冒険の始まり
序章
4月1日。心地の良い気候の中、町には活気が満ちていた。桜並木の長い坂道には満開の桜が咲き誇っており、そこを通る人々の顔には笑顔が浮かんでいる。坂道を登り切ったとこに最近開店したばかりのファミレスがある。
そのファミレスの窓際の席で……。
大学生くらいの男がネコ型のぬいぐるみと向かい合って座っていた。
「なあ、ニャン。どう思う?」
「…………」
男はぬいぐるみに話しかける。しかし、高さ100cm弱のぬいぐるみは微動だにせず、ただ沈黙が落ちる。
「おい、ニャン。聞いてんのか?」
「…………」
男はぬいぐるみの肩をつかみ、揺すりながら再度問いかける。しかし、やはり反応は返ってこない。
一般的にみて不気味な光景である。大の大人が、ファミレスでぬいぐるみに向かって何度も話しかけている。常識的に考えれば、とてもまともな行動とはいえない。
しかし、周囲の人間は、誰一人として男を気に留めてはいなかった。極々、一般的なことであるかのようにふるまっている。否、極々一般的なことなのである。
『あ、ごめん。寝てたにゃ』
――この世界に、ぬいぐるみのような生物がいることは。
――約100年前
アニマという生物が地球に現れたことで、人類の生活は様変わりした。
アニマは、大型のぬいぐるみのような外見と知能を併せ持つ生物である。また、彼らは超法則と呼ばれる超常の力をもち、ものを生み出し、消滅させ、直すことすらできた。
もともと異世界に住んでいた彼らは、ある日突然、地球に出現した。
その数、1000万体。
当時の人類は、謎の生物の襲来に驚きと動揺を隠せなかった。
また、同時に人類は自分自身の変化に驚くことになった。アニマの出現と時を同じくして、人類は超常の力――超法則を使えるようになったのだ。
結果、人類は一人残らず超能力者となった