叔母達は規格外
「今日はイカロスでいいの?」
「キャスパリーグ!!反応がいいのは大事!!」
「アトラク=ナクアが本当に優秀だと気付かされたのです。」
「わたしとカンラはファルコンでいいの?」
「:(´◦ω◦`):」
「おう、今日はお前達の叔母たちがどれだけ凄いのかを知ってもらおうと思ってな?」
アルビオンのシステム掌握を行った翌朝、モレッド達を集め唐突に始めたのはモレッド達第9世代3機+第3世代1機のオーバースペックチーム対マーゾエ・グリテン・グリトネア・グリトー・テュロノエによる第3世代3機+第2世代1機のロートル組による対戦式の演習だな。
勝敗条件はチーム全機の撃墜、圧倒的にモレッド達の方が有利だろうが...舐めてもらっちゃ困る。
マーゾエ達がどれだけ優秀なのか、サポートだけでは分からない部分が見えてくるだろうからな。敗北を知るといい娘達よ、1度も敗北が無いなんてことを俺は許さない。
前にも言ったかもしれないけど「一度も敗北を経験したことの無い人間ほど脆いものはない」が俺の持論だ、モレッドだけで言えばルガートゥリスコでのアレは敗北と言えるのかもしれんが...完膚なきまでに敗北したのは俺との演習以外では無い。しかも一応はスペック上でも俺のギャラハッドには勝てない機体でな。
だからこそ、今回のスペックにも劣る機体に負けると言うのはすごく大事な事なのだ。一応相手の機体は一度乗ったことのある機体、特性も弱点も全てわかっている上でそれを突かせて貰えないという事の恐怖と絶望感を味わってもらいたい。
故に今回の戦闘ではロートル機側には15発に1発実包が込められている、すぐ近くに死の恐怖が迫った時娘達はどう対応出来るのか。その恐怖に飲まれて立ち直れなくなるのか、それが今回の演習で行う事だ。
シイナとカンラには厳し過ぎないかって?本来の傭兵家ってのは登録したら特に訓練もなしに実戦だぞ?キスハやエルピダもシミュレーター自体は経験した上で実戦に挑んでいる、シイナやカンラもシミュレーターはこなしているからな甘やかしはしない。唯一違うのは相手が同じロートル機でも練度も精度も段違いという事だけだ。
勿論人工知能組は実包をバイタルゾーンに当てるなんてヘマはしない、入射角も何もかもを計算した上で跳弾も考慮して発砲するんだからな。
ただし…実際に油断していた時にそれを食らったら落ち着いていられるかな?
「ライオンは子を谷底に落とすと言うが…傭兵は身内戦で一方的に見えた相手の方が有利だと言うことを教えてやらんとな。いい加減戦場と言うものを舐め腐って来た所だろう?モレッド・キスハ・エルピダ。」
『…嫌われても知りませんよ、まぁあの子達ならば意図には気が付くでしょうけれども。』
「それならそれでいいさ、但し今回は終わってもヒントを出す事も口出しすることも禁止だ。モロノエ達にも同様にな。」
『承知しています、いい加減モレッド達も真の恐怖を知るべきですからね。戦場の…対人戦における死の恐怖を。』
ブリッジで俺とモルガンはそのように会話を終える、さぁ…踊って見せてくれ娘達。叔母の膝の上に座っていただけだということに…俺の手のひらで踊ってくれ。
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『アルビオンカタパルト解放。イカロス・キャスパリーグ・アトラク=ナクア、シャトル接続確認完了。移動開始。1番から3番のリニアボルテージ上昇開始、出撃進路安全確認完了。全システムALLGREEN、射出タイミングをパイロットに譲渡するよ。頑張って。』
「ソラ・モレッド、イカロス出撃ます!!」
「ソラ・キスハ、キャスパリーグ出撃るよ!!」
「ソラ・エルピダ、アトラク=ナクア出撃ます!!」
『続けてファルコン・ファントム・ハウンド・アークホーク・ファルクルム、シャトル接続確認完了。移動開始、4番から8番カタパルトのリニアボルテージ上昇を開始。出撃進路上の安全確認完了、全システムALLGREEN、射出タイミングをパイロットに譲渡。行ってらっしゃい。』
「ソラ・シイナ!!」「ソラ・カンラ」
「「出撃来ます!!」」
『マーゾエ、01ファントム出撃ます』
『グリテン、02ハウンド出撃ます』
『グリトネア、03アークホーク出撃ますよ〜』
『04ファルクルム、グリトー』『同じくテュロノエ』
『『出撃』します。』
全機の発艦を確認、各自が演習開始地点に着くまではもう少し待機だな。
発艦シークエンスを担当したヴィヴィアンが若干苦しい顔をしているのは仕方ないだろう、モレッド達は「これなら勝てるもん!!」と意気込んでいるがそれは高望みすぎるということをヴィヴィアン達アヴァロン型の人工知能達は知っているのだ。
現在時刻は13:00、つまり午前中のうちに突然演習をするぞと言った訳でヴィヴィアン達にも突然だった訳だ。
当然猛反発は食らった、特にグィネヴィアからの口撃は凄まじいものだったからな。だが「死の恐怖も知らずに何時まで戦場で生きていられる?」という俺の一言で静まった、グィネヴィアも白兵戦はこなしているのだ。そう言った命のやり取りにはモレッド達に比べて一日の長がある、特にAMRSと言う鎧越しなのか…それとも1対1の生身でのやり取りなのかという違いがな。
実包も入れるとなれば当然の反応だった、だけれど全て握りつぶした。恐怖に優る教訓は無いからね、傭兵業には。
『全機演習開始位置に到着、勝利条件は敵チームの全滅。敗北条件は味方チームの全滅です、健闘を祈ります。』
「各機、状況を開始。持てる力を出し切って敵をねじ伏せろ。」
『『『『『「「「「「了解」」」」」』』』』』
さて...娘達よ、負けていい。恐怖に怯えてもいい、泣いてもいい、縋ってもいい。だけど命を捨てるようなことだけは許さない、逃げてもいいんだ。逃げてでも生き残って命を拾うという事をして欲しいと俺は思う、生き残ったからこそ出来ることがあり学ぶことが出来る。
逃げる事を恥だと思うな自分を犠牲に誰かを逃がそうとするな、全員が生き残る方法を探すんだ。
「俺は酷い親だねぇ全く...」
『ではそれを承諾した私も同じですね?』
「すまんな、嫌な役目を押し付けて。」
贖罪のように呟いた言葉にモルガンは言葉を返してくれる、それだけでも俺は救われる気がする。
生きる為に他者を排斥する、生きる為に主義主張の合わないものを滅ぼす。人類が当たり前のようにやってきたことだ、本来ならばモレッド達の様な年端も行かない少女たちにやらせるべきことでは無いだろう。
だが彼女達は自分の意思でこの世界に踏み込んだのだ、ならばせめて先達として教えられる事は可能な限り伝えて行くべきだろう。
「戦え...きっとその経験がお前たちをもっと強くするし、きっと生き残る為の力になるから。」
近々起こるであろう人工知能対人類の大戦に、少しでも多くの手札を揃えたいという思惑もあった。
そうしてブリッジから演習宙域に目を向けた時、戦闘の光が瞬き出したのだった。
ソラ「一応実包は貫通力は下げているぞ、但し着弾時の衝撃はモロに伝わるからその辺が違うところだ。簡単に説明するならHESH弾みたいなもんだな。」
モル「HESH弾とは日本語訳にすれば粘着榴弾と読みます。実際に着弾地点にへばり着くのでは無く、弾頭が変形し入射角が少ない場合の跳弾を防ぐという役割を持ちます。今回の実包は貫通力を下げつつ、余計な跳弾を防ぐ為に用意されました。榴弾の様に炸裂したりはしませんのでその辺はご安心ください。」




