終焉の始まり
「あ・・・くぅ、悠希・・・。」
今日もまた、私はあの子を凌辱してしまった。
「あぁ・・・ダメェ・・・くぅ・・・」
最低な行為だと頭で解っていても、身体が動いてしまう。
「あぅ・・・悠希・・・悠希・・・。」
全身の力が抜けて頭が真っ白になった。強い虚脱感と激しい嫌悪感、そして強烈な快感・・・様々な感情が混ざりながらも一時の幸福感に包まれていた。意識が朦朧としながら、あの子の事を思い出し、一筋の涙が頬を伝う。
「御早う琴美。昨夜はお楽しみだったな。」
「また私の部屋を覗いてたの?趣味が悪いわよ酒呑童子。」
「いやいや、夜中にあれだけ艶かしい声を出されたら嫌でも聴こえちゃうよ。」
「し、仕方ないでしょ。玉藻の前だって時々はそう言う気持ちになる事あるでしょ!てゆーかソコは気付かないフリしてよ。本当に妖怪ってデリカシー無いんだから。」
朝から同居人に自慰行為をからかわれて最悪な気分だ。しかも同居人とういうのが人間ではなく、妖怪というのだから余計に気が滅入る。
「本当に気が滅入るわ。」
「なんだ?自慰行為を聴かれたのがそんなにショックか?」
「もうその事については忘れてよ。私の悩みは貴方達妖怪と生活していることよ。なんの因果で退魔士と妖怪が一つ屋根の下で暮らしているのかしら。しかも最強クラスで悪名高い鬼と九尾の狐なんて。」
酒天童子と言えば、科学が発達した現代においても知る人ぞ知る鬼の頭領だ。玉藻の前にしても鬼と並ぶ日本屈指の妖怪である。
「いや、うちらは二代目だから。悪名高い親父らはもう死んじゃったし、昔の親父に比べたらアタシなんて全然弱いからね。」
「私もお母様に比べたら10分の1の力も無いですよ。」
本当かどうかは疑わしい。妖怪最盛期の彼らよりは確かに力は劣るかもしれない。しかし、それでも古来から恐れられる2大妖怪の子孫。弱い筈がない。なぜ力を隠しているのかはわからないけど、今のところ悪意は感じられないから詮索はしない。
「早く行かないと学校に遅れるぞ。」
「わかってるわよ。じゃあ行ってくるけど、私が帰ってくるまで大人しくしてなさいよ。」
「はいよ。動きたくても動けないから大丈夫だよ。」
「え?具合でも悪いの?なら安静にしてなさいよ。いってきます。」
「・・・まだあの時の傷が癒えないの酒天童子?」
「あぁ・・・完膚なきまでにやられたからな。全く、アイツは私らを化け物扱いするが・・・」
「どっちが化け物なのかしらね・・・」
憂鬱だ。退魔士としての力さえ持っていなきゃ普通の女の子として生活していたのだろうに。せめて学校だけでも普通の所に通っていればまだマシだったかもしれない。
「あーら、なにか血生臭いと思ったら琴美さんではありませんか。昨日もまた妖怪を殺戮してまわっていたみたいですわね。下牋な方々は本当血の気の多いこと。」
また来た。毎日毎日突っ掛かってきて本当にウザイわね。私の何が気に入らないのかしら。特に嫌われるような事はしてないんだけど。
「あら、なにか鼻につくドギツい香水の香りがすると思ったら麗華様ではありませんか。ごきげんよう。名家の方々は腰が重くてノロマなもので下じもの私達がお仕事をしているのですよ。」
「なんですって?」
聖徳院麗華。古来より魔の者から日ノ本を護ってきた退魔士の名門『聖徳院家』の次期当主。家柄もさることながら麗華本人の能力も相当なものだ。退魔士として特別な力を持つ者が通うこの討魔学園においても学力・術力共にトップの成績を誇る。そんなスーパーお嬢様がなぜ小物である私なんかに突っ掛かるのか皆目見当がつかない。
「ふん。ちょっと力があるからって調子に乗らないでよ。退魔士としてどちらが優秀か身をもって教えてあげるわ。」
「それはぜひご教授願いたいわね。それでは、ごきげんよう。」
「くっ・・・琴美、覚えてなさいよ。」
人々を魔の手から護るのが私達の仕事なのに、退魔士同士で争ってどうするのよ。見た目は凄く可愛い娘なんだけど、性格があれじゃ台無しね。
そうこうしている内に学校にたどり着いた。