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ニャンの冒険Anothor World  作者: 犬猫ねずみ
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便利屋NGB

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      1


『アニマが地球に出現してから100年の歳月が流れ、その間に人間とアニマは共存関係を築きました。人間は地球での生活環境をアニマに与え、アニマは超法則を用いた技術を人間に提供した。現代では、法律上でも人間とアニマはほぼ同じように扱われ、また人々の生活は超法則によって豊かになった』


ファミレスの一角。据え付けられた大型テレビからアニマと人類の歴史を語るドキュメンタリー番組が流れている。そのテレビすぐ横のテーブルに、まるでぬいぐるみのように見えるネコ型のアニマと大学生くらいの男が座っていた。

『あ、ごめん寝てたにゃ』

ネコ型のアニマであるニャンは、あっけらかんとして様子で言う。

「寝てたって……。目開いてたじゃないか」

それに対して大学生くらいの男――城島幸嗣が疑問を口にする。

『ゆきつぐこそ寝ぼけてるんじゃにゃいか?』

ニャンは呆れたように息を吐く。

『人間と違って、アニマは寝るときに目をつぶらないにゃ。というか瞬きもしないにゃ。そんなこと常識にゃろ』

「あー、そういやそうだっけ。なんかド忘れしてた」

『まったく、仕事の最中なんだからしっかりしてにゃ』

ニャンはフン、と鼻を鳴らし、ぬいぐるみのような丸々とした手を突き付けてくる。

「いや、仕事の最中に寝てたお前には言われたくないけどな」

幸嗣は引きつった笑みを浮かべる。

「で、その仕事の話なんだが。ターゲットはいつ現れるんだ?」


      2


この町には、アニマと人間が平和に暮らしている。しかし、その平和な町でも犯罪は絶えず存在していてる。幸嗣とニャンは現在、ある犯罪組織を追っている。

「ターゲットが現れる場所はここで間違いないよな?」

2人は、犯罪組織の幹部がこのファミレスに現れるという情報を受けて待ち伏せしていた。

人探屋(ひとさがしや)から聞いた話だと、確実にこのファミレスに現れるはずなんだけどにゃあ』

ニャンはふわぁ、と欠伸をしながら辺りを見回す。

人探し屋、というのが今回、ファミレスに犯罪組織の幹部が現れるという情報を幸嗣たちに提供した業者の名前だ。

人類の得た超常の力――超法則は、ものを浮かせたり、操ったり、人の心に干渉するなど様々な能力(ちから)を持つ。人探屋というのは、その超法則を使って特定の人物を見つけることを得意としている業者のことだ。サイコメトリーや予知能力などあの手この手で、特定の人物の情報や現れる場所などを調べてくれる。

『あっ、アイツじゃにゃいか?』

と、ニャンはレジのところにいる中年男性を指さして言う。中年男性は、会計を済ませ店を出ようとしているところだ。

「え?マジ?」

幸嗣は急いで手元の資料を開き、添付されているターゲットの写真がその人物であることを確認すると、急いで立ち上がり店の出口に向かう。

「俺は先にヤツを追ってるから、会計を済ませといてくれ!」

「了解にゃ」

敬礼みたいなポーズをとるニャンを残して、幸嗣は店の外に駆け出す。


      3


ターゲットの男の後方数メートルの位置で幸嗣は追跡を続けていた。

「見た感じ不審な行動はしてないな・・・・・・」

ターゲットの中年男性は、出張中のサラリーマンとしか思えない雰囲気を漂わせていた。急ぐ風でもなく、慎重な風でもなければ、超法則を使ったりもしない。平均的な速度で歩いているため、追跡は容易だ。

「ほんとに組織の幹部なのか……?」

どう見ても一般人にしか見えない。今まで何人ものテロリストを見てきたが、これほど安全に感じる人間は初めてだ。幸嗣は追跡を続ける。

 5分ほど追跡を続けていると中年男性は突然立ち止まり、口に手を当てた。

「なんだ……?」

一瞬緊張する幸嗣だが、中年男性が欠伸したのを見て安心する。目尻の涙を拭った中年男性がまた歩き始め、彼はそのあとを追う。

角を3つほど曲がり、そこそこ長い路地に出たところで、中年男性の前に中学生くらいの少年が現れた。

「やあ、例のものは手に入った?」

少年は中年男性に話しかける。幸嗣は警戒を強めつつ、彼らの話に聞き耳を立てる。

「ああ、無警戒な相手から盗むことほど簡単なことはないよ」

中年男性は腰に手を当てながら快活に笑う。

「おっけおっけー。じゃあ戻ろっか」

少年は楽しそうに指でOKを作り、そのまま指を上に突き上げる。

「テレポート!」

「なっ!?」

少年が叫ぶ。が、何も起こらない。幸嗣は咄嗟に飛び出そうとしていた足を抑え込み、踏みとどまる。テレポート能力で組織の潜伏場所に逃げられたらまずいと思い飛び出そうとしたが、どうやらテレポートに失敗したようだ。

「なんか今、声聞こえなかった?」

「っ……!」

一瞬焦って声が出たのを聞かれていたのかと動揺する幸嗣。

「いや?何も聞こえなかったが?」

中年男性が首をかしげて答える。

「そう?まあいっか。そうだ、それよりその武器ここに置いて行ってよ。重量オーバーでテレポートできない」

幸嗣は気づかれなかったことで安堵するが、少年の言葉に疑問を覚える。武器を置くようにと言われた中年男性だが、幸嗣には特に何も持っていないように見えたからだ。

「ああ、それでさっきテレポートできなかったのか。しょうがないな。ほらよっと」

中年男性が手を振り上げると……。突然、彼の周りに銃器や手榴弾など多種多様な武器がいくつも現れ、ガシャガシャと音を立てて散らばる。

(……! あんな大量の武器、どこに隠してたんだ……⁉)

突然現れた武器に目を見開く幸嗣。そして、彼が目の前の光景に怯んでいる間に、少年が中年男性に手を触れ、反対の手を振り上げ指を立てる。

「テレポート!」

「しまっ……!」

音もなく中年男性と少年の姿は消えていた。

「ちくしょう……。逃がしたか」

幸嗣は足元の小石を蹴り上げる。


      4


テレビに映るドキュメンタリー番組は語る。

『超法則が使えるようになったことで人々の生活は豊かになった。しかし同時に、それは人々にとって新たな危険を生むことにもつながった。超法則を用いた犯罪者の出現だ。彼らは、超法則を用いることで証拠を残さず窃盗・強盗・殺人など数々の犯罪を行った。

――目には目を歯には歯を、超法則には超法則を。

それに対抗するべく現れたのが超法則を用いた警備組織だ。人々は犯罪集団から身を守るため、こぞって警備組織に依頼した。その結果、警備組織の数は増え続け、超法則を用いた犯罪は減少していった……。』


ターゲットに逃げられた幸嗣とニャンは、仕方なく彼らが所属する組織の事務所に戻ってきた。事務所に設置されたテレビからは先ほどアニマと人間の歴史を語っていたドキュメンタリー番組が流されていた。

『で、何もできずにターゲットを逃がした、と……。……はあ』

事務所に戻り組織のトップであるギズに結果を報告したところ、幸嗣とニャンはありがたいため息をいただいた。

『人探し屋に払った委託料も高かったんだからね。ちゃんとしてくれないと、困るよホント』

「……めんぼくない」

幸嗣はギズに謝る。ギズはネズミ型のアニマで、彼らの組織のトップとして日々、組織のまとめ役として働いている。

幸嗣が所属するこの組織は、現在4人で構成されている。城島幸嗣とネコ型アニマのニャン。ネズミ型アニマであり組織のトップでもあるギズ。

「まあまあ。ゆきつぐにも何か理由があったんでしょ?」

そして、幸嗣のことをフォローした組織の4人目のメンバーが天峰みさき。みさきは幸嗣と同年代の少女で、彼とは幼馴染だ。

『そうにゃんだよ!』

そこでニャンが右手をあげて声をあげる。ちなみに、右手を上げる仕草の意味はよく分からない。

ニャンは、ターゲットがテレポート能力者の少年と待ち合わせしていて、テレポートで逃げられたこと。ターゲットが大量の武器を隠し持っていて、幸嗣がそれをテレポート寸前まで認識できなかったことを説明した。

『テレポート能力者か……。それは厄介だね』

ギズは口に手を当てて悩む仕草をする。

「珍しい能力だよね。持ってたら大手の配達業に好待遇で就職確実だよ。……そんな能力を持ってるのになんで犯罪なんてしてるんだろう……」

みさきは不思議そうに首を捻る。

「たしかに……」

幸嗣は思案する。そして、その理由に心当たりがあることに気付く。

「重量制限だな……。テレポートを使った少年は、ターゲットの男に対して重量オーバーでテレポートできないと言っていた。アイツの能力は、たぶん合計で60~70kg以内の人やものをつれてテレポートすることしかできないんだろ」

『にゃるほど。それじゃ、配達業は厳しいニャンね。テレポートはかなり体力を消耗する能力だから、300kgは同時に運べないと、往復を繰り返すことになってすぐにバテちゃうからにゃー。あの少年、大したことないニャンね!』

ニャンは納得したように何度もうなずく。

「ところで、ニャン。おまえさっきから、さも自分もターゲットをしっかり追いかけていましたみたいな風に話してるけど。おまえファミレスで立ち往生してただけだろう」

『にゃ⁉仕方ないにゃろ!財布にお金が入ってなくて、お店を出られなかったんにゃから…』

それを聞いたギズとみさきから冷たい視線が刺さる。

『ま、まあとにかくにゃ。次頑張ればいいにゃ。次にゃ次!ほほほにゃほほほにゃ』

ニャンは誤魔化すように小躍りを始める。

『うーん、そうだね。次は組織の尻尾をつかまないと』

ギズは毅然とした表情で腕を組み、どこか遠くを見つめる。

『便利屋NGBから逃げられる思うなよ』



ドキュメンタリー番組は語る。

『超法則犯罪に対抗するべく超法則を用いた警備組織が増え、犯罪は減少していった。犯罪者が減り、警備だけでは稼げなくなった彼らの多くは、それまでの警備業務に加え、平常時は人探しや、掃除・手伝いなど超法則を用いて手広く仕事を請け負うようになった。そして、彼らはこう呼ばれるようになった』

――超法則便利屋、と。


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