やって野郎じゃねぇかよコノヤロォ!!
辺り一面の星空、漂う小惑星、静かに鳴るジェネレーター音と点滅を繰り返すモニターによって目を覚ます。
「んん?ここは……何処だ?」
コックピットに座りスーツを着込んだ男は目を覚ます。
周辺を見回し自分の状況を把握しようとしているが、いまいち実感が掴めていないようだ。
「この格好……このコックピット……あれ?寝落ちしたにしちゃおかしいな……」
徐々に違和感を現実として受け入れていき、1つの予想を立て、それが間違いないことを理解した。
「これって、GROなのか?でも、ログアウトも何も出来ない……うわぁ、マジか……」
自分がハマって人生をかける程にのめり込んだゲームが現実になったと理解したのだった。
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「って事はこのコックピットはギャラハッドの中ってことか、近くにアヴァロンも居るのか?」
周辺に探査レーダーを飛ばし現在位置を確認する。
今ギャラハッドに装備されているパッケージは無い、有り体に言えば素体状態だ。その状態でも充分戦闘には耐えうるしセンサー有効範囲も広い。
AMRS通称装甲宙間移動機と呼ばれるロボット。
AMRS-9900、その最終ロットがこのギャラハッドだ。
GROと言うゲームは大変自由度が高く傭兵プレイ、商業プレイ、開発者プレイ、果てには海賊プレイまで可能だった。
このAMRSシリーズは俺が開発者プレイで作り出した機体のコードネームだ。
GRO内では稀に国家NPCから新機体納入の為のコンペティション参加が依頼される事があり、採用されればその国家に作成した機体が配置されるのだ。
AMRS-9900はその国家『ロイヤルインペリウム』の近衛専用機として俺が開発した。
装甲のダメージによって機体の動作に影響が出ないようフレームと装甲を分離し、余剰スペースには電気式超強人工筋肉繊維を搭載した事で、限りなく人間に近い駆動を成功させた。
頭部ユニットはメインカメラを2機搭載し、それをゴーグル型バイザーで保護する事で破損リスクを回避し、ロッド型アンテナを2本装備した。1本が破損してももう片方が残っていれば充分対応できるよう余裕を持たせた。
胴体部にはコックピットとメインコンピュータ、ジェネレーターが搭載されている。
コックピットは3モニター式を採用し、シート自体はリニア式で衝撃が緩和されるよう配慮した。
メインコンピュータは、機体作成当時に俺が育てていたAIの劣化モデルをそのままコピーしている。劣化コピーと言っても侮るなかれだぞ!!
ジェネレーターは縮退炉を採用、要求容量を遥かに上回るパワーを実現させるためにネタ的に搭載していた。
他にも、圧倒的な推力に物を言わせた独立可動式のテールバインダー搭載型スラスターを両腰に装備。地上戦でも対応出来るように脚部ユニットも装備して、反応速度の向上のために脚部はヒール型にして設置圧を上げている。
固定兵装としてヒール部に超振動ブレードを仕込んでいる。
そんな「ぼくのかんがえたさいきょうろぼっと」がAMRS-9900なのだ!!
結果としてこの機体は採用され、一時ロイヤルインペリウムエリアで発生するレイドイベントではプレイヤーの活躍をほぼ奪い取り、俺に苦情メールが届くほどだった。
まぁ、製造コスト運用コストもべらぼうな高さになった為、納入機体数は全部でたった12機になってしまった。
ゲーム内時間で1年──現実時間で言えば1ヶ月に3機しか作成できなかったが、後発の機体になればなるほど先行機からのフィードバックを受けて洗練されていった。
ギャラハッドは本来存在しない13番目の機体だ。あらゆるフィードバックを受けた上で予め用意しておいた拡張性を最大限利用して作り上げた、俺専用のワンオフ機になっている。
『マスター、アヴァロンの反応をキャッチしました。モニターに表示します。』
搭載AIからの電子的な声を聞き、モニターに表示された母艦を確認する。
特徴的な2機のカタパルトデッキを備えた俺の母艦『アヴァロン』の存在を確認した所で一息ついた。
もしアヴァロンが無かったら、俺は素体状態のギャラハッドでこの宇宙を漂わなければならなかった。そんな恐怖は味わいたくない。
「よし、アヴァロンに帰投する。周辺に身元不明機体がないかチェック、エリア確認の後に着艦する。」
『YESマスター、周辺チェックを開始します。』
俺は意識を身体から離して機体に載せる。このギャラハッドは設定上では「コックピットはパイロットと機体を結びつける脊髄に近い。機体の操縦時はパイロットと機体を神経接続で同期することでモーション学習の必要なく稼働させることが出来る。」となっているのだ。
余りにも膨大な周辺情報は意図的にカットして必要な情報のみをモニターに表示する、今の所問題は無さそうだ。
スラスターを吹かしてゆっくりとアヴァロンに向かうと「カンカン」とデブリが装甲にあたる音がする。コンソールを操作してシールドを展開し、一定以上の大きさのデブリを防御する。
『周辺に身元不明機無し、安全確保と見なします。着艦カタパルトデッキ開放、ガイドビーコンを照射しますか?』
「ガイドビーコンは要らない、手動で着艦する。」
『YESマスター』
AIの報告を聞き着艦シークエンスに入る。
と言ってもただカタパルトの移動ドックの上に乗せるだけなのだが、これでミスを起こす程度ではGROはやって行けないからな。
「ガシュン」と着艦カタパルトの移動ドックに乗ると、機体の固定がされる。このまま格納デッキに入るのかと思ったが、その前に機体の洗浄と除染を兼ねた専用液が噴射された。
格納デッキに到着し機体がロックされたのを確認したら、コックピットを開放し外に出る。
船内エアロックを越え、ロッカールームに行き、ヘルメットを外してようやく息を吐いた。
「ふうぅ~……本当にGROの中だな、ギャラハッドとアヴァロンがある。もう疑いようもないな、ははっ!!」
何故か笑いが止まらなくなりひとしきり笑ってしまった。
知ってからほぼ人生の全てを費やしたと言ってもいいほどプレイし続けたGRO、その世界に入り込んでしまったと言うのならとことん楽しんでやろうと思った。
ロッカールームを後にしてブリッジに向かう。ここがGROのアヴァロンだというのなら、間違いなく居るはずだと思ったから。
エレベーターを利用して格納デッキ区画からブリッジ区画へ移動してブリッジ前に到着した。
少しの期待と不安を持ちながらドアスイッチを押す。
「ピシュン」と独特な音を立てながら開いたドアの先を見た時、俺は感動した。
予想していた通り、そこには確かに居たのだ。
俺がGROを初めてからずっと使い続け、大型アップデートで遂にデバイス化された時に有料コンテンツを贅沢に注ぎ込んだ『彼女』が。
『無事の帰還お祝い申し上げますマスター。このモルガン、喜びに絶えません。』
サポートAI『モルガン』。俺はゲームの最初期から彼女を重用し続け、性能アップの為にゲーム内通貨に一切歯止めをかけなかった。彼女の最高処理速度と性能は量子コンピュータクラスを誇る。
デザインに関しては趣味全振りだ。黒曜石の様な黒く艶のある髪、美しく光るアメジストの瞳、両胸には大玉スイカと見紛う立派なものがありながら腰はスラッと細く、臀部は扇情的に。
その身体をヴィクトリアンスタイルの女性用給仕服で覆っている。
我ながら完璧なデザインだと思っているぞ!!
ゲーム中はモルガンにアヴァロンの全権を委譲し、俺が戦闘に出ている際の艦の操舵、防衛、援護などを全て担当してもらった。
え?「おんぶにだっこで恥ずかしくないのか」?うるせぇ!!ここまで育てあげたのは俺なんだよ!!
と、モルガンの説明はこのぐらいにして、ここからどうするかを話し合わなければ。
「モルガン、現在の位置と宙域情報を教えてくれ。後は補給可能なコロニーの情報や移動時間、それと残り活動可能日数はどうなってる?」
『YESマスター、現在位置はブラッペドントリオンの第328宙域のようです。補給可能なコロニーについては、この近辺では存在せず、最も近いのはカストリニアンベイルメリーの交易コロニーになります。移動を含めた日数は1週間ほど、現在の艦内物資を鑑みても活動可能日数は10日程でしょう。』
「OKありがとう、ならさっさとそのコロニーに向かうとしよう。アヴァロンをカストリニアンベイルメリー交易コロニーに向け出発する!!」
『YESマスター、アヴァロン発進します。』
モルガンが操舵するアヴァロンがスラスターを吹かし、コロニーへ向けて出発しようとした瞬間、「ビー!!ビー!!」と艦の接近を知らせるアラートが鳴った。
俺は物凄く不快な顔になったに違いない。実際なってるのをモニターに反射した顔を見たし。
モルガンに目線を送り静かに頷いたのを確認すると、俺は即座にブリッジを出て格納デッキに向かった。
今回はパイロットスーツを着る時間さえ惜しいので、そのままエアロックを通過しコックピットに乗り込む。
後でモルガンに文句を言われるかもしれないなぁ……。
『マスター、相手から通信が入りました。海賊のようです。「速やかに機関を停止しその船を寄越せ。さもなくば船諸共宇宙の塵になってもらう」との事です。』
「当然そんなことにさせるわけないんだよなぁ。モルガン、ギャラハッドで撃破する。パッケージはランスロットだ。」
『YESマスター。ギャラハッド発進シークエンスに移行、パッケージ“ランスロット”スタンバイ。』
格納デッキから移動を開始する。今回はデッキが移動するのではなく、俺が直接歩いてカタパルトに向かう形だ。
脚部ユニットをカタパルトのシャトルとドッキングさせると、左右の隔壁が展開しパッケージが装着される。
モニターに『package Lancelot standby』の表示が出る。指でその文字をタップすると表示が『OK』に変わり、「ガシュン」と装着音が聞こえた。
カタパルトハッチが開放され、ハッチ上部のランプが『ready』から『Good Luck』に変わる。
「ギャラハッド、ソラカケル発進する!!」
「ドシュン」とカタパルトが唸りを上げてギャラハッドを宇宙空間に送り出す。
海賊共が「1機出て来たぞ!!」とか「たかが1機で何が出来る!!ぶっ殺せ!!」とか言っているのが聞こえる。アイツら広域回線で話してやがる。
相手は全部で6機、つまり1個小隊と言ったところだ。
機体はボロボロ、ろくな整備もせず使い続けているんだろうというのがよく分かる。
「おいてめぇ、そんな機体で俺たち『クリスタルスカル』をやれると思ってんのか?舐め腐るのも大概にしとけよゴミ野郎が。無様に落とされてあの船が俺たちの物になるのを眺めてな!!ひゃはははは!!」
「……やってやろうじゃねぇかよ、コノヤロォ!!」
俺は短気なのだ、煽られたらそれに乗ってしまう。
もちろん売られた喧嘩はしっかりと買い、海賊共に向け突っ込んでいくのだった。