お役所仕事ってめんどくせぇ
エルメロイ交易コロニーに到着した俺は検疫所で足止めを食っていた、何故かと言えば俺含めてアヴァロン、ギャラハッド、モルガンの登録が一切無かったかららしい。
ゲーム内では1度ゲームをスタートした後所属国家を選択すればそれで完了みたいな感じだったから油断していた。
「つまり辺境宇宙からやって来て最初のコロニーがここだと?だから登録も何もなされていないと言いたいので?」
「だからそうだって言ってんじゃないですか、何ですか?貴方は俺が得体がしれない存在だから袖の下でも要求してるんで?もしくは俺の船とかを没収して俺に路頭に迷えと言いたいので?」
「いえいえ、そんなことはないですよ?ただ見るからに最先端技術をふんだんに使っている船なのに身元は不明ともなれば…ねぇ?」
そんな不毛な会話を続けてはや数十分いい加減めんどくせぇなと思ってしまう。
この中年の小太りおっさんに付き合い続けるのもウザったく感じてしまう。
「まぁまぁ、そんな突っかからないでいいじゃないですか。少しだけ調査がてら乗船して確認したいだけですよ。」
下卑た目で船を流し見しているしよぉ……
明らかになんかする気満々じゃねぇか、そんな奴を乗せたくないなぁ。
周りにいる奴らも大体似たような目をしてるしさ。
「じゃあどうぞお好きなようにしてください、ただ言っときますけど余計な事はしない方がいいですよ。ウチのAI達は過激ですからね。」
「ふむ?そうですか、では注意はしておきましょう。ありがとうございました検閲は時間がかかりますのでこの後は自由にされて結構です。ようこそエルメロイコロニーへ。」
もんのすごい含み笑顔をみた、多分あれは禁止薬物かなんかを持ち込んで船内で発見押収したとかでっち上げて船を奪うんだろう。
ま、そんなこと不可能なんですけどね。
アヴァロンには乗船時強制的に全身のスキャンが入る、これは病原菌を持ち込まない蔓延させないという観点から当然の措置だがここからがひと味もふた味も違う。
スキャンした時の持ち込み物が何かまで正確に識別するのだ、つまり身一つで来るならまだしも何か1つでも持ち込んだ瞬間警戒される。
しかもモルガンは駐艦した際にエクセリオンの法律等についてアクセスしていた様で検疫所とは別管轄になる司法方面においてそういうことが起こった際はすぐさま通報し証拠さえ揃っていれば捕まる事を報告してくれていた。
お陰で俺はスッキリした表情で検疫所を後にできたわけだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、エルメロイコロニーの居住区まで到着したわけだがまず行わなければならないことは『傭兵』か『商業』はたまた『開発者』登録を済ませなくてはならないという事だ。
もちろん登録するのは『傭兵』なんだけどな!!HAHAHA!!
コンタクト型端末を瞬きで起動して傭兵登録ができる通称『組合』を検索する。
直ぐにヒットしたのでそのまま向かう、コロニー内を移動するにはリニアレールか電動車が主流だが距離的にそこまで遠くはないので徒歩で街並みを眺めながら向かう。
シリンダー型のコロニーなので巨大な窓から太陽(恒星の名前がわかんないからとりあえず)の光を取り込むタイプだ。
検疫所から15分ほど歩いて着きましたよ傭兵組合に!!
……うん、いやハッキリ言うよこれハ〇ーワークや!!
思い出す就職難民時代の俺……何度も受けた就職面接……届く不採用通知……思い出したら涙が出てくるね!!
組合の前で涙を流す男というのはさすがに外聞が悪いので目頭が熱くなったのを無視してドアを潜る。
中は意外と『おぉ!!荒くれ者だ!!』って人は居ないのでちょっと安心、新人登録の窓口があるのでそこに向かい案内を待つ事に。
「〇〇〇番の方〜お待たせしました〜」間延びした声で俺の番号が呼ばれる、窓口に向かいさっさと登録を済ませるとしよう。
「ようこそ傭兵組合へ、新規登録ありがとうございます。登録は本人のみですか?それとも機体も一緒に?もしくは母艦を含めてですか?」
「母艦まで含めた1式ですね、ついでに搭乗員としてAIも合わせて登録していきます。」
「ほほぉ?母艦まで含めた1式となるとなかなかの大金持ちだった様ですね?この業界金持ちの道楽でやるには無理がありますよ?」
「えぇ、もちろんそれは分かっていますよ丁度ここに来る前海賊の1個小隊を潰してきたところですしね。」
「んん?この宙域で活動する海賊……もしかしてクリスタルスカルと名乗ってました?」
「えぇ、確かそう名乗ってましたね。馬鹿みたいに広域回線で通信してるから耳が痛くなりましたよ。」
必要事項を確認しながら登録に関する要項を表示した端末をいじいじして会話していると落とした海賊の話になった。
話半分で聞いていたので相手の顔もろくに見ることもせず端末の画面をスクロールして確認ボタンを押していく。
丁度母艦と機体のデータリンクが俺の端末と完了したと通知が出たので撃墜ログでも渡しておくとしよう。
「俺の機体のログ、いります?」
「確認のため頂戴致します。もし本当のクリスタルスカルならば報奨金がでますので。」
「そいつは重畳、今送りますので端末貸して貰えます?」
端末を受付員から借りてログを送信したのを確認してから返した。
受付員がログを確認して俺を残して奥に消えていった、ポツンと座ったまま残る事数分イカついおっさんと一緒にさっきの受付員が戻ってきた。
またおっさんかぁ……
「おう、おめぇがこのログの持ち主か。」
「そうだけど、納得出来ないって?偽装してんじゃねぇのかってんならもういいよ。散々さっき検疫所でそんな話はしたから。」
「いいや、このログが偽装されてないってことはわかりきってる。そこは問題ねぇ、だから安心してくれ。あぁ、すまん俺はこの傭兵組合エルメロイコロニー支部長のガリオンだ、よろしく頼む。それで登録は問題なく通る、ただ1つこのログが間違いなく真実だったとしても組合員としての技量を調べるひとつの基準としてシミュレーターだけは行ってもらう。」
「ふーん?まぁいいけどさ」
そう言って支部長自らが案内してくれたシミュレーターに俺は入ってため息を吐いた、なんでかって?使える機体がヘボすぎるんだよ!!スラスター出力は低いセンサーは弱いジェネレーター出力が低いのに運動時要求入力数は高い!!何だこのクソ機体!!まぁ、何とかしたよ?こんなくらいでボコボコにされる程度の腕では有りませんよ俺は。
ゲーム時代新人刈りが横行した頃、俺は新人狩り狩りをする為に初期機体を少し強化した程度の機体でエリアを徘徊しやって来る新人狩りを返り討ちにしたのだ。
それに比べればこんな程度ハナクソですわ。
「……おぉ……すげぇな、おめぇ……」
「褒められて悪い気はしないね。」
ポカーンと口を開けた支部長ガリオンと共に窓口に戻り最後の説明を受ける。
「では登録作業はこれで完了となります。組合員の登録証発行の為30分から1時間ほどかかりますのであちらの席でお待ちください。」
「お役所仕事かよこのクソッタレが!!」
大声で叫んでしまう程にその一言は苛立ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ、ようやく登録証発行かぁ……」
『お疲れ様でしたマスター、私の船員登録までしてくださったのも確認しました。感謝申し上げます。』
モルガンと連絡を取りながらコロニーの商業区域を散策している俺。
登録証が発行され船に戻ろうかなと思った時にモルガンから通信が入ったのだ。
『あの検疫官を無事ブタ箱にぶち込みましたよ』ととても嬉しい報告をしてくれた、やはり何かしらの禁止薬物か何かを持ち込もうとしていたらしくお仲間と一緒に乗船してスキャンされた瞬間にウチの作業用ボット達が取り押さえモルガンが司法局に通報、取り押さえられた原因などについては現行犯の為こちら側の非は一切無し。多少スキャナーの精度が良すぎないか?と言われたらしいが『キャプテンが怪しいと思っていたので少し厳しめにスキャンしたところ……』と上手くぼかしてくれたようだ。
報告を受けた後は船内の消耗品補給等を鑑みて俺が直接買い付けに来たという訳だな。
クリスタルスカルの撃破報酬はなかなか美味しい物だった、隊長機を鹵獲に近い状態で撃破していたので機体データが残っており基地や略奪物資の一覧まで残っていたらしい。
締めて18万メルとなりましたとさ。メル(mel)はこの世界の通貨の名前で基本はコロニー住民なら皆入ってるナノインプラントに残高等が入っている。
大体1メル=10円くらい?な気がする。但しものによるかな?と言った感じだな。
水なら精製水として10Lのタンクで15メル位しかしない、安いアルコール飲料なんて3メルとかだったしな。
食料も水で戻るドライフード的な物が一般的で1食2メル位しかしない、食材まんまって感じのものは野菜……キャベツが赤かったり人参が真っ青だったりって言うのを無視しても高い。キャベツ半玉で5000メルとかしたぞ!?日本円で5万円とか馬鹿じゃねぇの?と思った。
結局今日買ったのは精製水500Lタンク20本ドライフード的な食料3ヶ月分おやつ30日分。
……おやつは300円まで?知るかぁ!!俺が食いてぇんだよ!!