負けられない戦いではなくても負けたくはない
「やってくれるっ…!!」
モニターに表示されたギャラハッドの状況報告が全身で『Caution』と『Danger』で埋め尽くされる、初手からこんなに追い込まれるなんて今までなかったぞ⁉GROを始めたころですら最初っから大破寸前レベルの敵と戦うなんてことはなかったしな、いったいどれだけの綿密な計画を立ててきたというのか…
冷汗が流れているのを感じながらも俺はまだ比較的無事だったスラスターを吹かしてモレッド達の死角となっていた小惑星から離れる、あのモールトもどきが一直線にこっちに飛んできたことからもサーマルステルスなんてモレッド達には無意味ってことを証明しているようなもんだ。
「一方的に嬲られるのは性に合わないんでね…ってマジか⁉」
次に襲い掛かってきたのはクラスターミサイルの群れ、群れといってもせいぜい数は10と少し程度だが…問題はクラスターミサイルだったということ。
「徹底的に機動性を奪うことを優先しているな!!」
クラスターミサイルの炸裂によって得られるものは正直言ってほぼないだろう、だが同時多発的に起きる爆発は嫌でも機体の装甲や内部構造に問題を引き起こす。
実際ただでさえエラーを吐いて黄色だったり赤かったりした状況報告表示がもうすでに真っ赤に染まっているのだ、『Ejaction Ready』と表示するほどのダメージを俺がまだ攻撃姿勢にすら入っていない状況でたたき出されたのだ。
「本気で殺しに来ているか…?」
額に冷や汗が流れる、俺も実際に死を身近に感じたことなんてない。もともとはゲームでプレイしていただけだし、命のやり取りだなんて思うようになったのは初めて実際に白兵戦をやった時なわけだ。だからはっきり言ってしまえばモレッド達と大して変わりはないともいえるかもしれない、大きく違うのは実際に死ぬ直前まで行ったこと。それが自分の意志でその直前まで行ったのか事故によるものなのかの違いいか?実際に俺が死にかけたのはサンデュールズ星系でのくそったれ軍人の例の件くらいだが…
モレッドはルガートゥリスコの一件で死に瀕したことはあってもそれ以降は全戦全勝だった、子どもは得てして失敗を成功で上書きしすぎる。大人も権力やそういった地位に上り詰めれば成功体験に固執して視野狭窄となりやすいけどな。
「いいねぇ…本気で俺を殺りに来てるってのは…ここまでAMRS戦で追いつめられるのは本当に初めてだよ。剪定者戦でも、グソク様戦でもここまでヒリついた戦いはなかった。4対1で初撃をもらってすでに死に体…こんなに心が燃え上がる戦いがあるか⁉いいや無いね!!」
もはや思考は邪魔だ、ここからは本能と培った感覚だけの勝負だ。
さぁお前たちの力を俺に見せつけてくれ!!
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モレッド視点
「エレインの初撃は成功、そのあとのクラスターミサイルによる追加ダメージも効果あり…ここからは小細工なしだ。みんな行けるね?」
「「「もちろん」」」
「それじゃ、作戦通りに。予想外の行動をしてきたときは各自の判断を優先、こればっかりはパターンを作ってもどうにもならないから。相手はお父さんだしね。」
通信での会話はあまりない、すでにみんなも極限に近い集中を始めているから。
相手は全宇宙でも5本指に入るのではないかと思えるほどの凄腕AMRSパイロットであるお父さんだ、小細工を通してこっちの土俵に引きずり込むことはできてもそこから巻き返される可能性は十分にある。
シミュレーションでの戦績こそ6割を何とか超えられる程度には連携が取れるようになってきたけど、シミュレーションはシミュレーション。実戦とはまるで話が違うっていうのはよくわかっているつもりだ。
だってすでにシミュレーションとは違う挙動をしているし、あれだけのダメージなら普通はどんなパイロットでも帰還を優先するだろう。まともな神経じゃないっていうのが私の今のお父さんに出す判断。
今回のキーになるのはエルピダだ、キスハと私はできれば一撃を加えて削るという方向で運用しシイナはエルピダに接近される前に探知して妨害をするようにしている。そのためにファルクルムはレーダーシステムに連動したミサイル系武装を大量装備している。
「キスハ、正面からくるよ。頭は狙わなくていい、四肢を。」
「うん、わかってる。」
極めて冷静に、もはや冷淡と言っていいほどに感情が乗っていない声色でわたしとキスハは連携をとる。やることは単純だ、こういう時お父さんは後衛になるエルピダをまず狙う。機動性が皆無だけど正確な射撃をされると自分の攻めが潰される可能性が高いから、まぁその気持ちはわかるよ。私もキスハも実際にシミュレートしてた時に「ある意味合理的な判断なのかもね。」と思ったりしたから。
「でもさ…私たちの事なめてるよね?」
前衛を無視して後衛を先に潰すということは、それはつまり「前衛は大した脅威にはならない」と言っているようなものではないだろうか。少し前までだったら「また抜かれた!!」としか考えなかったことだけど、今の考えはそうなっているのだから不思議なものだ。
まだモールトの展開はしない、今展開してしまえば私も機動戦に移行するのに時間がかかるし何よりキスハの邪魔になる。連携の訓練をしてる時一番課題になったのはコレだった、キスハのキャスパリーグの機動性が高すぎるせいでモールトを展開したときキャスパリーグの邪魔にしかならない。
結果として、モールトを展開するよりも基本に立ち返ってAMRS同士の白兵戦で挑んだほうが連携が取れるという結論に至ったんだ。もちろん必要な時はモールトを全力で稼働させる、実際すでに展開自体はしているのだ。追従状態にしてキャスパリーグの邪魔にならないようにしているだけで。
「こっちをみろぉ!!」
キスハがフルブーストでギャラハッドに突撃し、その勢いのまま激突。押し付けるように小惑星まで突っ込んだ。ぶつかったほうの小惑星はその衝撃から粉々に粉砕され、粉塵の向こうから誤作動を起こしながらもガードをしっかりした状態のギャラハッドとその手をつかんだままほかの小惑星にぶつけようとするキャスパリーグの姿が出てきた。
振りほどこうにもうまく動かないように見えるマニピュレーターは、キャスパリーグがさらにがっつりとホールドしてテイルブレードによる追撃も開始された。超至近距離のために薙ぎ払うような攻撃ができず、点の攻撃しかできていないものの、回避に専念するかそれともまずは拘束から逃れるべきかの二択を迫られているお父さんはきついものがあるだろうなと予想。
「エルピダ!!」
「撃つ…」
「っ!!」
寸前で回避こそされたものの、アトラク=ナクアの高出力ビームはギャラハッドの左足ひざから下をがっつりと削り取った。そしてそのまま次の攻撃…とはいかなかった。
ギャラハッドは回避した動きをうまく利用して巴投げのような形でキャスパリーグの拘束から逃れたのだ、そうなれば次は私の番。キスハは性格上一撃離脱戦法を最も得意としているので、お父さんにがっつり警戒されてしまうとその戦法有効度がかなり下がってしまうのだ。
そのために私がいる、モールトはすでに展開され機体の周囲をくるくると周回している。
「普通の傭兵や軍人ならしっぽ巻いて逃げるところだよ?お父さん。」
「それをやってほしいのか?情けないおやじだと笑いたいのか?」
「…違うね。」
「言葉はいらん、思いのたけを…お前たちの力のすべてを俺にぶつけて俺を超えて見せろ!!お前たちは敗者だ!!見下していた叔母たちに負け、無様に逃げた弱虫だ!!泣き虫だ!!臆病者だ!!違うというなら力を持って俺を打ち倒せ!!」
機体はボロボロというにふさわしい状況で、キスハの突撃によるGによって内蔵にも少なからずダメージが入っているであろうにもかかわらずお父さんはここまで言うのか。
私たちの言葉など聞く気がないと…?勝てなきゃ私たちの言葉を聞く気がないと今言った?
「思いっきり負かして…土下座させてやる!!」
私はその言葉が言い終わるが早いか、ギャラハッドに突撃していた。後から聞いた話によると、突撃時の姿勢や武装の構え方はお父さんのそれと全く同じだったらしい。
意識していなくても、確実に私はお父さんの子だったんだなと…気が付くのはことが終わってから。
そしてことが終わるころにはもっと大変なことになるとは、まだこの時はみじんも思っていなかった。
モレ「確実に力を奪っていくよ(-"-)」
キス「四肢をもぐ!!( ゜Д゜)」
エル「破壊する…ねらい撃つ…"(-""-)"」
シイ「近づけさせない…(-.-)」




