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開発作業はritardando

 シュヴァイゲンさんとファクトリーで相談しながらシュトラーセ殿下のAMRS設計を開始してから早くも数時間が経過しようとしていた、機動性と堅牢性の両立が厳しいということに加えて、そもそも殿下の身体がAMRS操縦時にかかる負担に耐えられるのかどうかという問題が出てきたからだ。


 AMRS操縦においてG耐性と言うのは必要不可欠だ、それについては訓練や慣れによって解決する問題ではあるのだが…殿下がそう言った訓練などを行える環境にない事と身体が弱い事で耐えられる保証がない事が問題になってしまったのだ。


「うぅむ…殿下本人の問題は機体側ではどうしようもないですねぇ…」

「それは承知しております、しかし…殿下の今までを知っている物からして見れば突然活発に行動するようになったと噂にでもなった瞬間に反王族派閥に目を付けられてもおかしくはありませんね。」

「殿下が幼い事を利用して…ですか。」

「そのとおりです。」


 アヴァロン滞在中に可能な限りの訓練や研修を済ませたうえでこっそりと機体そのものは納品する、という手段もありなのだが、結局それをしたところで変な輩に発見されてしまえば計画そのものがお釈迦になってしまう。


 逆にいっそのこと殿下には最初から知らせておいて、緊急時にのみ起動できるという限定封印をかけておくのもありなんだが…それもまた見つかって封印が解かれたらめんどくさくなってしまうからなぁ…


「殿下本人はアヴァロンのシミュレーターを喜々として使っているんですがねぇ…」

「はい、私も使用時には同行しておりましたので。」


 殿下のAMRS適性自体は並みと言っていい評価、これは訓練を行い始めた初心者としてという意味だ。良くも悪くも視点があっちこっちに行ったり無駄な操作が目立ってしまうからな、比べるのがモレッド・キスハ・エルピダの3人という点で相当辛めの評価なんだが、それでも並みクラスの評価をしているというところから察してほしい。正直将来AMRS乗りになれば一騎当千クラスになれるかもしれないレベルとしておこう。


 ウチの娘たち?一機一軍だよ?当然じゃないか、パイロット側の限界と機体の推進剤量という問題を追加しても1人1個師団クラスは行けると思うからな。


「シミュレーターの視点酔いも無いみたいですし、パイロットとしての才能は有るんですよ。」

「その才能をつぶしてしまっているのが身体の弱さ…と…」


 ありゃりゃ…自分がもっと殿下の身を案じすぎ誰がために虚弱に育ってしまったとでも思っているのだろうか、そりゃ思いちがいだと思うんだけどな。

 遺伝子的にもシュトラーセ殿下の兄にあたるグソク様が健康体だったから違うだろうし、本当にたまたま。運が悪かったのだとしか言いようが無いんだろうけれども。


「対G減衰装置も100%の効果を発揮するわけでもないですしねぇ…」

「…今なんと?」

「いや、だから対G減衰装置…」

「それです!!」


 ガバァッ!!と俺に飛びつくようにかかってくるシュヴァイゲンさん、思わずのけぞってそれを回避するとシュヴァイゲンさんもはしたない事だと気が付いたのか「コホンッ」と咳ばらいを一つ。


「何も100%減衰させる必要はないのではないかと、減衰率自体はどれほどなのでしょうか?」

「うーん…殿下の機体に乗せる主機の出力にもよりますけど、ハーレイ殿下のコニーゲクラスで通常時は約1割程度。全力運転時で3割ですかね?」

「つまりハーレイ殿下の機体に搭載されている主機の倍以上の出力があれば装置の減衰率も上がると?」

「そうとも言い切れません、殿下のコニーゲに搭載されている主機は機体の活動に要する出力を重視するよりも装備したパッケージ側に流すことを優先した形で設計されているので、装置側に流せる出力に余裕が無いんです。」

「なるほど…そうならば対G減衰装置に回す出力を大きくした主機であれば問題ないのでは?」

「いやそうとも…いや?そうなのか?」


 一つひらめきに似たものが浮かんで、それをコンソールに入力していく。


「要するに主機が一つしか搭載できないと考えるのがダメなんだ…なら主機を2つにして十分な出力を確保して…ここをこうして…」

「ソラ様?私には理解できないのですが…何やらすさまじい勢いでイメージデータが組みあがっておりますけれども…」


 シュヴァイゲンさんの声に耳を傾ける事もせずにひたすら設計していく、今まで全くと言っていい程に進まなかった設計作業が嘘のようにパネルに完成案が出来上がった。


「こんなもんか…」

「これは…なんともはや…」


 完成した設計図にはまだ機体名が記されていなかった、これは俺的にシュヴァイゲンさんに名付けて貰いたかったからだ。乳母として、与えられなかったものは多くあったとしても、この機体が使われてしまった時、その時はきっと殿下が大切な人を守らなくてはならなくなってしまった時だと。


 そうだったとしても、この機体はきっと…俺一人のアイデアではたどり着けなかったものだから。


「シュヴァイゲンさん、この機体に名を。」

「私が…ですか?設計者であるソラ様が命名したほうが良いのでは?」

「設計者の俺がお願いしたいんです、俺だけではこんな機体は思いつけなかった。」


 そっと、キーボードに指を置いて恐る恐る機体名を書いては消して書いては消してを繰り返す。


「ソラ様…お待たせいたしました。」

「決まりましたか?」

「はい、何よりも殿下を…私たちを守ろうとしてくれる殿下をこの機体が守ってくれるようにと願いを込めました。」

「そいつは重畳、それじゃあ拝見させてもらいますね。」


 モニターに表示される殿下専用機の名前は『Die Wiege des geliebten Kindes』ドイツ語で愛しい子の揺り籠か…実母たる第4側妃様もそうだし、乳母のシュヴァイゲンさんに実姉のハーレイ殿下。この3人が同じく思っているであろう者を簡潔にまとめたようだな。


 どれだけ周りが喧騒にあふれようとも、この機体の中だけは…この機体に守られている者は安寧を得られるようにと言う事だろうか。


「多少外見は変更できます、殿下の好みにしていただいても構いません。」

「そこまで…感謝します、では…こうしてもらう事は出来ますか?」

「了解です。」


 提案されたのはややマッシブな外見をした女騎士と言ったところだろうか、聞けば「殿下は自身の身体があまり強くない事を気にしておられましたから、せめて機体だけでも強く見せたいのではないかと」とのこと。なるほど、よく考えてあげてるなぁと思ったもんだ。


 完成した機体データを説明していこう。


 機体名   :Die Wiege des geliebten Kindes

 全高    :13.1m

 重量    :48.3t

 センサー半径:74,500m

 ジェネレータ:アヴァロン工廠製AMRS用熱核反応炉『ヨーク』×3基

 発電量   :0.6×10-5hkw

 スラスター :アヴァロン工廠製AMRS用ターボファン・ロケットハイブリッド式エンジン『ウェスト・ブロムウィッチ』×2基

 推力    :980kN(1基あたり)

 基本装備  :対実・対光学障壁盾『スヴェル』×2基

 :武装用ハードポイント×2基

 装甲    :対実・光学兵器用特殊装甲『アイギス』

 ハードポイント用兵装

 ・対AMRS用誘導弾システム『チェストナット』

 ・対人用鎮圧砲『ラクーン』

 ・対艦用特大型連装砲『バルド・イーグル』


 って感じだな、なかなかいい感じに仕上がったようでよかった。

 後はアヴァロンとギャラハッドの修復用装甲が完成次第、ハーレイ殿下のコニーゲ用強化パッケージと合わせて建造するだけだ。


 …長いからコードネームは『カインド』って呼ぼう…


ヴィ「はいはーい、アヴァロンの損傷個所修復にかかりまーす('Д')」


グィ「お父さまとシュヴァイゲンさん食事もとらずに<`ヘ´>」


モゴ「しょうがないんじゃないかな~( ̄д ̄)」


オヴ「すっごい考え込んでたみたいだしね(>_<)」


マー「私はファクトリーに缶詰め状態(゜Д゜;)」

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