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涼風爽快  作者: 愛田美月
8/10

第八話 最後の回答

 子ども達を連れて事務所に戻り、俺は一人事務所の机に肘をついた。子ども達は隣の住居スペースで大人しく遊んでいるはずだ。

 そして俺は、坂田に言われた最後のヒントを思い出していた。

「頭を見なさいか……」

 どういう意味だろうか。俺にはさっぱり分からなかった。

 また古木夫婦の助力を乞うかな。そう思ったが、俺は頭を振った。最後の謎くらい自分で解決できなくては、探偵の名が廃る。

 考えているうちにふと思い出した事があった。あの暗号である。俺はあの時何か、違和感を覚えたのだ。変わった言い回しをしている。そんな風に思ったはずだ。

 俺は机の引き出しに入れていた紙を取り出した。暗号の書かれた紙だ。俺はそれを暫く眺めて、アッと声を上げた。

 急にひらめいたものがあった。頭を見なさい。なんと単純なことだったのだろう。暗号文の違和感もコレが分れば解消された。なんとかこの答えに合わせる様に作られた文だったから、違和感が残ったのだ。

 俺はすぐさま電話帳をとり出して、開いた。その場所はきっと電話帳ですぐに調べる事が出来るだろう。

 もう、夕方だ。美紗子に会うのは明日にしよう。

 俺はそう思い、そして美紗子のことを思った。美紗子は今どうしているのだろうか。不安が渦巻いていた。本当に美紗子はこの場所にいるのだろうか。いるとしたらなぜ? 俺は悪い想像をして、首を横に振った。

 そして俺は坂田の言葉を思い出していた。彼女は確かにこう言った。美紗子には時間が無い。そして、化けて出られると。

 バーのママ、澤田も言っていたではないか。美紗子は病気かと疑うくらい痩せていたと。

 俺は溜息を吐いた。最近溜息ばかり出る。

 今やっと美紗子に近づいた。俺の元から離れて、俺の子を産んだ美紗子。

 俺はもう子ども達が俺の実の子だということに、疑いを持っていなかった。子ども達のあの力。アレは俺の能力を受け継いだとしか思えなかった。

 俺は高校の時、美紗子に言った言葉を思い出していた。

 近くを走っていく子どもを見て、子どもって可愛いわよねと言った美紗子に、俺はこう答えたのだ。

『確かにかわいいけど。俺は、子どもは要らないな。自分の力を受け継いだ子どもが生まれるかもしれないし、俺はそんなのごめんだね』

 その時の美紗子の、なんともいえない顔を今はっきりと思い出していた。もしかしたらあの時にはもう、美紗子は自分のお腹の中に、子どもが宿っていることを知っていたのだろうか。知っていて、俺の反応を窺ったのだろうか。もしそうなら俺は、一生悔やむ事になるだろう。

 もしあの時、美紗子が俺に打ち明けてくれていたら、俺はそりゃ驚くだろうが、受け入れられたと思う。子どもは嫌いではなかった。こんな能力さえなかったら、子どもは欲しかったのだ。

 そこまで考えて、俺は苦笑した。もしあの時とか、そうしていたらとか、そんなことを考えていても意味が無いことに気づいたのだ。

 あの時、美紗子は俺に子どもの事は告げなかった。俺も居なくなった美紗子を探そうとはしなかった。

 互いに別の思いを抱え、すれ違っていたとしても、今の自分が昔の自分に助言することは出来ないのだ。

 大切なのは現在(いま)だ。

 美紗子の気持ちを聞くのは明日になれば出来るだろう。あの暗号の意味があっていれば、俺は確実に美紗子と対面することが出来るのだから。

 七年ぶりの再会は一体どうなるのだろうか。

 美紗子に会って、俺は最初になんと言えばいいのだろうか。

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