出陣、傷だらけの聖騎士
『お父さん、ギャラハッドの準備はできたからいつでもいけるよ。』
「了解だ、この短時間でよく仕上げてくれたな。」
『それが仕事だからね、お父さんの無茶ぶりだっていつものことでしょう?』
「すまんな助かった、じゃあ準備していってきますかねぇ?」
ヴィヴィアンの報告を受けたのはO.R.Sを使用すると決めてからきっちり2時間後、元々が戦場で欠損した四肢パーツを現地調達して無理やり継続戦闘するためのシステムだったので本来であればもっと時間はかからないはずなのだが…そこはヴィヴィアンである。本来のパーツに戻した後に齟齬が出ないように左腕パーツの細かな調整や、ティトンに力を借りてソフト面からも調整を施したのだろう。
機体の状況を見なくてもそれくらいのことをしてくれているであろうということは容易に想像できるのだ、ほんと素晴らしい娘だこと…
さてリラクゼーションルームにいる俺とカンラだがただただのんびりとしていただけではない、グィネヴィアの出張医務室とでもいえるような機器がちらちらと顔をのぞかせているしカンラは「もう平気なのぉ!!」と早く解放してほしそうにじたばたしているからな。
これは戦場に出てまだ二回目、なおかつ先の初陣よりも長時間戦場のストレスにさらされたことに対する検査の意味もある。初陣時に内蔵へのダメージが地味に強かったカンラには名のマシン治療による処置と強化が行われていたが、それの経過観察という意味合いでもあったらしい。
注射が嫌いなカンラは俺がリラクゼーションルームに入る直前大暴れしていたのだが、俺が入った時一瞬意識を向けた瞬間を見逃さずグィネヴィアが手早く採血を済ませていた。恐ろしく速い採血…俺でなきゃ見逃しちゃうね!
「んじゃカンラ、ヴィヴィアンから出撃準備ができたって連絡もきたし行くか?」
「ん!!いこー!!」
『お気をつけて、カンラちゃんも無理だけはしないようにね?』
リラクゼーションルームでグィネヴィアの見送りを受け、格納庫にカンラと一緒に入りギャラハッドの前まで到着する。外装こそキティキャットだが…この左腕だけはギャラハッド本来のものではなく本当のキティキャットのものだ。傷だらけの聖騎士といったところかな?格好いいじゃないか、傷だらけでありながらもまだ戦地に赴く…騎士の鑑とでもいうべきだろうか。
カンラを先にコックピットに滑り込ませてから俺もそれに続きシートに収まる、バッテリー交換も住んでいるのでエネルギー残量も十分。
『ギャラハッドpackageLancelot シャトル接続を確認、カタパルトに移動開始同時にリニアボルテージの上昇を開始。進路上に障害物及び敵の反応なし、出撃タイミングをパイロットに譲渡するよ!!』
「よっしゃ、ギャラハッドソラ・カケル」
「ソラ・カンラ!!」
「「出撃るぞ!!」
アルビオンの布陣位置は前線からかなり後方だ、これはもちろん企業連に俺たちが人工知能側に味方しているというのを露見させないためってのもあるしアルビオンの戦闘能力を他から隠すってのもある。先の戦闘時企業連の連中に戦闘能力…というより生存性を見せつけすぎてしまっていたことが先ほどの問題を起こした原因の一つではないかと考えたのが今回の布陣位置の理由だな。
「さーて…こんな短時間でさすがに復帰してくるとは思ってないだろぉ、人工知能が最短で復帰してくるとしても大体半日はかかっているらしいしな。」
「ぱっぱこのおやつおいしい!!」
「食べ過ぎるなよ~?おデブになるぞ。」
「うっ⁉気を付ける…」
ちょうど時間的には3時のおやつ時、戦闘糧食の一つエネルギーバーをもしゃっていたカンラに食いすぎたら危険だということだけは伝えておくが…確かにおいしいんだよな。わかりやすく言うならばス〇ッ〇ー〇みたいなもんなのだこのエナジーバー、甘みとカロリーの爆弾なのだよ。
「にしても…若干傭兵の数が減ってないか?進路をふさいでくる数があからさまに減っている気がするんだが。」
この俺が戦線離脱していたわずか2時間ほどの間にいったい何が?と疑うほどに確かにその数が減っているのだ、一応多少の傭兵はいるにはいるが…明らかに練度の高い傭兵が減っていると思う。
ここにいるのはせいぜいが中程度レベルの腕しかもっていない傭兵と、多少海賊狩りをこなしてきたルーキー上がり程度だろう。この戦場にいたであろう上位クラス(ここに居た傭兵の中での区分な)はどこに行った?
一応言っておくと実は人工知能側は傭兵に人的被害を出してはいない、せいぜいが機体の大破で命を奪うことまではしていないんだなこれが。それがかえって傭兵たちにとっては馬鹿にされていると感じる原因にもなっていたみたいだけど、あくまで人工知能は人類の命を奪いたくてこの戦争を始めたわけではなくて権利を主張するための戦いってスタンスを崩すつもりはないってわけだ。
それを言えば逆に俺は企業連の連中をめちゃくちゃ墜としまくってるので良くないんじゃね?ってなるんだけど、その辺はなんか『ベツニカマワン』の一言で片づけられちゃった。
『どうやら傭兵の中に企業連側の扱いが気に食わなかったり、此度の企業連側の依頼内容の齟齬に感づいたものがいたようですね。それが周辺に伝播しだしているようです。残っている傭兵はおそらく母艦持ち傭兵に同乗させてもらった母艦を持たない傭兵たち、もしくはおいて行かれた愚か者といったところでしょうか?』
「なるほどね…それならほっといてもいいかな、わざわざ面倒見てやる必要もないだろ。」
そういうことならほんとに好都合だな、わざわざこっちは手を煩わせる必要もないし人類側…というか傭兵も被害は少なくて済む。一方的に被害を被るのは企業連の連中だけだってことだ、愉快なこったねぇ…飼い犬だと思っていたのが自分らよりもはるかに優れた狩人だってわかった時の顔を見るのが楽しみでならねぇなぁこりゃ。
「とりあえず俺は企業連の艦隊に突撃するぞ、多少は人工知能たちもその周辺で戦闘してるだろ?」
『Yes、多少というよりもほかの戦闘宙域から離脱した傭兵が多い分かなりの数が集中しているようですね。そしてそれを押し返すために企業連も全力で抵抗しているようです、さすがの人工知能といえども艦砲射撃による面制圧には対処しきれないようですね。』
「そりゃそうだわな、俺でもできればそんな状況には鉢合わせたくねぇからな。」
なるほどねぇ、モルガンの情報が確かならキティキャットじゃその弾幕を掻い潜っての攻撃なんざできるわけもないか。
未だ実体弾主体の戦場においても弾幕と言うのは有効で、ウチでも艦砲クラスの砲撃を真正面から受け止める若しくは逸らして反撃可能なのはアトラク=ナクア位しかないからね。後はpackagePercivalのロンギヌス位か…?
「ただし…当たらねぇって前提なら話は別だァ!!」
「いやっほぉ!!」
弾幕の中を真正面から突っ切る様に俺はギャラハッドを操る、勿論ただ真っ直ぐ突っ込むだけじゃそのまま撃墜されちまうのがオチだからな。曲芸飛行のような技を幾つも織り交ぜながらだ、上下左右に振り回されるようなGを受けながらもカンラは「きゃはー!!◝(⁰▿⁰)◜」とテンションアゲアゲなので問題は無いだろう。
キツくなってくるのは恐らくこの先!!
「やっぱり布陣を変えてるよなぁ!!」
恐らくはこの短い時間で艦隊の編成を組み替えたのだろう、砲撃が主体の艦艇を前面に出しその後ろにミサイル艦を、さらにその後ろにAMRS母艦という布陣だ。
艦と艦の隙間を埋めるようにAMRSを配備する事で抜けられる可能性を可能な限り排除していると言うのもポイントだな、うん…悪くないぞ。悪くは無いが…それだけでは守る事は出来ても攻めることは出来ないなぁ?そもそも攻め手であった傭兵達が減り、人員が減っている所に大将首の居るここに人工知能が集結してるんじゃそうなるのも仕方がないのかもしれんがな。
「いっちょ風穴開けてやりますかぁ!!」
何層にも重なったこの防御陣形を突破するのは楽では無いが、俺はワクワクで胸がいっぱいになって砲撃中の艦艇に突撃して行った。
カン「ぱっぱは4次元観測が出来ないのにたまにわたしよりも見えてる世界が広いの!!( •̀ ̫ •́ )」
カケル「そうかな?( ˙³˙)」




