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第二話 わたしとハイテッカー

 怪獣を撃破し、爆発を背景として二機の人影が戻ってくる。

 純と幸といった彼女たちは私たちのもとへやってくると、予告もなく抱き上げてきた。


「わわっ!? ちょっ、いったい何を」


「偶然にも私たちの目的地は診療所なんだよね。だから、連れていってあげようと思って」


 純の顔が私にとても近くなって、つい緊張してしまう。

 誰だって、顔立ちの整った女性にお姫様抱っこされればどきりとする。


 一方で負傷した杏には幸があたってくれていた。

 瓦礫や衣服の一部から即席の添え木と包帯を作り、肩を貸している。

 きっと彼女なら、安心して杏を任せられるのだろう。


「さて、幸ちゃん。その診療所ってどこだっけ?」


「……純。お前という女はいつも適当だな。地図は純が管理しているだろ」


「えっ? あっ、あー、なんかポケットから紙ぶっ飛ばしたような気がするけどそれかな」


「それかな、じゃない。私たちが迷子になったじゃないか」


「ま、歩けば着くんじゃない?」


「そこが適当すぎるんだ……」


 楽観的な笑みをみせ、抱き上げられている側にものすごく不安を与えてくる純。

 さっきまでは頼もしい正義の味方だったりした印象はどこかへ行ってしまいそうだ。

 幸はいつもこの純の性格に迷惑を被っているらしく、ため息ひとつで済んでいた。


「あの、二人とも」


 そんな中、杏が顔をあげ、ハイテッカーたちに声をかけた。


「その診療所なら、たぶんうちです。箱矢診療所でしょう」


「あぁ、それは助かる。案内を頼めるか?」


「もちろんです……」


「ね、なんとかなったでしょ!」


「純がどうにかしたんじゃないだろ」


 偶然にも、ふたりの目的地は杏の自宅であったらしい。

 なぜか自慢げになる純に幸が突っ込み、杏は苦笑いをする。

 月花はうまく反応できなかった、というかお姫様抱っこ状態のままの私はどうすればいいのだろう。


「んまぁ、このまま行こうか。ね、お嬢さん?」


 至近距離で微笑みかけられては、年頃の乙女はただ頷くくらいしかできない。

 私はそのまましばらく、歩き出す純の手の中で揺られ、金属のヒールが立てる足音を聞いていた。


 杏の案内で、彼女の自宅まではすぐに帰ってくる。

 玄関横には大きなトラックが止まっており、どうやらそれはハイテッカーの車のようで、私と杏を送り届けたふたりはそれぞれいくつかのスーツケースを受け取っていた。


「あ、あの、そのスーツケースって?」


「日常生活用の手足とか、非常用の兵器とか入ってるよ。さすがにジェットエンジン背負ったまま生活しないって」


 それもそうだ。

 純も幸もハイテッカーとしての武装を解除し、変わりに人の身体に忠実な形状をした義手義足を装着する。

 軽く動かして動作を確認すると、改めて目的地への到着に一息ついた。


「これでよし、と。じゃあ、さっそく上がらせてもらっても?」


「あぁ、いいですよ。患者もいませんし、あたしと月花しかもともと住んでないんで」


 純と幸は、スーツケースたちを伴い先に玄関をくぐっていく。

 状況がよくわかっていない私は置いてきぼりになっていて、全部知っているはずの杏にたずねてみた。


「あの人たち、ほんとにCMの人だよね、なんでこんなところに? ってか、私と杏って二人暮しだったの?」


「互いに親無しの幼馴染みだからな……今日からは二人暮しじゃなくなるな、あのふたりとも共同生活だ」


 ハイテッカーにはあの第6ワームホールとやらを監視する義務があるため、その最も近くで協力を承諾したのが杏だったという。


 共同生活。つまり、純と幸もこの診療所に住むということになる。

 いや、それ以前に、自分が元々杏の家の居候だったことにも驚いていた。


 両親がいないことは以前の自分にとってすでに慣れたことだったのか。

 私はあまり衝撃的には思わなかったが、それでもじゅうぶん事実は重い。


「おーい、家主さーん?」


 月花の考えていることなどつゆほども知らず、純が室内から呼ぶ声がする。

 真新しいとはいえない廊下を急ぎ目に歩き、生活感のあるやや散らかったリビングへと赴くと、ふたりは荷物を置いて待っていた。


「……どうかなされましたか?」


「私たちの部屋はどこを使えばいいのーってことと、あと挨拶してないって幸ちゃんに怒られてさ」


「滞在するのに自己紹介もなしでは失礼だからな」


 確かに、純のことも幸のことも、やたら強いことや顔がいいことくらいしかわかっていない。

 相手も杏や月花のことを知らないわけだし、そのままで共同生活は難しい。

 私は幸の言葉に頷いて、純の自己紹介を待つ。


 純は上品な紫色の長い髪をポニーテールでまとめている。

 しかし藍色の瞳はらんらんと輝いて、無邪気な表情を作っていた。

 機械になっているのは左腕で、いまはかなりリアルな義手を用いていた。


「私は串田(くしだ)(じゅん)、永遠の17歳!」


「嘘をつけ、23歳168センチFカップ彼氏彼女なしのリンク3ハイテッカーだろうが」


「まって幸ちゃん、私の意図してない情報がすっごく漏洩してるよ!?」


 恥ずかしいことまで混じっていたのか慌てる純は、幸に全部言われてしまったのかそれで自己紹介を打ち切った。

 もっと面白いこと言おうと思ってたのに、と拗ねる彼女はなんだか子供っぽくて、私はちょっとくすりとしてしまう。


 しかし、途中に挟まれたリンクとは何の数値だろうか。

 考えていると、隣の杏が察したのか耳打ちで教えてくれた。


「リンクってのは、ハイテッカーがどれだけ機械と一体化してるか、つまり身体改造の度合いだ」


 杏の知っているかぎりでは、3ともなれば兵器を容易く使いこなし、その機能を十全に発揮させられるのだとか。

 見たところ左腕だけだが、それなら1だと指一本とかだろうか。


 私は改めて純の姿をじろじろ見て、ふとあることに気がついた。

 腰のあたりからわずかに覗く素肌が、人工のものであるということに、だ。


 気づいたことに息をのんでいると、純は視線がくすぐったいと腰を手で隠した。


「お嬢さん、私の身体に興味あるのかな? でもごめんねー、お姉さん骨盤のあたり金属製なんだ」


 本当に左腕だけではなかったらしい。

 思い返せば、ジェットエンジンやブレードは腰のほうに配線を伸ばしていた覚えがある。

 義手だけでは、機械と一体化して扱うのはうまくできないのだろう。


「……さて、もう私の番でも大丈夫?」


「あっ、ごめんなさい! 大丈夫です!」


 幸は私のことを待ってくれていたみたいだった。

 彼女の機械の瞳と目線が合って、つい逸らしてしまう。

 その瞳は明るい茶色だが、右目はカメラアイに置き換えられており、無機質でちょっぴり怖かったのだ。


 首をかしげる幸の髪が揺れる。つややかな黒髪で、ふわりとしたショートボブである。

 他に、右目のほかには背中から右腕にかけてが人工皮膚となっていて、本人のクールさもあいまって近寄り難い印象がある。


「私は追川(おいかわ)(さち)だ。リンクと歳と、フリーなのは純と同じ。身長は172、Bカップだ」


「全部言っちゃうんだ……」


「私だけ隠すのは、不公平というものだろう」


 それはつまり、私と杏も交際相手の有無とかバストサイズとか言う流れだということか。

 私はひとまず愛想笑いを浮かべ、さすがにそれはないだろう、と自分に言い聞かせた。


「じゃあ次、お嬢さんね! お名前、年齢、身長、カップ数、カレカノ関係の順でよろしく」


「えっ」


「月花は記憶喪失だからあたしが答えます。荒本月花16歳、158センチでB。彼女候補は何人か」


「えっ私ってそうだったの!?」


 目覚めたばかりの自分でも知らない情報がつらつらと杏の口から述べられて焦る。

 そのさまを純がお腹を抱えて笑い、私は既視感を覚えた。

 これ、さっき純と幸でやっていたやりとりではなかろうか。


「じゃ、じゃあ私は杏のこと全部言っちゃうもんね! は、箱矢杏、同い年……だよね?」


「あぁ、同い年だよ。身長は月花より6センチ下、胸はワンサイズ上だ」


「んなっ、ま、負けてたの私!?」


 身長に関しては見てわかるのだが、正直白衣その他もろもろの衣服のせいで胸囲についてはよくわからない。

 正直杏は自分より幼児体型だと勝手に思っていたのに。


 意外な事実に謎の敗北感を味わいながら、私たちは自己紹介を終える。

 それからはそれぞれの自室となる部屋に案内されていき、この場は解散だ。


 私はというと、目覚めてからは初めての自分の部屋に戻っていくこととなった。

 そういった日常の動作は身体に染みついているもので、迷わずにたどり着ける。


 月花のへや、というかわいらしい表札の扉をくぐると、親しんだはずの匂いと風景が私を迎えてくれた。


「……あ。患者用のより寝心地いいかも」


 いきなり全部を忘れて、さらに怪獣騒ぎがあって、とても疲れた。

 ずっと眠っていたから、体力が衰えたのかもしれない。


 身体の感覚はいずれ戻るだろうか。

 継ぎ接ぎの身体はまだ動かしにくくて、ベッドに転がってもそれは変わらない。


 けれど、使い慣れた布団にくるまれば、少しはリラックスできた。

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