流れ星 蟹 掲示版
あるところに蟹太郎という、男子がいました。
彼はタラバガニという種族の蟹で、足が長くて真っ赤な蟹でした。
ある日、蟹太郎はパチスロで三万円を無駄にしました。
「ちっ、いいとこなしだ! クソがっ!」
彼はパチスロの帰り、道端のゴミ箱を蹴りつけて八つ当たりをします。
周りの痛い奴を見る視線が気になり、さらに不機嫌になって家に帰りました。
家に帰った蟹太郎は手も洗わず、すぐにパソコンを立ち上げます。
パソコンを立ち上げると、お気に入りからネット掲示板を選び、サイトに飛びました。
『今日はパチスロで5万勝ったわ』
嘘の発言をネット掲示板に書く蟹太郎。彼はパチスロで勝ったと書きこむことで、自己顕示欲を満たそうとしているのです。
このぐらいの発言は序の口、彼はどんどんとネット掲示板に書き込んでいきます。
『足が短い奴って、何をしてだめだよね』
『体色が赤くない負け犬おる?』
『世界で一番かっこいい種族、蟹に決定する』
様々な事を書きこむも、すべては自分を褒めて己を満たす言葉だけ。
自分の褒めれる部分をあらかた書き終わると、次は周りを下げに行きます。
『薬味が好きな奴は味覚障害』
『パチスロで自慢する馬鹿は死ね』
『犬の分際で人様に吠えるんじゃねぇ』
ひとしきり、様々な罵倒をすると、彼は満足したのかネット掲示板から離れました。
家に帰ってからずっとやっていたので、辺りには夜のとばりが落ちています。
「……」
パチスロで暇をつぶして、ネット掲示板で自分を満たす日々。
汚れた部屋で過ごす自分と、街中を歩く自身に満ちた人たち。
彼も本当は気づいていました。
自分がダメな蟹で、このままではいけないということに。
彼はそのことを自覚するのが嫌で、いつもパチスロやネット掲示板に逃げているだけなのです。
ベランダから外に出て、蟹太郎は煙草をふかしながら空を見上げます。
都会の空は地上からの明かりで、星もあまり見せません。
それでも見上げたのは、月が見たかったのか、それとも見えない何かを見たかったのか。
「あれは……」
煙草をふかしてみる空の先に、一筋の光の線が見えました。
それが何なのか、理解する前に彼はとっさに呟きました。
「死ね、死ね、死ね」
何故、死ねと言ったのかは蟹太郎にもわかりません。短い単語で言いやすかったからなのか、自分と違う周りを憎んでいたのか。それとも自分への言葉だったのか。
流れ星の逸話に、流れ星が消える前に三回願いを言うと願いが叶うというのがあります。
彼は流れ星が消える前に、願いを言えたのです。
「……何も起きないか」
呟く彼に答える者はいません。彼は皆に嫌われていて、独りぼっちなのです。
彼はそのまま、タバコの火を消して布団にくるまって寝ました。
***
「今日のご飯は何?」
「蟹よ。傷物だから親戚のおじさんが送ってくれたの」
「えー、ハンバーグとかのほうがいい」
「じゃあ、今日はハンバーグにしましょうか。蟹は捨てましょう」
「うん!」
おしまい。