お出かけしよう!(2)
目の前に立ちはだかる、ボロボロの雑居ビル。
かつて美しかったであろう塗装はまだらに剥げ落ちており、この建物がどれだけの年月の間建っていたかを象徴しているようだ。
そして入り口には、古めかしいビルとは対照的に真新しい看板がかかっている。
「カラオケランド」…と。
「「…」」
思わず黙りこくる2人。
先に口をひらいたのはみゆさんだった。
「ね、ねえ…。ここ、であってるのかなあ?」
道案内を頼んだスマートフォンと目の前の現実を何度も見比べながら、隣の人物に問いかける。
しかし声は届いていないようだ。
「なにここ…。まるでお化け屋敷…。」
「り、りりちゃん?」
「めっちゃ好み!」
「え!?」
目を子供のようにきらきらさせながらりりはそう叫ぶ。
そう、この女大のホラー好きである。
「みゆさんはやく中に入りましょうよ!絶対楽しいですって!」
「えっ、ちょ、まって…。」
抵抗するもぐいぐいと腕を引っ張られ、考える間を与えないまま未開の地に足を踏み入れることとなった。
中は外見ほどさびれてはいなかった。
受付には店員が1人だけたっている。
カラオケだというのにBGMの音量がかなり小さく、慎ましい印象だ。
「初めて来たんですけど…。」
「身分証などはお持ちでしょうか?」
30代前半と思われる、少し疲れが表情に出ている男の店員が丁寧に対応する。
「えーと…。今はないですね。」
「それですと会員証を発行できませんので少々お高くなりますがよろしいでしょうか?」
「あれ、でもこのチラシには初回無料って…。」
もってきたチラシを見せる。
しかし店員はそれについて一切触れなかった。
「お時間は?」
「えっ…。と、とりあえず二時間で。」
「はい、では一番奥の部屋となります。今10時ですので、12時10分前になったらお声がけ致しますね。」
マイクなどの入ったカゴを受け取り、2人は部屋へと向かった。
笑顔でこちらを見てくる店員に、りりはなぜか妙な気分を覚えた。
部屋の中は綺麗だった。
「外見はちょっとアレだったけど、中は綺麗でよかったよぉー。」
緊張がとけたと言わんばかりに、みゆさんが机の上に突っ伏している。
「なにか飲み物でも頼みましょうか?」
「そうだねー。メニューとってー。」
「はい、どうぞ。」
メニューは一つしかないので、交互に見て決めることとなった。
こうして宴は始まったのである。