来たる不穏の序曲
俺達が『アシェンプテル・ヴァールハイト』に滞在してから早1週間が経過しております、その間勿論何もしなかったという訳はなく教導機として訓練に赴いたり、家族皆で遊びに出たりとそれはそれは毎日が充実しておりましたとも。
ちなみに、我が家一同対大隊戦については我が家側の圧勝となっております。俺とモレッドが1人で1個中隊を相手に、キスハとエルピダで1個中隊を相手にして合流なぞさせん!!と言わんばかりに一方的な蹂躙劇を披露致しました。
あまりにも一方的過ぎたので「やっべ...さすがにやり過ぎた...?」と思ったのだが、決してそんな事はなく隊員一同「見た目に騙されたつもりはありませんでしたが...これが戦場の空気を感じた者との差なのですね、これ程若き少女達にすら我々では手も足も出ないとは...ソラ殿の仰っていたことが僅かながらでも理解出来た気がします。」と言ってくれた。
んで、その後はモレッド・キスハ・エルピダが感覚的に才能を感じた人にアドバイスをしていたぞ。
モレッドは空間認識能力に長けた人に「目で見るんじゃなくて肌で感じるんだよ、ん〜...殺気とかを感じるとさピリッとした感覚とか無い?それを相手の位置とかの把握に役立てる感じかな?」と割と感覚的な事を、キスハは対G能力に長けた人に「急加速・急制動も大切だけど、最高速を維持して進路変更をする技術も大事かにゃ〜?アポジモーターで姿勢制御は自動で制御出来るからメインスラスターでの方向転換を練習するべきかも?」と割と的確な支持を、エルピダは命中精度の高い人に「えっと...あの...その...うぅ...ごめちゃい...そのぉ...」と声をかけたはいいけど人見知りと言うか恥ずかしがり屋が発動しちゃって上手く話せない状況に、見かねたモルゴースが代理で話していたぞ。エルピダに呼ばれた人達は恥ずかしがるエルピダを見て思わずほっこり、仕方ないね...可愛いもんね。
そして実は大隊全員の運用データを収集していたヴィヴィアンとマーリンがこっそりとシュトラーセ殿下に集めたデータを渡していたりする、今頃ハーレイ殿下の手に渡ったそれを使ってより効率的な装備に変更されるだろう。
実際既に納入可能分は納入開始されてるらしいしな、良きかな良きかなである。
んで教導機の出番は週に1度程度で構わないと言われてたのでそれ以外の日は家族水入らずで遊んだり、王城に招かれて個人的な集まりをしたりしていた。王城では第4妃様とシュヴァイゲンさんがモルガンと何やらコソコソ話したり、動画を撮影していたりと俺が入る隙間などないので暇していたぞ。娘達については、上の5人が訓練場に突然突っ込んで「道場破りじゃ〜!」とノリノリに...とは言うものの実際はフルスペックを出し切って運動出来る場所がそこしか無かったからなんだけどね。
ハーレイ殿下に許可は取ってたので問題なく使用させて貰えましたとも、ただね...人間を遥かに超えたスペックをフルで使うととんでもねぇという事がよく分かりました。
「ドッゴォ!!」「ドグシャァ!!」「バキィ!!」と、凡そ人が出していい音なんて物はなく...これで徒手でやってる組手みたいなもんだからおっかないよねぇ。
モレッド・キスハ・エルピダはシュトラーセ殿下とお茶会みたいな事をしていたぞ、中庭にある東屋で優雅にお紅茶を嗜んでおったわい。お茶菓子も流石王城と言った所で、グルメな我が娘達も大満足の品々だったそうだ。
そして俺はと言うと、まぁ何も無いんですわなぁ。嫁さん然り娘達然りちゃんとやる事は準備して来ていたみたいだし、何もアポも何もとっていない俺は何もすることもなかったんですわ。
まぁ、今現在は違うんだけどね。
「すまぬな、傭兵ソラよ。突如呼び出すようなまねをしてしまった事、謝罪しよう。」
「いえ、陛下からの呼び出しとあれば傭兵でしかないこの身は参上致します。」
「うむ、感謝しよう。して、呼び出した理由なのだがな...」
「言わずとも分かります、グソク様の消息が掴めた...若しくは挙兵の影を捉えたと言った所でしょうか?」
口には出さず首を縦に振る陛下を見て「始まるか...」と内心ため息を吐く俺、今居るのは王城の国王が公務を行う個室。
今日はシュトラーセ殿下から「モレッドお姉様達と外出したいです!!」と声をかけられたのでお迎えに上がった所を俺だけ「国王陛下がお呼びに。」と呼び止められたので来た所だ。
因みに、お忍びでということなので警備は最小限...と言うか居ないらしい。まぁ、ウチの5姉妹のあのぶつかり合いを見ていた以上何があっても大丈夫だろうという判断なんだろうなぁ...実際王族1人護るだけなら過剰どころじゃないだろうし、何より王様含めた王族の皆さんが太鼓判を押したのでという所だろう。
「して、挙兵の位置は?」
「うむ、第5惑星ヴァッフェンで間違いない。核燃料の採掘量に対して搬出量が目に見えて少ない、かつIDを偽装したAMRS母艦が周辺に駐艦して居る。グソクを推していた派閥が脱獄を手助けし、武力によってこのフリーデンを制圧せんとしているのだろうな。」
「良くない流れですね、下手をすると周辺の精製コロニーを武装占拠して質量爆弾にする可能性すらある。」
「うむ...我が息子ながら、下の者達に躍らされてしまうとはな...何処で間違ってしまったのか...」
息子の行動を憂う父の顔はとても悲痛で、俺は何も言わずただそこに佇むしかできなかった。
「そして更に悪い知らせだが、1時間ほど前に惑星上からマスドライバーにて宙に上がったシャトルを搭載した旗艦と思わしき艦が移動を開始したのだ。お主が想定した通り、精製コロニーに向けてな。」
「そいつはまぁ...」
考えられる中でも最悪だな、少なくともコロニーで仕事に従事する人々の避難など間に合う訳もなく。命令権のない王族やそれに従う貴族の命令に従うなど以ての外、結果として虐殺になるだろうしなぁ。
そんな事をすれば幾ら王位に着いたとしても全国家からは総スカンを食らうだろうし、寧ろ駆逐の対象になりかねない。愚王って言う称号すら生温い大罪だからな、コロニー内の人命虐殺ってのは。
「ご報告申し上げますっ!!」
ノックも無しに陛下と俺の居る部屋に飛び込んで来た官僚、その額には大量の汗が流れ顔色も青いを通り越して真っ白になってしまっている。
これは...やったな...間違いなく。
「申せ、不敬には問わぬ。」
「はっ、所属不明艦隊が第5惑星資源精製コロニーを武装占拠。内部に残っていた職員、民間人を含め全員を殺害したとの報告が入っております。また、占拠したコロニーに急造品ではありますが大型ロケットモーターを設置しレーツェル・フリーデンに向け進行中との事です。」
「...首級は...」
「...コロニー占拠時に名乗られておりました、間違いなくグソク様であらせられます。」
「そうか...あの大馬鹿者が!!」
せめて何処かでひっそりと生きてでも居てくれれば良いとは思っていたのだろうが、もはやその道は絶たれ彼は全宇宙の敵になってしまった。それを受け止めねばならない国王陛下の心労は計り知れないだろう、だがここで行動を起こさない事には彼の愚行は何処までも止まることは無いだろうし、ローゼン・エーデルシュタインと言う国が宇宙から消える事になるだろう。
「陛下...ご決断を...」
報告をした官僚が張り詰めた空気の中それを口にした、言えるような空気では無いし言いたくもなかっただろう。しかし、この場においてそれは絶対に確認しなければならない案件なのだ。
「...全軍に通達せよ、これより我が国は存亡をかけ国賊となった我が息子を討つと。」
「承知しました、陛下の御心のままに。」
顔を伏せたまま、重く息を吸い込んでその言葉を発した陛下に一礼して官僚は部屋を出て行った。
俺はただその場に待つ事を選択した、きっと次にかけられる言葉は間違いなくそれであるだろうしそうでなければおかしいとすら思えたからだ。
「ソラよ...」
「言わずとも、ただ一言。申して頂ければそれで十分です。」
「...すまぬっ!!」
一礼して早足で部屋を発ち、通信端末でモルガンに連絡を取る。
「モルガン、アヴァロンは宙に上がる。グソク様が蜂起した、精製コロニーがココに向かってる。」
『承知しました、シュトラーセ殿下との外出は中止という事で宜しいですか?』
「スマンがそうなるだろう、こっちとしては保護としてアヴァロンに預かってもいいが...そうも言ってはいられないだろうしな。」
『承知しました、ではその様に。』
「殿下には申し訳無いと言っておいてくれ。」
『...手遅れですね、既に外出する直前だったので出鼻をくじかれて号泣する3秒前と言った所でしょうか。』
「...まじ?」
後程鬼のようにお怒りになられたシュトラーセ殿下から通話が届き、ひたすらに謝っていた俺でしたとさ。
因みに、帰ってくる時に発見した不審艦については殿下達が退艦した後に報告はしていた。それでもここまで発見と言うか蜂起を見逃していたのは陛下の親心と言うべきなのだろうか…まぁそれを無碍にしちまった訳だがな。
さてさて、迎撃準備に取り掛かりますかね。
モレ「お茶会は楽しかったよ( 'ω')」
キス「クッキー美味しかった(,,•﹏•,,)」
エル「おめかしさせてもらったの( ..›ᴗ‹..)」




