Episode 02 違和感
というわけで、どうにか脱出して箱の中から出ることに成功しました。まぁ、1段落といったところ。久しぶりに外の空気を吸った気分。別に特段美味しくはないです。なんでって?なんか埃っぽいんですよ。
辺りを見回すと、普通に暗い。でも、さっきみたいに、前が全く見えないわけでは無く、月明かりが差し込んで、仄暗いと行った具合。
えっと、周りに見えるのは、大きな窓の中で光る綺麗な満月。あとは、椅子と、像かな?今いる場所を説明するなら、結婚式会場とかになる教会かな。チャペルっていうんだっけ。
教会の内装は、真ん中に道があって、その左右に長い椅子が並んでる感じ?あとは、教会の出入り口から見て一番奥に天使か、神かはわからないけど、女性の大きい像が置いてある。
「なんで、教会?」
ってな感じで、独り言を漏らしつつ現状把握に全力を尽くす。そして、思い出してしまいました。誘拐されていたという事実に。
誘拐犯に見つかればまた捕まるのは自明、最悪は殺されるかもしれない。
「どうしよっか?逃げようかな?」
と考えてみたが、でも、今すぐ動くのは却下。
実は、さっきから周りを警戒してみているのだが、人の気配が全くない。ほんとに、人がいる感じがない。
「なんで?愉快な誘拐犯の皆さんは?」
誘拐犯の皆様を、探すために教会の中を少しウロウロしてみる。まぁ、実際はいないって気づいてるんですけどね。教会の中は、シーンと静まり返ってて人は絶対にいない。
あと、すごく気持ち悪いことに、多分この教会最近、俺以外誰も踏み入っていない。さっきも言った通り、この教会の中は埃だらけで床も埃がかなり積もってる。月明かりに照らされて、それがよく見える。けれど、自分の歩いたところ以外で、足跡が全くない。埃の上を歩いたら足跡がつくのは、自分の足で確認済み。よって、この教会に最近、人は出入りしていない。(証明終了)
どうゆうことかは、全くわからないけど、人の出入りが最近全くないという証明が成り立ってしまった。
「ちょっと待て、どうゆうことだ?」
俺が寝たのは昨日、そして目を覚ましたのは、さっき箱の中で。箱の中で確かに悪戦苦闘したが、せいぜい1時間程度。
寝ていた時間を考慮に入れても、家で寝てから半日もたってないはず。
もし、そうなら半日の間で、家に侵入し、俺が起きないように注意しながら、俺をここまで運び、箱の中に入れ、鎖で箱を縛る。
これだけのことをしなければこの状況は作れない。はっきり言って、不可能である。まずまず、俺は実家暮らしなので家には、両親と姉、妹もいる。そんな状況で、家の誰にも気づかれずに俺を誘拐するのはほぼ不可能。
それに、家に侵入してまで俺を誘拐する意図が見えないし、別に家で寝ているところをわざわざ家に侵入してまで誘拐する意味が無い。本当に俺を誘拐するのなら、昨日のバイト帰りの道中で誘拐するほうが明らかに簡単。
加えて、俺が起きないように運び出すのが不可能、我が部屋は3階。そこから、運び出して車なりで移動するにしても、振動などで途中必ず起きる。どれだけ、眠りが深くてもそれだけ大胆に運び出されるとと気づく。
更におかしいのは、さっきも指摘した通り教会に積もった埃である。埃に足跡がついてないことから、埃が積もってから、人が出入りしてないのは確実。だから、この状況はすごく不可解。
とわいえ、可能性がないわけではない。まず、俺が寝ている時にとても強力な睡眠剤を投薬して、それが効いている間に俺を連れ出し教会内に運び込む。その後、教会の中に埃をばら撒けば、この状態は作れる。
でも、これについては、最後の埃を撒く必要性が全く感じられない。それに、この教会に人の気配は全くないことから、いちいちそこまでして連れ去った人間を監視もつけずに放置する意味が分からない。だから、おそらくこれは違う。
もうひとつは、ありえないと思うが、俺が寝ていた時間が半日ではなかった場合、例えば、大げさではあるが10年寝ていたとしよう。
10年も寝ていれば、俺を運び込み、放置した後、ここを離れれば、十分に埃は積もる。この状況は作れる。
でも、これもおかしい。まず、人間がそんな長時間寝られるはずがない、例え寝ていたとしても、確実に衰弱する。普通は、死ぬだろう。例え、定期的に栄養剤を与え、生きながらえたとしても、筋力は落ちるはず。
しかし、今の俺を見る限り特に寝る前と体に変化は見られない。
更に、栄養剤なりを与えるにしても、この教会から出て行くには、埃の件がある。だから、2つのありえない事象によって、この案は潰れる。
「はぁ、マジで、どうゆうことだこれ?」
1人で状況を整理をした結果、意味の分からない状況に自分が置かれているということが分かった。収穫はほとんど無く、気持ち悪さばかりであるが、箱から出てすぐに、誘拐犯と鉢合わせみたいなことにならずにホッとした。
「ほんとにどうなってんだよ。俺は良い子だぞ。ブラックサンタに攫われるような悪いはことしてない。」
馬鹿な独り言をこぼしつつ、現状について少しでも理解を深めるために情報収集を始める。と言っても、今は夜であたりも暗く、情報収集するには悪条件なわけだが、そこに文句を言っても始まらない。取り敢えず、できることから始めることにしよう。
まず、気になるのは俺を閉じ込めていた箱だ。
えーっと、はい。私、この箱知ってます。
テレビとかアニメとかで見たことがあります。
「棺だよな?なんでこんなもんに閉じ込められてたんだ?しかも、ご丁寧に鎖で縛られてたみたいだし。俺、実は死んでたのか?」
そう、どうやら俺が閉じ込められていた箱は五角形の形をした黒い棺。あの、亡くなった人を入れて埋葬したり、火葬したりするときに使うやつです。
棺に入っていたことから考えると、俺は死んでいたんだろうか。でも、今は普通に生きてるんですけど。もしや、家で寝ている間に死んだのかな?特に、病気とかはなかったと思うんだけど、それか記憶が無くなってるパターンか?起きてから、疑問ばかりが積み重なって全く解決しないんだけど。
まぁ、棺のことはまぁいい。実際よくわからないけど、これも今のままじゃ解決できない。
なので、次の行動に移る。次は、棺の中に自分とともに入れられていた金属の棒みたいものがなんなのか調べることにする。棺の蓋をずらして中を確認する。
「なんだこれ、剣だよな。刀身まで真っ黒な剣なんて初めて見た。というか、正直めっちゃカッコいい。幼き頃の厨二心がくすぐられぞ。」
『刀身まで真っ黒な剣』あれが、凄く気になる。あの剣を見たときから、気になって、目が離せなくなっていた。
うまく説明できないのだが、この剣に既視感があるような。なんというか俺にとって、大切なもののような気がする。
「俺の厨二病がぶり返してきたのか?確かにカッコイイが、そういうんじゃねぇんだよな。昔から持ってた大切なものみたいな感じするだよな。こんな剣初めて見るのに。」
この剣自体は恐らく俺のを誘拐した奴らのものなんだろうが、それが何故自分と一緒にこの剣が入れられていたのかわからない。また、分からないことが増えたな。
とはいえ、これは僥倖かもしれない。箱の中から出れたのはよかったが、今の自分は丸腰だ。誘拐犯と遭遇したときに丸腰ではまともに抵抗出来ない。保険に何か武器みたいなものが欲しいなと思っていたところでこの剣が手に入ったわけだ。これは、ラッキー。
とは言っても、俺は、剣を使えるわけでもないんですけどね。子供のころに少し剣道をかじったぐらいでまともに使えない。こんなことになるなら、しっかり剣道しておくべきだったな。まあ、本当に誘拐犯がいるかはわからないんですがね。
「まぁ、いいよな。誘拐犯の私物だし。たまたま拾ったってことにしたら、大丈夫だろ。見つからなけりゃいいんだよ、見つからなきゃ」
高い倫理観を持っている日本人である自分が勝手にものを盗むのは少し抵抗がある。それがいくら自分を誘拐した犯罪者のものではあるとはいえ、少し不安になってしまう。
周りに誰もいないことが分かっているにも関わらず、あたりをきょろきょろと見まわす。正に、挙動不審。ここに優秀な日本警察がいたのならば、職務質問をされること間違いなしだ。そのまま署までご同行して、かつ丼食べて帰る勢い。
剣を手に入れたのはいいんだけど、どうやって持とうかなやっぱり腰にさすのが一番かっこいいよな。日本男児たるものじゃぱにーす侍を見習って腰に帯剣する一択でしょ。
どうでもいいことを考えながら自分の体を見下ろして驚くべきことに気が付いた。
昨日、寝たときと今着ている服が一致しないのだ。
俺は寝る時は絶対にジャージである。これは、絶対に揺るがない、例え、温泉旅館に旅行に行こうとも、寝巻きは浴衣ではなく、ジャージ。そう、俺は、こよなくジャージを愛するジャージ愛好家である。
その俺が、さっきまで寝ていたにも関わらずジャージを着ていない。すごく不本意である。
なら、何を着ているのかというと、全身真っ黒なタキシード。何これ、普通によくわからないんだけど。結婚式にでも、出てたの?今いる場所が教会だろうからドレスコード自体は間違っていないんだけどね。
てか、タキシード着て寝るなよ。とツッコミをいれる。
それに、俺こんな服持ってなかったはずなんだけどな。
そういえば、スーツは寝間着や部屋着として使われてたとか聞いたことがあるな。その延長線みたいなものか。実際、スーツとタキシードって見分け難しいしな。見た目はほとんど同じくせに使い分けを求められるってのは大変だなあと思う。
本当になんで俺は、礼服を着ているんだよ。礼服なんて着慣れてないはずなのにこの服すごく着心地がいい。普通は、堅苦しくて嫌なんだけど、これは結構ありかも。とはいえ、これで動き回るのは勘弁したい。礼服を着て動き回る人とかはたから見たら完全に不審者でしょ。そんなことしていいのは結婚式に乗り込む人と怪盗キ○ドだけって相場が決まってんだよ。
でも、残念ながら今の俺には着替えの服が手元にないんだよな。着替えの服が手に入るまではこれで動くしかない。剣に関しては帯剣するためのベルトなんてものが礼服にあるはずもなく手で持って行動することにした。
また、謎が増えたな。誘拐犯が俺を着替えさせるはずもないしな。なんで俺はこんな服を着て、教会の真ん中で箱の中で閉じ込められていたのだろうか。今回のは、流石に難事件過ぎだな。いくら眠りの小五○でも解決できないだろ。
「いやぁ、来週の放送が楽しみですね」