お出かけしよう!(1)
「ねーりりちゃーん。ひまー。」
床をごろごろ転がりながらだだをこねる成人女性。
狭いスペースをフル活用した無駄のないローリング、しかしそのパーフェクツアピールをもってしても、彼女の牙城は崩せない。
「ひまなんですか?じゃあ洗濯物たたんでください。食器洗いでもいいですよ。」
ひま=することがないとおもっているりりは、純粋な善意から家事を勧める。
「違う!」
「何が違うんですか?暇なんでしょう?」
はて、とおもわず目の前のふくれっ面を見つめる。
「そうじゃなくてさー…。」
「なんです?」
「あーもう!遊びに行こうって誘ってるんじゃん!」
はーっと重いため息がりりの口から漏れる。
「みゆさん、時計を見てください。」
「…10時だねえ。」
「ああ、そっちじゃなく、自分のスマホの待ち受けを見てください。」
「…22時だねえ。」
「よって遊びにはいけません、諦めてください。」
もはや呆れ顔だ。この時間から一体どこに行こうというのか。
「ふっふっふ、ところがどっこいあるんだなあ。」
「ないでしょう。」
ばっさり。
「りりちゃん、このチラシを見よ!」
「…これは?」
『本日オープン、カラオケランド!24時間営業!初回1時間無料キャンペーン中!』
「カラオケ…?」
無駄に派手な広告だった。新聞に挟まっていたものをみゆさんが見つけてしまったのだ。
どうやらこの近くにカラオケができたらしい。
「ということで、行こっ?」
にこっ、と笑いかける笑顔が眩しくて、ついOKしてしまいそうになる。
だがしかし。
「明日も仕事ですよ?それにみゆさん夜更かし得意じゃないでしょう。」
「ちぇー…。行きたいなあ…。」
そもそもお互いすでに化粧は落としてしまっているのだ。
もう一度化粧をする気力なんて残っていない。
「…じゃあ、せめて今度お休みの時に連れてってよ。」
寂しそうにそう呟く。
もともとこの辺りは田舎であまり商業施設もない。
だから、みゆさんがはしゃぐ気持ちもわからないではなかった。
りりは、ふっと笑う。
「もう、しょうがないですね。今度一緒に行きましょうか。」
「いいの!?わーいわーい、りりちゃんだいすき!」
喜びりりに抱きつくみゆさん。
しかしそれとは反対にりりの頭はショートしそうだった。
(だいすき…?みゆさん、私のこと、すき、すきって…。いや、友達として、だよね。でも、もしかしたら…?)
「じゃありりちゃん、約束ね!」
「ふぇ?…あっ、はい…」
その日の夜は一睡もできなかった。