第十話 これから
夏が過ぎ、秋が来て、もうすぐ冬。そんな時期に、美紗子は亡くなった。
俺と美紗子は七年ぶりの再会を果たした後、すぐに結婚した。式はもちろん出来なかったが、俺達はそれで良かった。
残り一ヶ月といわれていた美紗子は、半年も長く生きてくれた。俺はその間仕事を休んで、ずっと美紗子のそばにいた。
美紗子は俺と三人の子ども達に囲まれ、最後まで笑顔で、亡くなった。俺はそれだけで満足だった。
三人の子どもも、母親の死を受け入れた。
子ども達が死というものをきちんと理解しているのかは分からないが、ただ、もう美紗子に会うことは出来ないのだと、本能で悟っているようだった。
「お父さん。早く」
呼ばれて俺は顔を上げた。俺の前を走っていた子ども達が、足をとめて俺を待っている。
「分かった」
俺はそう言って走り出した。冷たい風が頬をすり抜けた。もう、冬だ。あと数日で今年も終わる。白い息を吐き出しながら、俺は子ども達の待つ場所へ向って走る。
美紗子。俺は幸せだよ。子ども達と一緒に、俺はお前の分まで生きていく。
「あー、雪だ」
「うわぁ、綺麗だねぇ」
「雪だるま作れるかな」
子ども達の声が、空に向って放たれた。
ひらひらと舞い落ちてきた白い雪が、俺の掌に落ちて溶けた。
「わあ、いっぱい降ってきたぁ」
子ども達が三人同時に歓声を上げた。
その声につられて見上げた雪空に、美紗子の笑顔が、見えた気がした。
〜後書き〜
……最後まで読んでいただきありがとうございます。
あらすじにも書きましたが、このお話は『一ノ瀬探偵事務所事件ファイル』(短編)として投稿している小説を、加筆修正し、ジャンルを推理からその他に変え、連載形式の方が読みやすいと多数ご指摘いただきましたので、新に連載形式にて発表させて頂いたものです。その際、題名も『一ノ瀬探偵事務所事件ファイル』から、執筆中につけていた仮の題名『涼風爽快』へと変更いたしました。
一ノ瀬探偵事務所事件ファイルに評価、感想を下さった皆様、ランキングに投票していただいた皆様。本当にありがとうございます。『一ノ瀬探偵事務所事件ファイル』は1月17日を持って削除させていただきました。皆様の評価、感想を胸にこれからもがんばります。
改めて小説を投稿する際、あちこち修正しました。少しでも読みやすくなっているとよいのですが。
実は私、一人称小説を書くのはこれが初の経験でして、しかも最後まで書くことの出来た小説はこれが二つ目だったりします(汗)
なにはともあれ、せっかくの後書きですので、裏話でも。
『一ノ瀬〜』の後書きでも書きましたが、このお話し、実は病院でのシーンから作っていったお話しだったりします。(それにしても私が恋愛を描くとどうしてこうクサくなるのか(苦笑い))
その割りに、書いていて一番楽しかったのは、涼と子ども達のからみのシーンでしたが(笑)
そして、第十話。最初投稿しようとしたら、六百字足りてなくて投稿できなかったんです。ホント焦りました。幸いあと四文字だったので、悩んだ末、地の文以外で五文字足しました。(その後少し修正したのでもう少し増えているかもですが)どこかは、まあ、ご想像にお任せします(笑)
それでは少し長くなりましたので、この辺で。
最後になりましたが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
愛田 美月でした。