怒る娘と慈しむ母と困る父
ぴりっとした空気になった瞬間に俺とヴィヴィアンが慌てたように3人を宥めだす、そりゃそうだろうギンガカンスはいくら温厚な(統計なんてないのであくまで今までのわずかな時間での感想だが)宇宙生物でもどこに逆鱗があるかなんてわかんないんだから。
「お…落ち着けお前たち!!」
『あわわ…怒らないでぇ…』
ヴィヴィアンはギンガカンスの声こそ聞こえなくても3人の雰囲気が変わったことを察知して宥めてはいるんだが、どうにも収まる気配がない事にかなりパニクってしまっている。
正直俺も想定外と言わざるを得ないだろう、どう考えても3人がここまで怒ることなんて今までなかったのだ。実際この3人が怒るようなことになる前に俺やモルガンやヴィヴィアン達が先んじてその元凶を叩き潰すなりなんなりしていたので、実際に怒ったところを見たことがないと言うのも理由ではあるのだが。
モレッドは両手を握りしめて歯をむき出してプルプル震えているし、キスハは髪の毛を逆立てて「グルルゥ…」と唸るし、エルピダなんて無表情になって皇鋼蜘蛛の足を広げて威嚇してるし…すごいことになっちゃってるよもうこれ。
「「「なんつった今…」」」
『お父さん…やばいってこれぇ!?』
「おおおおお…落ち着けお前らぁ!?」
3人が女の子として出しちゃいけないようなドスの効いた声でギンガカンスさんに声をかけております!!Dangerです!!やばいって!!
『あんたらがとうさんと呼ぶ人間如きがそこまで価値あるんか言うとんねや?』
火に油を注がないでくださいギンガカンスサン!?ここまで来たら俺達じゃ押さえきれんのですよ!!
勘弁してくれぇ!?
「あははは!!おかしいねぇ、何も知らないくせにそこまで言うんだぁ…」
「とと様ぁ?あたしたちバカにされてるんだよねぇ?もういいよねぇ?」
「めずらしいとか…そういうのもかんけいない…」
「「「ぶっ殺す!!」」」
『!?なんやねんこの殺気はぁ?!』
生来の身体スペックを越えたとすら思える勢いで格納庫に向け走っていった3人に、俺とヴィヴィアンは思わずその場に立ち呆けてしまった。
数瞬ののちにヴィヴィアンが『お父さん!?やばいって止めなきゃ!!』と声をかけてくれたおかげでなんとか俺も気を取り戻したので急いで格納庫に向かったのだが…
すでに手遅れ、パイロットスーツすら着ていない状態でコックピットに乗り込んで出撃シーケンスに入っちゃってるんだもの。
ちなみにギャラハッドは出撃できません、出撃後のメンテナンスの為に装甲とかが取り外されちゃってるからね!!
「止めろモルガン!!出撃させるな!!」
『それが…止まらないのです!!パイロット側からの緊急出撃コードによってオートで出撃してしまいます!!』
「なんてこったい!!おい!!モレッド!!キスハ!!エルピダ!!止まれ!!俺がバカにされたくらいでお前たちがそこまでする必要なんてないんだぞ、少し落ち着け!!」
「「「落ち着いてなんていられるもんか!!」」」
「っ!?」
アヴァロン側からの出撃停止は受け付けず、俺からの制止も聞かないほどに怒り狂うとはそんなに何が気に食わない?所詮は養父でしかないんだぞ俺は!!
「お父さんがバカにされて…」
「いっぱい大事にしてくれたアタシたちが…」
「おこらないわけないんだからっ!!」
「ソラ・モレッド!!ギャラハッド・ヴァレット!!」
「ソラ・キスハ!!ケット・シー!!」
「ソラ・エルピダ!!アラクニー!!」
「「「出撃ます!!」」」
3機が勢いよくカタパルトから射出され、すぐに方向を転換しギンガカンスに砲門を向けて攻撃しだす。
3機ともパッケージは攻撃に偏重したものにしているので爆炎が一瞬でその巨体を覆い隠してしまう、だがそれでも止めることはなく本気で撃ち尽くすと言わんばかりに撃ち込み続けているのだ。
『…なるほどねぇ、ただの人間如きがそこまで…』
ささやくように聞こえた瞬間、爆炎の中からギンガカンスは悠々とその姿を現した。まるで3人の攻撃など蚊ほども痛くはないと言わんばかりに。
魚類には哺乳類の様な瞼は存在していないが、ギンガカンスには存在しているようでゆっくりとその瞼を開け3人をその視界に収めた。
そして次の瞬間、俺達には見えなかったが確かに攻撃をしたようだ。
「うあっ!?」
「んぐぅっ!!」
「いやっ!?」
3機はその身体をよじらせるように動いた後停止した、ヴィヴィアンが3機に居る叔母たちに確認を取りバイタル自体は正常だということは確認してくれていたが…
「感応波による精神ショック攻撃…か。」
『おや…わっちが何をしたかわかった様やねぇ?』
ここまでの事を平然とやってのけるならばもはや俺達にもどうしようもないということくらいわかってるだろうに、あえてこっちにも何か付け入る隙があるかのようにふるまってくる。一体何が目的なんだ?
元々人間ってのは他者を疑って生きる生物だ、言葉の違いでも肌の違いでも、何か一つ違って見えればそれを排斥に繋げるような弱くて愚かな生き物だぞ?そんな1個生命に何をこいつは求めているというんだ…
『なんとなくわかったような気がするわぁ、この子たちがなんであんたに着いていくのかが…ねぇ?』
「そいつは光栄だね、記憶でも読んだかい?」
『流石にそこまで無粋な真似はせんよ、あくまでこの子らがぶつけてきた感情を読み取っただけやねぇ。ようもまぁ、見た目も、種の違いも、血のつながりすらないような子をここまで慈しんだもんやねぇ。』
「あんたにそこまで言われるなら光栄だな。」
相変わらずわからない、が少なくとも先ほどの様な敵意の様なものは含まれていないということはわかった。
その言葉を告げた後、おもむろにアヴァロンの後部カタパルト上に目を向けてまるで『こっちに来い』と言っている様だ。感応波で伝えればいい物をとは思うがそれにこたえるように俺は後部カタパルトの方に向かう事に。
無論アヴァロンはでかいので足だけで向かうにしたら数十分はかかってしまうので、移動用のビークル(ポケバイみたいなやつが壁面に常備されているぞ!!)に乗って移動。
『わっちもあんたさんに任せて見よかと思うてねぇ、あそこまで子らに思われる親なら…ね?』
「あん?勘弁してくれよ、あんたに少なくとも子がいるようには見えないし予約も勘弁だぞ。」
『言うやないか、でももう決めてしもたしなぁ。』
こっちの移動速度に合わせるようにゆっくりと後部カタパルトに向かうギンガカンスが突然そのように言い出すので俺も慌ててしまう、正直言って子のお世話なんて大変なんだぞ!!アヴァロンのスペースにいくら余裕があるからって言っても既に結構ギリギリなんだからな!!
具体的にはキスハとエルピダ用の部屋で!!キスハは元々コロニー時代の生活空間をイメージしたがゆえに俺やモレッドのような部屋3部屋分のスペースを打ち抜いて作ったし、エルピダに至ってはローゼン・エーデルシュタインでの自由行動時の行動から全員から「エルピダも自由に糸を吐ける空間にしてあげようよ。」との意見多数によりキスハ並みの部屋のスペースを取ったのだ。
結果としてアヴァロンの乗組員用のスペースは精々がキスハ・エルピダクラスの部屋を一つ用意できるかできないかくらいしかない、勘弁してくれ!!
「大体…あんたら重力下も気圧下も適応できるのかよ。」
『おや、口では反論しても受け入れてくれるようなことは言うんやねぇ。』
「若干諦めてるようなところはあるよ…」
『なら大丈夫やねぇ、うちらは元々何処にでも行けてどこにでも生きられる者やから。』
とんでもない事を言ってくれるもんだと思いながらも会話しているうちに後部カタパルトにまで到着してしまった、パイロットスーツ自体は脱いでいなかったのでヘルメットを被りなおしてヴィヴィアンを気密隔壁に退避させてからカタパルトの隔壁を解放する。
解放した隔壁の向こう側にはこちらを向いて佇んでいるギンガカンス、いやぁ怖いねぇ…全く。
『さて…改めて、そこにいる血も種族も異なる子を慈しむ稀有な人間。名を聞いておこう。』
「傭兵艦アヴァロンオーナー、傭兵ソラ・カケル。」
『あんたらの言うわっちら『ギンガカンス』には一つ避けられん悲しい性があってなぁ、要は子を育めないんよ。故にわっちらの種族は徐々にその数を減らし、遂には絶滅の一歩手前。要はわっちが最後の1個体いうわけやなぁ。』
「…そんな告白をして何になるってんだ?俺には養殖なんてできんぞ?」
『言うやないか、まぁええ。続けるで、わっちに胎には命が宿っとる。次代に繋がる最後の命や、それが2つ。』
「双子ちゃんかい…」
稚魚ですらないとは…いや、シーラカンスは卵胎生って言われてたっけ。ならまだ胎に居るってのも変な表現ではないんだろう。
そんなことを考えていたら急にギンガカンスさんが光に包まれていった、あまりにもまぶしくて手で光を遮りそれでもまだまぶしいので目も閉じるほかなかったのだが、ふとその光が弱まったような感じがしたと同時に俺の手を引きその手の上に2つの何かを置く感覚があった。
それは柔らかい膜の様なものに覆われていて、まだ目が開けないしパイロットスーツを着ているはずの俺でも暖かさと鼓動を感じられた。
『あとは託すよ、わっちの子ら…確かに預けた。どうか健やかに生きなさいな「シイナ」「カンラ」。母はいつまでも見守っていますよ。』
その言葉が聞こえた瞬間、俺は目を開けたがそこにはギンガカンスの姿はなく俺の腕にはやわらかくそして温かい双子が抱かれていたのだった。
ヴィ「3人があんなに怒ったの初めて見た(;゜Д゜)」
グィ「私たちは聞こえませんでしたからねぇ(´・ω・)」
モゴ「つられて撃っちゃうかと思ったよ(゜Д゜;)」
オヴ「どうやって宇宙空間上をあんなに自由に動けるんだろう( 一一)」
マー「ヴァレットとかの回収しなきゃ(;・∀・)」