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プロローグ
僕は今さっき出会った女の子の手を引いている。正直彼女の身体に興味は無い。首から上にも首から下にも興味は無い。そりゃ胸とお尻が大きくて少しは嬉しかったのも確かだけど僕の唯一の関心事は彼女の心であって、それをほんの小一時間手にすることが僕のただ一つの関心ごとで、それはまず叶うことはない。お互いの心の先にはいるのは別の人で、向ける心も愛ではないのだから。
母が引いてくれるはずだった手で僕は名前も知らない女の子の手を引き続ける。
ウロを叩けば音が響く。からっ風が枯葉を転がす。根を下ろし地に足をつける幸せは幼少期に逃してしまったのだと思う。
母が僕を産んだのは大学一年生の秋。高校の卒業式の時にはお腹に僕が居たらしい。別に親とも思えないし感謝以上に拒絶心の方が強いから、「若いのに育ててくれてお母さんには感謝しなさい。」とか「立派なお母様なのね。」とか言われると虫唾が走る。とはいえと言うべきかだからこそなのか、この感情をどちらで繋げればいいのか分からないけれど、お母さんに手を引かれる幼子を見ると胸の中の空洞に光を当てられるようで心が痛くなる。手に入らないものをこそ求めてしまうものなのだと思う。母に愛されその愛を純粋に受け取れる幸せが自分にもあったのだろうか。
なぜだか友人には恵まれた。母の代わりに面倒を見てくれた祖母のおおらかな性格に似たのだと思う。誰とでも上手くやっていけた。けれど異性の前に立った時は緊張した。愛して欲しいという気持ちばかりが先行して、だから結局愛してくれる人はいなかったし、拒絶されてばかりだった。
誰かに愛されてみたかった。ただそれだけ。ただの一度だけ。
一人目の女の子に会ったのは多分十九歳の夏。確か友達の紹介で、そいつとは関係を持ってたと聞いた。二人目は出会い系で、三人目は二人目の女の子の紹介。他にもいるけどよく覚えていない。覚えているのは女の子たちのほとんどはお酒が好きで、メイクは丁寧に見えてアイラインを書いてなかったり、髪はプリンみたいになっていたり。多分心がここにあらずで、心が体からふわりと遊びに出ていって誰か別の人の温度が求めていたのだと思う。寒かったからほんの数時間だけど肌を重ねて暖を取ったのだと思う。その間僕の心も温かい何かで満たされているように思えていた。
そして終わった後はいつも何かがすとんと抜け落ちた気がした。