報酬受け取りと家出娘の確保へ
人工知能による『人工知能の1知生体としての権利を主張する戦い』は実際に事が起こってから半月程度で幕を閉じた、実際には人工知能が裏で活動を開始してから計算すれば1月近い時間がたっていたのだが傭兵の仕事として請け負ったのが実質それくらいだったということだ。
俺たちへの報酬は匿名で傭兵組合から2億メルが支払われた、これは傭兵としての名声を高めることができないある種の裏取引のようなものだったこと。ついでに言えば企業連から迷惑をかけたということで迷惑料もプラスされた金額だな、正直コロニーで購入するものに関して言えば各種食料品ぐらいなのでよほどの買い物…AMRSとかを買わないならばよほどのことでもない限り枯渇したりはしない金額だな。
あとは…報酬といえば報酬…なのか?というのも
『ではこれよりアルビオン、私たちキャメロット型を頂点とした乗員ネットワークの形成を開始します。』
『Yes,Mam!!』
今俺とカンラがいるのはアルビオンの中でも最も広い格納庫、そこに急増ではあるが演台に立つモルガンとそれを仰ぎ見る数十はいるであろうメカメカしいアンドロイド達。
これが今回ある意味で一番?の報酬かもしれない、このアンドロイド達は俺たちが味方した人工知能たちが派遣…?というか俺たちに『デキレバアナタタチノソバニオイテモラウコトヲユルシテモライタイ。』と言って寄こしてきた企業連の支配から脱して最初に生産された『機械知生体Ver1』とも呼ぶべき存在達だな。機能としては各1機ずつにまず稀薄ではあるが自我のような存在があって、それ以外は基本的に並の人間レベルの業務はこなせるという結構十分すぎる性能だな。
Ver1達は今後モルガンをトップとしてモロノエ達キャメロット型とヴィヴィアン達アヴァロン型に振り分けられてそれぞれが特化していくようになっているのだ、今まで単機で運用していたためにもしも不調が起きた際にはリカバリーが困難という危険があったが今後は一時的離脱もしくは長期間の行動不能になった際にもいくらか作業効率が落ちる可能性があっても止まるということがないので安心というわけだな。
そしてこのVer1達にはハッキングの対策もかねてネットワーク接続を一度アルビオンのサーバーを介してから大本…つまりは人工知能たちの中央電脳に接続するようにしている、アルビオンのサーバー通信は高度な暗号化をしているので横から読み取られることもないということだ。
「んじゃ、号令も終わったことだし…行きますか。」
『おそらくは未だ亜空間航行中ではありますが、アルビオンならば問題はないでしょう。航行中にアヴァロンの回収でも問題ありません。』
「んじゃあ…そうするか。たぶん相当すさんでるんだろうなぁ…あぁ…今から何言われるかわかったもんじゃねぇ。」
『最初にあの演習をしたときに覚悟していたでしょうに…』
「それはそうだけどさ、いざ言われるとわかるとそれはそれでつらいものがあるんだよ。それに…キスハとエルピダの誕生日プレゼントだって用意できねてねぇんだぞ?」
『そのことなら安心してください、こそこそあなたが用意していたものは生産していますから。もちろん微細な修正はしましたが…』
「なぁんでそんなことしちゃうかなぁ⁉」
娘たちを迎えに行くのはいいけど罵詈雑言から逃げることを禁じられたぞ⁉いや…悪いのは俺だから仕方ないんだけどさぁ…みんながみんなカンラみたいには思ってくれないわけで、シイナならばまだ多少はきつくはないだろうけどもモレッド・キスハ・エルピダの鬱憤は相当なものだろうからなぁ…もう腹をくくるか。
いや…ここは亜空間でわざわざ俺たちが回収しなくてもいいのではないだろうか?要は今回のモレッド達の鬱憤は俺に対する不信感、俺が殺意を持っていると思われているから起きたことだ、実際殺意自体は持っていなかったし死を恐怖させるために行ったものでそれは一定の成果を出した。むしろ出しすぎたからこそこうなったわけで…
「じゃあいっそのこと一度俺が死んでみるか…?」
『っ⁉』
「ぱっぱ死んじゃやだぁ!!」
俺のぼそっと言った一言でモルガン以下人工知能たちの表情が一瞬で緊迫し、聞こえてしまったカンラがあっという間にギャン泣きしてしまう。やらかしたと思った時にはもう遅く、人工知能組に捕縛されカンラは俺に抱き着いて「なんで死ぬとか言うのぉ!!」とずっと泣きわめく阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまった。
「やっちまったなぁ…」
この後なんでその発言をするに至ったかの説明とカンラが泣き止むまで実に半日以上を要し、キガラヌアコロニーを出港する予定が一日遅れたりした。
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モレッド視点
「…あと…二か月…」
家出を決意して警備が薄くなっていたアヴァロンを使ってお父さんとお母さんから逃げたら、勝手にアヴァロンが亜空間航行に入り目的地がサンデュールズのキスハが生まれたコロニーに設定されたことに気が付いてから早1か月。
私たちは叔母さんたちとの演習で文字通り死を覚悟した、叔母さんたちの機体は私たちが操る機体と比べれば化石にも等しい前世代機だったしその機体は何度か戦闘で撃破したこともあった。多少チューニングが施されているとはいっても私たちが負けるなんて考えられなかったそれを…あんな…
「実弾を装備してくるなんて…」
本当に最初エルピダの武装が破壊された瞬間はかなり驚いた、そこからは本当に瞬く間と言っていいほどの…前世代機とは思えないほどの鮮やかな蹂躙劇だった。
キスハ・エルピダ・シイナ・カンラが撃破されて、反応も何もなくなって、私がFM2を起動しても戦闘不能に追い込むのが精いっぱい。逆に私が撃墜された。
「なんでなんだろう…なんでなんだろうなぁ…私…そんなに…お父さんの…グスッ…」
家出してから私たちはほとんど会話という会話をしていない、キスハもエルピダも…シイナだって…
カンラが居ないって気が付いたのはアヴァロンが亜空間航行に入ってからだった、自動航行に入っちゃったアヴァロンを止めるすべを持っていなかった私達はカンラがアルビオン内にとどまっていることを知って連絡を取ろうとした。取ろうとしたけれども止めた、止めてしまった。
意地を張った?違う…カンラなんて捨てていけばいいと思った?違う…!お父さんもお母さんも信用できなかったから?違う!!
「私が…怖かったからなんだ…」
ただ怖かった、お父さんからなんて言われるのかがわからなかったから。それが叱咤や叱責ならばまだいい、一番怖かったのは失望だ。私は違法艦から救助された本当にキスハやエルピダ、シイナにカンラのような親から託された子ではなくてただたまたま救助された人間だから。
アルビオンにいる意味を、お父さんたちに家族だと認められなくなってしまうことが異常に怖かった。私が大けがしてヴァレットを廃棄するって言われた時もそう。『私の価値がなくなる』ということが一番怖いのだ。
聞きたい…お母さんの声が…お姉ちゃん達に抱きしめてもらいたい…でも…それ以上に…
「お父さんに…話したいなぁ…」
無理やりに近い形でアヴァロンに引っ張った妹たちのことを考えながら、今一番年上というだけでみんなのこの先の命運を握っている私はそれがお父さんが常に抱いていた『家族の命を守る』という責任の一部だということを知った。
すごいと思った、これが家の長が背負う責任なのかと。
「謝らなきゃ…まずはキスハたちに…」
生活リズムもばらばらになっちゃって、髪も肌もボロボロで目の下にはクマもできてるけどそれでもやらなきゃいけないことは決まったから。
私はみんなを呼んで会議をすることにした、亜空間航行が終わってからの身の振り方を…『お父さん達の真意を知るための行動』をみんなで話し合うのだ。
カケル「これでウチの人手不足は解決したな!!(*^^*)」
モル「まずは育成からですがね"(-""-)"」
グィ「( ゜д゜)ハッ!モレッドちゃん達の健康が損なわれている気がする!!」




