するタイミングも送られてきています。』
「仕事が早いこって...ん?って事はわざわざあの子を報告する手間は無いって事か。」
こいつぁラッキー!!下手に地球人を宇宙に引っ張り出すなんて事したら人身売買を疑われても仕方ない、そうなるとめんどくさいこと極まりないのでね。
キスハやエルピダは原生生物の子どもを託された形でこういったことは宇宙広しと言えどそう数は無いが無い訳では無いので黙認されているというのが現状(養子では無く実子という扱いになる)が、今回の1件は完全にアウトラインなのだ。具体的に言えば宇宙法で禁止される『現地人種の不当な乗船及び惑星外への渡航同行の禁止』に抵触するという訳だ。
コレを回避するにはこの子が間違いなく俺たちの実子であるという証拠が必要になる、勿論グィネヴィアが連れていったあの子は俺の遺伝子なんて受け継いでいない訳だから生体検査なんてされようものなら1発でバレる。
しかもこの世界、惑星ごとに遺伝子の違いをしっかり把握している(辺境惑星の人類種の遺伝子データも保有しているということ)ので今後検査がされた場合速攻でバレるのだ。
手間は無くなったが...今後の不安を解消する為には管理局に報告するしかないのかなぁ...
「モルガン、管理局に申請。当該基地を破壊時生後数週間の赤子を保護、傭兵ソラ・カケルの実子として迎え入れると。」
『よろしいので?』
「余計な苦労をこの子にかけるよりマシだ、既にモレッド達も「新しい妹!!」って喜んでるからな。」
『承知しました、グィネヴィアから生体データ等は受け取っていますので申請致します。』
「頼む。」
心配なのは「その子はこちらで引き取ります」と言われてしまうことだ、そうなる原因は主に保護観点から親としての能力不足が懸念されること。要するに虐待やそれに準ずる行為が行われる可能性がある場合は引き取らせてもらいますよって事だ、特に今回の子どもの様に乳幼児に関して言えばそれは特に厳しくなるからな。
まぁその辺に関してはウチほど優れている傭兵艦なんて存在しねぇよって言いたくなるところだ、アルビオンには最早ビオトープまで存在し地球環境の再現すら可能。その子の姉となれるヴィヴィアン達を初め、最も近しい年頃のシイナとカンラ。キスハとエルピダだって言ってしまえばまだ1歳児に過ぎない!!(見た目上は最早6歳児クラスなんだけどね...)
『申請送信完了、アヴァロンを自動航行でアルビオンに着艦させます。到着まで凡そ16時間、大気圏離脱はアヴァロンの着艦後ですね。』
「まぁそれ迄に申請結果も来るだろ、離脱タイミングと併せてそれくらいの猶予はあるわな。」
何時までも格納庫で会話している訳にも行かないので格納庫を後にし、格納庫横のリラクゼーションルームでホッと一息つく事に。
作戦に同行していたモーガン・テュロノエ・ティテン・ティトンは基地内での戦闘データを纏め、中央電算機に蓄積しているようだ。まぁウチのAI達には自我が存在するので各々の戦闘スタイルはまるで違うのだが、それでも白兵戦の経験値というのは傭兵の仕事をしていてもなかなか蓄積出来るものでは無いからね。いくら苦戦はしなかったとしてもそう言ったデータを蓄積する事でVRシミュレーションによる白兵戦訓練の模擬敵としては最適になる、モレッド達にもそろそろ本格的な白兵戦トレーニングを積んでもらうのもありかもしない。
『お父様、赤子の容態が安定致しました。此方に来ていただけますか?』
「ん、分かった。」
パワーアーマー用インナースーツをはだけさせたままではあるが、気にするものでもないだろう(スーツに自浄効果アリ)。その格好のままでグィネヴィアが赤子を収容している医務室に向かう、気にするまでもない...とは言ったがやはり少し心配になってきたなぁ...グィネヴィアに怒られるかも。
ただまぁシャワーに入ってしまっては髪を乾燥させたりと時間がかかりすぎてしまうのでその辺を考えれば仕方の無いことかもしれないな!!ということで開き直って医務室に向かうことにした。
「パシュンッ」とエアの抜ける音と共に医務室のドアが開くと、病院で未熟児などが入る人工保育器に似た機械の中に入った赤子とそれを優しく見守るグィネヴィアとグリトネアの姿が。
「グリトネアも居たのか。」
『シイナちゃんとカンラちゃんはアルビオンに来た時点で固形物も食べられましたが、この子はまだ無理ですから。それに、赤子の保育方法を最も多くインストールしているのはグリトネア叔母様でしたので...と言うかお父様その格好は...』
赤子の入った人工保育器から目を俺に向けた瞬間に『全く...』と手を額にあてガッカリしたような仕草をするグィネヴィア、まぁこの反応という事はお小言はなさそうなのでまぁいいか。
それよりも...
「この子の容態は?」
『一時的なストレスによる消化不良と言った所でしょうか、現在は小康状態を維持しています。先程までは意識があったのですが、自分が安全な場所に居ると理解した様で眠ってしまいました。』
『この子の発育状況を見るに恐らく生後2週間程度ですね、栄養状態は少し悪い様ですがこれからはしっかりと管理致しますよ。』
「そいつは重畳、この子はあそこに居た子ども達全員によって生かされた。ならそれを見つけた俺たちはその子達の意思を継がなきゃならないからな、子ども達ができて俺たちが出来ないなんて恥ずかしくて顔向け出来んぞ。」
『『勿論です。』』
その後、グィネヴィアとグリトネアからこの子の処遇については軽く説明をして(保護申請が通ればという前提の元)俺も実際初の産まれて間もない生命を間近で眺める。
色素が薄く肌がものすごく白い...と言うか髪もよく見たら色素が無い?(アーマーを着ていた時は専用ゴーグル着用の為色があまり認識できない)、先天性色素欠乏症って奴か。
地域によっては神の使いとまで言われる、見た目にも美しいが自然界においては生き残ることの厳しい個体となる運命を定められた悲しき存在。人間のアルビノの症状の代表例で言えば紫外線を守るメラニン色素が欠如しているので日差しにめっぽう弱い、視力が低くなりやすい事と光を眩しく感じやすいと言う欠点を持つ。
「まぁそんなこと気にしねぇよ、ウチはそもそも純粋な人間が少ねぇからな!!ようこそ、アルビオンへ...歓迎しよう。」
静かに寝息を立てる赤子に俺は優しく微笑んでそう呟いたのだった。
ちょこっとグィネヴィア!!
「ここでは先に述べた先天性色素欠乏症については軽くご説明致します、と言ってもここで述べるのは一種の忌々しい風習について...ですが。
地球のとある地域では、アルビノの血肉には特別な力が宿ると考えられておりその肉を食べればその力が得られると考える迷信を信じる地域が有り、アルビノの子を誘拐。その子の臓器や血肉を売買すると言う行為を行っているそうです。アルビノの子を持つ家族はその子の遺体すら見ることが叶わなくなってしまうことがあるため、もし亡くなってしまった場合土葬では無く火葬を行い遺骨ですらその迷信の対象となっているため肌身離さず盗まれることのないように守らねばならないほどだといいます。
迷信と言うのは恐ろしいものですね...( ´・ω・`)」




