みゆさんの耳事情。
「たっだいまー!」
みゆさんが、頼んでいた夕飯の買い出しから帰ってきた。
お互い働いている身だが、今日はみゆさんの仕事が休みだったのでついでに頼んだのだ。
みゆさんをちらりとみて、ため息をつく。
「みゆさん、帰り道なにかありましたか?」
「え、なんでわかるの!?帰りに突然犬に吠えられたんだぁ〜。いやーあれはびっくりしたなぁ。」
「出てますよ、耳。」
「うそ!?」
みゆさんは真っ赤になる。それもそのはずだ。
本来人の耳があるべきそこから、真っ白な猫耳が生えているのだから。
なぜかと言われても原因は分からない。
私と一緒に暮らしだしてからみゆさんはこの体質になった。
正直私としてはかわいすぎてごちそうさまですとしか思わないのだが、厄介なのが一度耳が変化すると10分ほど元に戻らないことだ。
そのため、
「外で誰かに会いませんでしたか?」
「散歩中の近所のおばあちゃんに会ったよ。」
「また驚かせたんじゃないでしょうね。」
「すごい形相で小走りで去っていっただけだよぉ〜。」
「それ驚かせてますから!」
と、このように。人を驚かせてしまうのだ。
コスプレイヤー扱いになるならまだいいのだが、この辺りはお年寄りが多い。
最近では「この辺りに化け猫が出る」とまで噂されるようになった。
「うーん…。どうして耳がこうなっちゃうんだろ。」
悩むみゆさんもかわいいなと思いつつ、そんなことを言っている場合ではないと考え直す。
「あの、とりあえず部屋入ってください。夕飯食べられなくなりますよ。」
「はーい。」
「ほら、材料出してください。」
「はいはい、えらーい先輩はちゃーんとじゃがいもとカレールー買ってきましたよー!」
「ありがとうござい…ん?今日はシチューだと言ったと思うんですけど。」
「えっ、そうだっけ?」
「とぼけないでくださいよ…。私まともな料理シチューしかつくれないっていつも言ってるじゃないですか…。」
「で、でもでも!メモにはカレールーって…」
そのとき、ビニール袋からひらりと落ちる一枚の紙切れ。
そこには私の字でこう記してあった。
『ルー じゃがいも』
「「……」」
沈黙が二人を包む。
「たしかにシチューのルーとは書いてませんでしたね。」
「ね!私間違ってなーい!」
「かといってカレールーとも書いてませんけどね。」
「ぐはっ!!」
みゆさんに300のダメージ!
「まあ、ないものはないのでカレールー使わせてもらいますよ。」
「でもりりちゃんって、シチュー以外の料理壊滅的じゃ…。」
「煮込み料理だから似たようなものでしょう。できますよ。」
「不安だなあ…。」
一時間後…。
炭と化したカレー(?)を前に、りりは迷わず出前をとったという。