3本目
「ぶえっくし!!」
おぉ~寒ッ!
気付くと俺は牢屋の中の冷たい石畳の上に寝かされていた。
な、なんなん、なんなのこれ!?
超展開に脳が全くついて来れない。
え?
俺、天国に来たのに何で投獄されちゃってる?
意味わかんない。
超わかんない。
誰か説明してくれませんか?
おーい、神様あんたどうしちゃったのー?
何で俺がこんな目に会ってるのかさっぱりわからん。
ここ天国じゃないの?
違うの?
もし間違えてたら、早めに天国に連れて行ってくれると助かるんですけど…。
寒さのあまり体育座りして膝を抱え、ガタガタ震えてると、俺を蹴った美人さんと、なんか超怖い感じの鎧着たゴツいおっちゃんが来た。
こえー。
俺どうなんの?
男が俺に何かしゃべりかけて来た。
しかし、何しゃべってるか全然わからない。
普通さ、ラノベだと神様が何かして、異世界の言葉わかるようにしてくれるじゃん?
そんな便利設定はないらしい。
おーい、神様ー。
今回色々ミスしてますよー。
つーかさ、ここはそもそもいわゆる魔法とかある異世界なのか、それとも中世のヨーロッパとかなのか、別の惑星なのか全然わからない。
残念ながら天国じゃないのは確かだな。
体いてーしさ。
あと、普通転生したら、赤ちゃんから始まるよね?
何で俺、日本にいたまんまの姿なの?
もうわからないことだらけ。
男が俺に激しく詰問してるようだけど、何言ってるかわからないから、俺には答えようがない。
通じるかわからないけど、白人がよくやるような肩をすくめて両手をやや上げるオーノーポーズをした。
一応英語で「Can you speak english?」と言ったが、やはりまるで通じてない。
彼らの言葉の発音は、英語というよりロシア語に近い感じだが、明確にロシア語じゃないことはわかる。
大学時代に友達とロシアに旅行に行くときに、少し勉強したからね。
全然未知の言語だ。
中世のヨーロッパの言葉だろうか。
俺の専攻とは全然違うのでわからない。
俺に言葉が通じないことがわかると、男と美人さんが何やら話し合い、どこかに行ってしまった。
あー、せめて毛布とかくれないかなー。
あと食いもの。
腹が減ってきた。
これは間違いなく天国じゃないわ。
死んで天国にいるのに、腹が減るなんてあり得ないからね。
体中痛いしね。
顔が特に痛い。
腫れててジンジンするわ。
ちっくしょー、何で俺がこんな目に…。
恨んでなかったけど、初めて俺を殺したあの女に腹を立てた。
牢屋の鉄格子の太さが均一なのと、石畳に使われている石もある程度均一、更に壁はレンガでこれも形が均一なので、それも専門じゃないのでわからないが文明的に結構進んでいるのと、俺が捕らえられているこの国がある程度豊かなんじゃないかと推測した。
それに、さっきのふたりの格好も、服や鎧が清潔で仕立てがいい。
食い物くらい出るかもなー。
期待したらますます腹が減ってきた。
案の定しばらくすると、毛布と食事が出てきた。
毛布は意外に清潔で、食事は硬いパンと水と塩だった。
塩があるのはありがたい。
ちなみに胃酸は塩酸だから塩摂らないと作れないので、あまり減塩はどうかと…。
飢えてるときは、特に塩は大事だわ。
生命を維持する基本ミネラルだからね。
実は俺は分子生物学から栄養学にかけて専攻してたので、その辺はまあ人よりは詳しいかも。
まあ、それは置いといて、俺は硬いパンを水に浸しては塩で齧るのを繰り返した。
ときどき、果物や干し肉が出た。
たんぱく質とビタミン不足を多少補える。
一体俺はいつまでこんな牢屋に入れられてなければならないのか…。
だいたい1~2ヶ月くらい経った頃、俺はいきなり牢から出され、法廷みたいなところに連れ出された。
何だかわからないが、何にせよ牢屋から出られるのはありがたいわ。
司法機関のようなものが、この世界…少なくともこの国にはあるらしい。
連れ出されるときに裸を隠そうと毛布を持って行こうと思ったら取り上げられ、衆人環視の前で俺は素っ裸で立っていた。
当然豆鉄砲は縮み上がり豆となる。
あ、でも何だろうこの感覚…。
全員服を着てるのに俺だけ裸。
次第に豆が豆鉄砲へと戻ってきて、更に銃身の角度が段々と上がってきてヤバいことに。
それを見た聴衆たちから、何やら罵声のようなものを俺は浴びせられてた。
もうね、好きにして。
一体俺はどうなっちゃうんだろ?
どうせ一度死んだ身なので、意外に俺は股間以外冷静だった。
なんかもう殺すなら殺せって気分。
そしたらきちんと天国に行けるかもしれないしね。