廃屋の奥
さる夏休み、森に囲まれた廃屋の周辺で子供達はかくれんぼをしていた。
廃屋は木造二階建てで、建てられて半世紀以上経っているのだろうか、かなり老朽化していた。
廃屋の周りには古びた倉庫も数軒あり、それらの近くに置いてある台車は車輪が錆び付いており、使用は困難だ。
また、全ての建屋には侵食するかの如く植物が伸びており、これまで長い間保全がされてこなかった事が伺える。
暫くして、子供達の中の一人の少年が廃屋に入っていった。
少年はただかくれんぼをするためだけではない。
廃屋の探検も兼ねての事だ。
(ここはどんな場所なんだろう……、気になるな……。)
少年が廃屋の中をあちこち見てみると、突然何かの音声がした。
「……堪え難きを堪え、忍び難きを忍び……」
音声は中年男性のもので、ただひたすら繰り返されていた。
(誰かいるのかな……?)
少年は音声のする方に向かっていった。
そこには赤錆びた鉄の扉があった。
その扉の向こうから例の音声が聴こえてきた。
(とりあえず開けてみよう。)
気になった少年は扉を数回ノックし、自室の扉の要領で開けようと試みるもびくともしなかった。
(これはみんなを呼んでみようか……、いや、やっぱり僕一人で!)
少年が諦めず体重をかけると突然扉が開いた。その突然の挙動で少年は体勢を崩しかけた。
(……ここは一体……?)
少年が体勢を立て直して扉の向こうを見てみると、上空より落とされた焼夷弾によって炎で埋め尽くされた街があった。
突如、街の方から空襲から逃れるべく、多くの人々が扉に駆け込み、少年は出会い頭に衝突した末に転倒し、そのままひたすら逃げ惑う人々に踏まれ続けた。
そして、行方不明となった少年は、警察の捜索により、数日後に変死体で発見されたのだった。