宙の大地の夢想曲
「さて…始めるか…」
俺の目の前には家族が集合している、その表情は何時もののんびりした感じではなく緊張こそ無いものの引き締まったものとなっていた。
キスハ・エルピダもこの空気にこそ飲まれてはいないが少し身体が強ばっているのが分かる。
「じゃあこの後、ローゼン・エーデルシュタイン標準時で12:30に迎撃を開始する、最終防衛ラインである俺たちはまだ戦闘こそ始まっていないが既に最前線ではコロニー防衛を行っている賊軍との先頭が開始されているし、それなりに突破もされているそうだ。」
その報告に下の3姉妹はより顔を引き締める、いい顔をしている。自分の役目をしっかり理解している証だ、なら次にかける言葉は決まっている。
「コロニーの落下迄はまだ3日ある、だがAMRSを含めた艦隊自体はコロニー落としが成功する様にこちらを殲滅するつもりだろう。だが、それは成功しない。お前たちって言う最強の盾があるんだからな。」
ニカッと笑って3人に言えば「当然っ!!」と顔を綻ばせる、よく出来た子達だよホントに。
「よしっ、戦闘自体は先頭がこちらの射程圏内に入った瞬間に始まる。お前達はギャラハッドに手を出させない事、レーツェル・フリーデンに1機たりとも降下させない事が目標だ。出来るな?」
「「「はいっ!!」」」
「よしっ!!なら作戦開始だ、健闘を祈る。」
パタパタとブリーフィングルームから走り去っていく3人を見送ってから俺は再度残ったモルガン達に目を向ける。
「お前達にも負担をかけちまう、すまんな。」
『お気になさらず、私達も同じ気持ちですから。』
『そそっ、もうこの国は仕事だけの関係じゃないしね。』
『はい、ハーレイ殿下もシュトラーセ殿下も大切な子達ですし。』
『これだけ便宜を測ってくれるなんて珍しかったよね。』
『その為ならちゃんと働くって。』
『ね…眠い…』
オヴェロンがマーリンを軽く小突いているのをみて俺は若干気が抜ける、だがそれも俺にリラックスさせようという心遣いだと言うことは理解出来るので気を緩めながらも言葉を発する。
「総員、己が任を全うしてくれ。」
『承知しました。』
『『『『『了解!!』』』』』
その後俺はギャラハッドに向かった、俺達なら必ずこんな仕事も全う出来ると信じて。
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『コロニー、迎撃予定ラインに到達を確認。』
「了解だ、モレッド・キスハ・エルピダは対艦・対AMRS戦準備。敵前衛は俺達の一個手前の防衛ラインにまで到達してる、食い破ってきたヤツらに容赦なんて要らんぞ。徹底的に潰せ、お前達なら何も問題は無いだろう?」
「「「了解!!」」」
ふぅっと息を吐き気合いを入れ直す、計算上ならこの迎撃地点でコロニーを破壊すれば高濃度汚染された破片も惑星に落下するのは最小限…と言うか綺麗に四散してくれるはずだ。
それよりも近いと少しでも落下する、大気圏に落下してる最中に燃え尽きこそするだろうが後に燃え尽きたそれは雨なりになって地上に降り注いでしまう。そんな二次災害はごめんだ。
「ロンゴミニアド、狙撃準備。」
俺の声に反応して、モルガン達の行動が始まる。
モル『了解、第1・第2縮退炉の系統切り替え。第1次接続開始。』
ヴィ『全開閉器を投入、接続開始。』
オヴ『両縮退炉は全力運転を開始、出力限界まであと1.39。』
モゴ『エネルギー流入回路に問題なし。』
マー『全インバータ設備、問題無し。』
モル『了解、第1から第462防護隔壁閉鎖。第2次接続。』
オヴ『補機の全力運転を開始、砲身防護磁場発生器への流入開始。』
マー『エネルギー流入幅に問題無し。』
モル『第3次接続。』
ウチのAI達が淡々と作業を続ける中、等倍カメラモニターに戦闘の光を強く捉えた。
早いな...と思わざるを得ない、少ない数で防衛ラインを築く他なかったこっち側に対して向こうはほぼ全力に近い。
ならばこっちの最終防衛ラインも動き始める他無いだろう。
配備された国軍のAMRSが母艦から出撃し、陣形を組み出しているしな。
モル『第3次接続。』
マー『了解、全エネルギー甲板上増設貯蔵タンクへ。』
ヴィ『エネルギー伝達力は最高出力を維持。』
モゴ『砲身冷却システムは全力運転中、射撃システムに問題なし。』
オヴ『エネルギー変圧器を投入、流入開始。』
ヴィ『インジゲーター確認、問題無し。』
モゴ『フライホイール、回転開始。』
オヴ『両縮退炉からのエネルギー量は最高出力を維持。』
これだけの超高出力をAMRS兵装から打ち出すと言うのだから、これだけ厳重な管理になるのは致し方あるまい。しかも操縦手は生身の人間だしな、まぁもし爆発しても被害を被るのは俺だけというのが救いか。それを起こさない為に皆頑張ってくれているのだけども。
マー『第3次接続問題無し。』
モル『了解、モレッド・キスハ・エルピダに通達。出撃開始。』
「「「了解!!」」」
「ギャラハッド・ヴァレット改、ソラ・モレッド出撃ます!!」
「ケット・シー、ソラ・キスハ出撃ます!!」
「アラクニー、ソラ・エルピダ...出撃きましゅぅ!!」
モル『エルピダは先頭の敵集団を撃滅、モレッドはそのフォロー、エルピダは後方への威力制圧射撃を。』
的確な指示を飛ばすモルガンに俺は苦笑する、俺が居なくてもワンチャン大丈夫かもしれんなぁ...とな。
そうならんように頑張るだけだがね。
ヴィ『粒子加速器運動開始安定領域まであと0.2。』
モゴ『ガンマ線漏出を確認!!事故回路遮断!!』
マー『蓄積量減少は許容範囲内!!』
オヴ『保護回路運動開始、復帰運転を開始。』
モル『第4次接続。』
モゴ『最終安全装置解除!!』
ヴィ『撃鉄起こせ!!』
「あいよっ!!」
ロンゴミニアドに備え付けられたバーグリップ兼撃鉄を引き寄せて発射の準備は整った。
後はエネルギーの充填完了次第撃ち込むだけだ。
モゴ『射撃用所元、最終入力開始!』
ヴィ『恒星フレア、及び、重力レンズによる誤差修正、プラス0.0009』
モル『射撃は、目標コロニー最重量ブロックを自動追尾中』
マー『ロンゴミニアド、ガンマ線防護磁場安定』
モゴ『照準器、調整完了』
オヴ『ガンマ線量増大中、破壊可能量まであと0.2、0.1』
モル『第5次、最終接続!』
ヴィ『全エネルギー、ロンゴミニアドへ!!』
モゴ『解放機、砲身防護磁場発生器、稼働問題無し!!』
マー『ガンマ線収束レンズ、最終補正パルス安定。問題なし。』
モニターに表示されるエネルギー流入量や、砲身防護システムの稼働状況表示を視界の片隅に置きながら俺はその時を待つ。
「まさか、Artherの初お披露目がこんなド派手な事になっちまうとは思わなかったなぁ。」
『あなたの望んでいた絶好のシチュエーションではありませんか?』
「まさか、ここまで人命を背負ってなんて望んじゃあ居ないよ。」
『では、不本意ですか?』
「それも違うな、目に見えて人命を救えるなんて傭兵冥利に尽きるってもんだ。」
独り言の様にボヤいた言葉にモルガンが反応してくれたので本心を伝える、間違いなくこれは俺が思った事だと。
普段は絶対に使わないロックオンシステムを無理やりアヴァロンと同期させて、絶対に失敗しないようにしたのもそのためだ。
トリスタンを使ってる時でさえあくまでも偏差射撃に拘ってた俺が、だぞ?どれだけ失敗したくないかがよく分かってくれただろう。
ヴィ『ロンゴミニアド、発射点まで後0.2...0.1!!』
モゴ『発射点突破!!全回路直結!!』
モル『発射!!』
「発射ァ!!」
「ヴォンッ!!」と唸りを上げロンゴミニアドの砲門からガンマ線レーザーが放たれる、コロニー弾着までは凡そ5.2秒。
レーザーを放ち切った砲身は強制冷却の為のフィンが解放され、冷却剤が大量に放出されている。
『Rhongomyniad gun barrel ejection standby』
モニターに表示されたそれを許可しようと指を伸ばした時...
モル『!?コロニー健在!!』
「なにぃっ!?」
聞きたくもない報告がモルガンによって聞かされるのだった。
ヴィ「ヴェッ!?( ・᷄ᯅ・᷅ )」
グィ「何が起こったんですか?( 'ω')」
モゴ「コロニーが...破壊出来てない...( ´・ω・`)」
オヴ「再充填開始した方がいい!?:( ;´꒳`;)」
マー「えぇい!!まだだ、まだ終わらんよ!!( ゜д゜)」