お出かけしよう!(終)
それからはあっという間だった。
お互いに曲を入れあい、たくさん歌った。
みゆさんはとても歌がうまかったのが意外だった。
バラードは切なく歌い上げるし、ノリノリな曲でも音程を外さなかった。
私も下手な方ではないが、あそこまでうまいと気後れしてしまいそうだった。
それでも、楽しかった。
好きな人と2人で遊ぶということがどれほど楽しいか。
それがわかった気がした。
いつも一緒にいるのに、場所を移しただけでまた違う一面が見られるなんて。
…この人は、どこまで私を夢中にさせるのだろう。
気づけばもう部屋を出る時間だった。
延長も考えたが、歌いすぎて喉を痛めそうだったのでやめた。
部屋を出てレジの前に立ったとき、ひとつおかしな点に気がついた。
私は目の前で愛想笑いを浮かべている店員に聞いてみた。
「あの…2時間前にいた男の店員さんは?」
レジや、裏に見える厨房で働いている店員は皆女性だった。
男の人が1人もいないのだ。
「…?現在当店のスタッフは女性しかおりません。見間違いでは?」
愛想笑いを少し歪める店員。
「そんな…。みゆさん、見ましたよね?」
「うん。確か男の人だったと思うんだけどなー。」
「そうですか。では、お会計1800円になります。」
もう対応をするのも面倒くさそうだ。
それ以上追及するのも申し訳なく感じ、何も言わずお金を払って家路についた。
「一体、あれは誰だったんだろう…。」
玄関で靴を脱ぎながらぽつりと呟く。
するとみゆさんがうつむきながら話しかけてきた。
「…りりちゃん。」
「なんです?」
「しゅんしゅんごりらめっちゃ可愛い。」
手のひらに握られているサイダーのおまけ。
「…わかってくれましたか。」
しゅんしゅんごりらの可愛さを共有できた嬉しさで、疑問が吹っ飛んでしまった。