たまには恋バナもいいよね。
みゆさんと手を繋いでから早1ヶ月。
今も感触が忘れられない。
柔らかくて、あったかくて…。
ほっとする、あの触り心地…。
(…って!仕事中に考えていいことじゃない!)
そう、今は仕事中。目の前のことに集中せねば。
「りりさん?」
「はい?」
「仕事の手が止まってるよ。」
「ご、ごめん。ちょっと考え事してて。」
声をかけてきたのは横田さんだった。
「チョコ、いる?」
返事をする前に、私の手の上に色とりどりのチョコレートを放り投げてきた。
横田さんなりの気遣いということだろうか。
「ありがとう…。」
「最近よくぼんやりしてるけど、なんかあった?」
「じ、実は…。」
「え!?好きな人がいる!?」
「しーっ、横田さん声大きい!」
お昼休憩で、(みゆさん特製)弁当を持って近くの公園に来た私たちだったが、ベンチはリア充でふさがっていたので、とりあえず噴水に腰掛けた。
「ねえ、いつからいつから?」
「尋常じゃないくらいくいついてくるね…。」
「だって、知りたいんだもの!」
いきいきとしだす彼女。この状況になるともう逃げることはできない。
「…実は結構前から好きで。」
「うん!」
「でも告白はしてなくて。」
「うん!」
「あ、あと一緒に暮らしてる。」
「うん!?」
「ずっこけないでくれる!?」
「ごめんごめん、さすがにおどろいた。」
こほん、と冷静さを取り戻す恋バナ大好き人間。
「一緒に暮らしてるって、それ同棲でしょ?付き合うどころか結婚前提じゃない。脈ない方がおかしいよ。」
「そうかなぁ…。こないだ手を繋いだんだけど、あっちはそのあとも変化ないんだよね。」
「そんなの照れ隠しだって!ねえねえ、もっと聞かせてよ!」
「しょうがないなあ…って、もう休憩終わるよ!急いで戻らなきゃ!」
弁当箱を慌てて片付けながら、急いで仕事に戻った。
ばたん。
「ふーっ、今日も疲れた…。」
するり、と結んでいた髪をほどく。
「まさかりりさんに、ね…。」
ルームウェアに着替え、軽くおにぎりをつまむ。
横田恵美と丁寧に記名された手帳を開き、今日の日付に線を引く。
ぱたりとそれを両手で閉じる。
口からは重い溜息が漏れた。
「好きな人がいる人を振り向かせるって、どうやったらいいんだろう…。」
彼女の頬は濡れていた。