さよなら現世界
ボーッとする頭で夜遅い電車から降りて駅から自宅に向かう
神崎 璃子
都内で務めている独身23歳OL
「久しぶりだからってちょっと飲み過ぎたわ…」
ボソッと呟きお茶を買おうとコンビニに寄る
――今年こそは引っ越してやる…
毎回帰る道を苦しめる目の前の坂を見て立ち止まり
買ったお茶を飲む
――にしても久しぶりの大学時代の友達だからって飲み過ぎた…全然お酒強くないのにアタシ…
誰もいない坂をノロノロと登り始める
元気がいい時は一気に登ってすぐ帰るけど、今日は途中で休憩するリコ
――ん?
お茶をまた飲んで休憩しているとゴミ捨て場が目に入り、絨毯が捨てられてるのを見つけた
「えっ…まさか…ペルシャ絨毯!?アタシめっちゃ欲しかったんだけど!!」
最近のリコは模様替えをしていて絨毯を調べていたところペルシャ絨毯を見つけて見るのにハマっていた
金額が高過ぎるから買うことは諦めていた為捨てられている事にテンションが一気に上がる
「って…流石に汚いか…」
ゴミ捨て場に丸めて縛られて捨てられている絨毯を見る
少し触ってみると触り心地は悪くなかった
――もしかして…広げてみたら意外と綺麗だったり!?汚かったらまた戻せばいっか!イェーイ
完全に酔っ払った勢いで絨毯を持ち帰るリコ
「結構大きな…」
息を切らしながら抱えて坂を登り急いで一人暮らしのアパートに帰った
「とりあえず広げよう!!」
帰ってからすぐお風呂場に持っていき広げて見ると…
「うわぁ………綺麗………」
あまりの美しい柄に酔いが一気に冷める
深いブルーの上に金色の複雑な網様が綺麗に入っていた
「こんな高そうな絨毯なんで捨てたんだろう…」
お風呂場で薄めた洗剤をかけて汚れを落としていく
すると…
ピクッ
「えっ…」
絨毯の右端が一瞬動く
「き、気のせいか…」
念入りに洗ってお湯をかけて洗剤を落とすとピカピカになった
「すごい!!柄もだけど色も本当に綺麗!!」
光り輝く金色がとても綺麗で人1人寝れそうなくらい大きい絨毯を浴室乾燥機にかけようと干す
「てか、普通の洗濯する手順みたいな洗い方したけど絨毯ってそんな洗い方していいのかな…」
調べればよかった…と後悔してお風呂場のドアを閉めて浴室乾燥機をつけた
バタバタバタバタっ!!
「えっ!」
お風呂場が大型犬が濡れた時体を揺らして水を飛ばすような音がして心臓が飛び出るほど驚くリコ
「えっ…待って…むちゃくちゃ怖いんだけど…」
怖いけど確認しないのも怖いと思って全身鳥肌で体を震わせながらお風呂場のドアを開けると…
絨毯が縦になって立っていた
「ギィャァァァァァ!!」
と色気ない悲鳴をあげてすぐに“アパートで!今は夜遅くて!近所迷惑!”と頭によぎり口を抑えるリコ
絨毯もびっくりしたのかバタバタと動いた
ドタッ
驚き過ぎて足の力が抜けてその場に座り込むリコ
絨毯がそーっと近寄ってして手を差し出すかのように角が曲がってリコの目の前に差し出される
攻撃的じゃないことに安心して話しかけるリコ
「えっ…生きてるよね…」
コクコクと動く絨毯
「えと…言葉通じるの?」
コクコクと動く
「話せる…?」
フルフルと左右に揺れた
「そりゃそうか口ついてないもんね」
絨毯がトコトコ近寄ってきたので
「ちょっと待って!!完璧に乾いてる!?」
サッと立ち上がって絨毯を触る
「濡れてるじゃん!!乾燥機かけてるから乾いてから出てきて!」
とドアを閉めた
「って!何普通に会話して適応しちゃってんのよリコ!!これ絶対ヤバイやつでしょ!?酔い過ぎていつのまにか寝落ちして夢見てんのかな!?」
バシンと顔を叩くとものすごく痛くて涙目になった
「とりあえず落ち着こう。とりあえず乾いたら元の場所に戻してこよう。」
バタバタ暴れ回っているのでドアを開けて絨毯の様子を見る
ソッと触ると乾いていた
「…乾いたからいいよ」
とリコが言うと
スルリスルリと飛んでまた縦になり居間に立った
その横に座り込むリコ
「ねぇ、飛んでるじゃん。君めちゃくちゃ有名な魔法の絨毯じゃない?」
コクコクと嬉しそうに反応する絨毯
リコはもう逆に冷静になっていった
ソッと絨毯に手を出すと角が曲がりリコの手をチョンチョンと怯えながら触る
スルリとリコの手に巻きついて上下に振った
「あはは、握手ね」
リコはだんだん絨毯が可愛く見えてきた
「どこから来たの?」
バサバサ動いてるけど何も伝わらない
「話せないんだったね、イエスかノーで答えられる質問にするね」
コクコク頷く絨毯
「違う世界から来たの?」
コクコク頷く絨毯
「そりゃそうだよね…まさか自分の目の前でこんなファンタジーが起こるなんて…」
リコが頭を抱えた
「違う世界ってどこ?」
またバサバサ動いて何も伝わらない
「だよね…えっーと、あ!誰かと一緒に来たの?」
フルフルと左右に首を振るように揺れる絨毯
「1人で来たの!?すごいね、じゃあここに誰か探しに来たとか!?」
コクコク小刻みに揺れて角でリコの事を指した
「えっ!!アタシ!?!?」
コクコクと頷く
「えっ、全然意味わからない!なんでアタシ!?もしかして異世界ですごい力を発揮する聖女とかなの…」
ブンブンと左右に揺れる絨毯
「違うんかい。」
はぁーとバタッと後ろに倒れこむリコ
「中々冷静に対応してる自分にびっくりしてたけど、流石に疲れたわ…」
ソッと目を瞑ると
フワリ
リコの上に被さる絨毯
「あははっ、もしかして布団がわりになってくれてるの?優しいね」
絨毯を撫でると嬉しそうに動いた
「よしっ!どうにかしてあげるよ絨毯!!」
パッと立ち上がるリコ
――とんでもないありえない事で絨毯に自我があって飛んだりするけど、きっと異世界から来て心細いに決まってる!!アタシの事探してたみたいなこと言ってたけど全然よくわからないし、きっと会話が成立してなかったんだと思う!
「とりあえず帰る方法探そ!」
リコはベランダの窓を開けて絨毯と外に出た
「今日はどうする?ウチに泊まる?それとももう外に出る?」
フワフワと浮いてる絨毯
「んー会話が難しい…伝わってないかな…」
うーんとリコが考えてると
ふと、まん丸な満月が目に入る
「うわぁ…綺麗…今日満月なんだね…」
真っ暗な空に光り輝く満月に見惚れるリコ
「あっ!そうだ!満月近くで見せてよ!!」
ふざけて絨毯に言う
――魔法の絨毯と言えば空の旅じゃない!?しかも満月見に行くロマンチックなシーンとかさ!まぁ…1人だけど…
コクコク頷いた
「うそだよ、怖いからやっぱ…ひぃ!」
いつのまにかリコの膝に回りカクンと曲げてそのまま絨毯に座るカタチになる
フワフワとゆっくり上に上がった
「待って待って待って!!めっちゃ怖い!!下ろしてー!!」
半泣きで叫ぶリコ
絨毯が落ちないように包み込んだ
「絶対落ちない?」
絨毯の角が反応してコクコクと縦に動く
どんどん上に上がり満月に近づく
下を見ると見たことない景色に感動するリコ
顔を上げると
「うわぁ…こんな近くで見たの初めて…」
目の前に広がる満月に感動してギュッと絨毯の角を掴む
フワリフワリとゆっくり動く絨毯
「こんな綺麗な景色見せてくれてありがとう…」
感動して目が離せない
「あっ!!そうだ!!満月って願いが叶うってこっちの世界だと言うんだよ!」
リコがひらめいたように絨毯に言う
両手をギュッと握り合わせてお祈りのポーズをしてゆっくり目を閉じた
「絨毯が早く元の世界に戻れますように………」
優しいリコの声が静かな夜空に消える
「ふふっ、叶うといいなぁ」
ゆっくり目を開けると
さっきいた場所とまったく違う…
辺り一面砂漠になっていた……