おしゃれって楽しいよね。
世間ではGW。
りりもみゆさんもしっかり休みが取れたので、この機会に思いっきり休もうとりりはうきうきしていた。
朝八時に起き、テレビをつけて寝転がる。
ああ、なにもしなくてよいとはなんと幸せなことだろう…。
起きたばかりにもかかわらずうとうととまどろんでいると、こちらの顔を覗き込む者と目があった。
「りりちゃん。」
それは、いつになく真剣な顔をした彼女だった。
「なんです?」
なにか大事な話があるのかと、起き上がって向きなおる。
「…服、買いに行こう。」
「へ?なんでまた急に?」
突拍子もないことを言い出すな、とは思ったものの、彼女の話の全貌がみえない。
「りりちゃん、その服いつ買ったか覚えてる?」
「この寝巻きですか?たしか、高校の時かと…。」
「じゃあ、最近服を買ったのはいつ?」
「…?服なんて着られればいいじゃないですか。穴が開かなければいつまでも着られますし。」
正論を言ったつもりだったが、みゆさんはふくれている。
あれ?なにか変なこと言っただろうか?
「もう!女の子はおしゃれしてなんぼだよ!?今しか着られない服がたくさんあるんだから!さあ、いくよ、準備して!」
「は、はあ…。」
おしゃれなんてひとつも興味がないから、別に行きたくもないんだけど…仕方ない。ふくれてるときのみゆさんにはかなわない。
こうして、半ば強引に、近くのショッピングモールに二人で行くことになった。
「さあ、ついたよりりちゃん!どこのお店から回ろうか?」
「あ、じゃああそこ…。」
はやく済ませたかったこともあり、最初に目についたシンプルな服屋さんに入る。
「あ、ここ結構安いですね。じゃあこのTシャツ3枚とジーンズ3枚買って終わりましょう。」
無地の白いTシャツと飾り気のないジーンズを手に取り、レジに向かおうとした手はみゆさんにとって止められた。
真っ白い耳がぴょこぴょこと動いている。幸い周りに人はいなかった。
「りりちゃん。私の耳を見て?」
「猫耳が出てますね、なぜでしょう?」
「あることに驚いたからだよ。なんだと思う?」
「え、なにか驚くことありました?」
すーっ…。
「普通服買うっていったらおしゃれ着でしょ!?なんでさっさとすまそうとしてるの!」
「いやだって、おしゃれ興味ないし…。」
「無理にでも興味もって!せめてスカート買おう!はい、これはもどすよ。」
「はーい…。」
ああ、みゆさんの面倒臭いスイッチが入ってしまった…。おしゃれのことになるといつもこうなるんだよなぁ。
「私がいつも服買うお店にいこう。いいね?」
私は、返事する間もなく次のお店に引きずられていくのであった。
「よーし、こんな感じかな。」
可愛らしい店で私は着せ替え人形になっていた。
ボーダーのワンピースを着て白い上着を羽織り、黒のショートパンツを履いている私が試着室の鏡に映っている。
「…こんな格好どこかでみたことあるような。気のせいかな?」
そんな私とは対照的に、彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。
「うんうんいいね!似合ってるよ!」
みゆさんはささっと値札を確認して、お財布をかまえる。
「すみませーん店員さん!着たまま帰るのでお会計お願いしまーす!」
「え、私今日そんなにお金もってませんよ!?」
「大丈夫、私が払うから!このときのために少しずつ貯めておいたのさ。」
「は、はあ…。」
すぐに店員さんがやってきてお会計が終わり、どこかでみたような服のまま帰ることになったのであった。
服を買った帰り道。美しい夕焼けが二人を照らしている。
機嫌がよさそうな彼女の頬に紅い光が当たって、いつもよりも幻想的な輝きを放っている。
私は、どうしても聞きたかったことを聞こうと決意した。
「ねえ、みゆさん。」
「なあに?」
「その、どうして急に服買おうと思ったんですか?しかも私の服…。みゆさんの服を買ったほうがよかったんじゃ…。」
私がそういうと、彼女は困ったような笑みを浮かべた。
「だって、りりちゃんいつもおんなじ服装なんだもん。だから、違う格好も見てみたくて。」
「そういうものでしょうか…。」
「それにね…やっぱり、なんでもない。」
そう呟いた彼女の顔からは、普段のおどけた感じはなくなっていた。
今まで一緒に暮らしてきた中でもみたことのない、優しくて、でも苦しそうな…そんな笑顔。
それをみたら胸が苦しくなって。なにもいえなくなってしまった。
柔らかな沈黙が、なにも話さない二人を包んでいるようだった。