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Grace of blue ―グレース オブ ブルー―  作者: 快晴のセカイ
第1章 俺達の始まり─海の国の眠り姫─
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第4話 出来損ないと運命の少年

ふかふかのベットに身を預ける。

宿に泊まることもあるが、野宿をすることも多い俺達にとっては、王城の最高級のふかふかベットはなんとも言えないご褒美だ。

いつも通りなら、ハイテンションになって、ベットでジャンプするはずのハルが、今日ばかりは元気がない。


王の話を聞いてからのハルはと言うと、ボーッとすることが多くなり、時折見せる張り付いたような笑顔が見ていて苦しい。


まだ17歳の子供だ。

大人でも辛い人の命の重圧に、初めて実感した自分に運命に、彼は押し潰されそうになっている。


これを繰り返すこの冒険は、彼にとって良い事なのだろうか。


「ハル…辛かったらやめてもいいんだぞ…?なにもわざわざ自分から罪悪感に浸りにいかなくたっていいんだ。……なによりお前は悪くない。」


「アレン…。」


ベットの上で天井を見つめていたハルは、胸にさげていた、首飾りのアクセントにしては少し大きめの青い石を強く握った。

ハルの一族のお守りで、ハルは精神的に辛い時、このお守りを握りしめるのが癖になっていた。


嫌でも感じる彼のリミットは着実に減っているらしい。

青い石には青色の輝きを隠そうと覆うかのように白い亀裂に似た線が何本も何本もついていた。

白髪も随分と面積を占めるようになってきた。


「僕は、自分の運命を誇りだと思いたいんだ。自分が守る世界の様子を目に焼き付けて死にたい…。」


ベットに仰向けになって、そっと目を閉じたハルは、何を考えているのだろうか。

自分なら逃げ出してしまう運命を抱えた少年は、それでも強くあろうとする。


「そうか…。」


そう、彼を肯定してあげることしか、まだ俺には出来ない。


彼の運命を全うさせてあげられるのは、俺のはずなのに、彼の苦しみをなくしてあげられない。


なんだか俺まで息苦しい。


このままもう寝てしまおうか、そう考えていた時、重く沈んだ息苦しい空気が漂う部屋にノックの音が響く。


「失礼します。お風呂の準備が出来ましたけど。」


アリシアに声で少し空気が変わったような気がすると、一気に体がムズムズしてきた。

今日は半日だけだが、それでも暑い中歩き続けたのだ。野宿ではなく、せっかく王城にお世話になっているのだから、汗を流したいし、精神的疲労も癒したい。


「あぁ!すっかり忘れてた…。ハル、一緒に入らないか?」


「うん…。そうしようかな…。」


ハルはベットから降りて、俺と一緒に風呂へ向かう。

なんだか元気付けたくて、ハルの背中をバシッと叩くと一瞬びっくりしたような顔をして、また張り付いた笑顔を見せる。

そんな笑顔が見たいわけじゃないのに…。

なんて言ったら増々ハルは気を遣ってしまうだろう。

俺は普段と変わらずハルに接した。




入浴中はたわいのない話をしようとしても、直ぐに途切れてしまった。

またそれに対してハルが気を遣う悪循環が生まれてしまう。

もういっそのこと何も話さない方がいいのだろうかと思ったりもしたが、あくまで俺は普段と同じように接すると決めた身だ、話さない訳にはいかない。


夕食の準備が出来るまで、また部屋で待機する事になった。

ベットの上に腰掛けながら、股の間にハルを座らせて、髪を乾かしてあげている。

ハル以外には見たことのない、上半分が白髪で下半分がライトブルーの髪。

少し眺めの髪を、いつも俺の()()()()()の火の魔術で乾かしてあげるのだ。

手に炎が出ないように暖かい状態に保ちながら、手櫛をするように乾かしていく。

俺はこの時間が好きだった。

そんな中、いつもは話すくせに髪を乾かすのに集中しているフリをして、やっぱり話しかけられずに沈黙が続いていたのを破ったのは、ハルだった。


「やっぱりさ、アナサリアが眠ってるのって僕のせいかな。」


髪を乾かしているので、顔は見えない。

声色は、随分淡々としていた。


「…違うんじゃねーの?たまたまタイミングがそうなだけで、ほら、お前も言ってたじゃねーか。アナサリアは変わった種族だからって。」


俺は少し嘘をついた。


「そっか…。」


少し、また沈黙が流れると、ハルは続けた。


「ねぇ、もし…、もしさ。僕のせいだったとしてもさ。アレンは僕のこと好きでいてくれる?」


俺は、軽く声をあげて笑うと、髪をガシガシと撫でた。

ハルがアツっと小さく悲鳴をあげる。


「嫌いになるわけねーだろ。第2の冒険を始めた今日から、レミューリア入国した時から、俺はそのことに関しては覚悟はとっくに出来てる。」


これは嘘じゃない。


「そっか…。」


そう呟くと、ハルは俺が撫でた髪のところをクシャリと撫でた。


「例え、どんなにお前が嫌われようと、責められようと、俺は、少なくとも俺だけは、ずっとお前の味方だ。」


そう言うと、チラッとハルが見上げてきたので、ニッと笑ってやる。

すると、ハルも笑う。

もう、張り付いた笑顔では無かった。


ちょうど髪も乾かし終わったので、ハルの両肩をタンッと叩く。

ハルはその場で立って、クルリとこっちを向くと、俺の髪をガシャガシャと撫でた。


「なんだよ〜。」


と、笑って見せると、ハルはえへへっと笑い、


「嬉しかったから。」


と、また笑った。

俺が仕返しをすると、ハルもまたやってきた。

2人で髪をガシャガシャし合いながらバカみたいに笑った。


コンコンっと規則正しいノック音が響くと、手を止めて2人でドアを見つめた。

ノックの正体は、予想通りアリシアだった。

アリシアは表情を変えずに、夕飯出来ましたよ、と声をかけてくると、俺達と廊下を歩きながら、ハルの髪を直していた。



「わぁぁーー美味しそーーー!!!!!」


豪華な長机に並べられた、これまた豪華な食事の数々に思わずハルは歓声をあげる。

さっきの落ち込み具合は何処かへ行ったらしい。

アリシアや王も何処かホッとしているように見えた。


並べられたのは、レミューリア自慢の海鮮料理達。

海老がまるまる1匹刺身になっていたり、大きな器の海鮮スープ、巨大ガニの甲羅を入れ物にした、カニのリゾット。

もう全てを説明しきるのも大変なくらいだ。

レミューリアの料理が絶品なのは、前回の旅で経験済み。

俺も密かに楽しみにしていた。


前回は、手違いで案内された王城だったが、こんな美味しい料理にありつけるなら、自分の生まれに感謝したい。

いや、生まれに感謝する理由にしたいだけなのだが、そんな事はどうでもいい。


さっそくハルは、アリシアに椅子を引いてもらい、近くの席に着席すると、前掛けもアリシアにかけてもらい準備万端だ。

王もハルの後にアリシアに準備してもらうと、ハルと同様キラキラした顔をし、準備を完了する。

2人とも、もう戦闘モードだ。

俺はと言うと、相も変わらず自分で全てを用意し、ゆっくりと何を食べようか考えていた。

アリシアが最後に、静かに着席をすると、王は(王とハルの)戦闘開始の合図をした。


「それでは。アレン君とハル君の来国のお祝いを...!ようこそ、レミューリアへ!さぁさぁ食べて食べて〜!」


王の合図が終わった刹那、ハルは溢れんばかりの食べ物という食べ物を口の中に詰め込み、存分に味わい尽くす。

その様子はまるでリスのようで少し笑えてくる。

王も一緒になって、子供のように食事をしている。

ふと、そういうのを見ていると、幸せだなぁ、と感じるものだ。


ハルにも、この世界の人々にも、自然にも、何もかもにも、幸せになって欲しい。

そんな願いはしてはいけないのだろうか。


「おーい???!アレン??食べないと!!もったいない!!美味しいよ???」


ハルが、ボーッとしている俺を心配してか声をかけると、これから本気だすんだよ、なんて笑いながら一緒になって飯を食べる。


アリシアは、その様子をハルに声をかけられる前のアレンのように珍しく微かな笑みを浮かべながら見守っていた。



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