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華の人形 ー緑の国 外伝ー  作者: watausagi
序章 桜・メリーゴールド
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妖精さんの、仕業かな?

◇◇◇◇◇


 カランカラン〜……と、今気づいたのですが、この扉には小さな小さな鈴がついているんですね。でも、これだけ小さい音だと誰も気づかないと思うんですけど。


「お、おじゃましまぁす」


 はうっ、このお店は、この前きたばかりとはいえ、やはり息苦しいものがあります。人形だらけというのは、それだけで自分がひどく惨めな存在に思えてきて……あれ? そう思ってしまうのは、私だけですかね。


 ですが、人形に囲まれた空間で1人、人形に負けないくらい整った顔立ちをした女性……というよりは私と同い年くらいの、とても綺麗な女の子がいます。青のワンピースと、金髪が特徴です。

 先生から「黒薔薇姫の現実離れした美貌」という説明をされ、私が真っ先にイメージしたのはメリーさんでした。ただ、このメリーさんにも不吉な噂はあるんですよね。その顔は、人間の魂を啜り得たものだとか。


 私がそんな馬鹿なと思いつつ、当の本人は謎めいた笑みを浮かべながら、私に言うのです。


「ようこそ、リトル・リドル・ドールズへ。今日も、1人で来たの?」


 そして私はこう返すのです、


「は、はい。今日も私、1人で来ました」


 前回と違うところは、メリーさんはもう私のお願いを知っており、そのお願いは今日をもって果たされたという事なのです。


「それーー」


 メリーさんが私の抱きしめた物に、指を差しました。


「ピンクのクマ、返してくれるのね」

「……はい」

「いいの?」

「はい?」

「貴女の目には、葛藤が映っている」

「それは……」

「今にもクマを連れて、どこか遠くへ逃げてしまいそう」

「そんな事しません!」

「そんな事をしていいんだよ。少なくとも私は、そうなると貴女を追えない。貴女からクマを取れば、私が盗人になってしまうから」

「だから、そんな事しません!」

「そう。なら、返して」


 そうです。そうなんです。結局、私は弟のお願いより、メリーさんとの約束を選んだのでした。

 ダメな姉です。弟の言う通り、馬鹿な姉です。どうしようもなく、どごまでもお馬鹿でーーだから完全には、諦めきれていない私でした。


 ピンクのクマをメリーさんに渡して、次にこう言うのです。待っていてくれと。絶対に、今度は今度こそ自分のお金で買うから、それまでこのクマを、と。


「メリーさん、私ーー」

「はい。どうぞ」

「あ、どうも……え?」


 あれ、何でしょうこれ。えーと、足りない頭でよく考えてみます。私がクマをメリーさんに渡すと、メリーさんはクマをくれました。


 何じゃこりゃ。


 これは如何に有名な探偵であろうと難解な状況でしょう。事実、私はさっぱりでした。その中で唯一答えを知っている、謎の行動を起こしたメリーさんだけは謎めいた笑みを浮かべたまま、私にアレを言います。


「金貨1枚と銀貨2枚」


 それは……


「そのクマの妥当な価値」


 そしてメリーさんは、ポケットから金貨1枚と銀貨2枚を出しました。


「どうしてなのかなぁ?

今日、私が起きて、はぁ……仕事キツイなぁ。人形も正直、もう作りたくないなぁ。と思ってここまで来たの」


 そんな事を思ってたんだ!?

 気のせいでしょうか。後ろの方で物音がした気がします。まあ、人形しかないのでやっぱり気のせいでしょうけど。


「するとビックリ。カウンターに、金貨1枚と銀貨2枚が置かれていたの」

「……にゃゆ?」

「不思議だよね。一体どうして、どこの誰がそんな事をしたのか。もちろん貴女ではないでしょ?」

「ち、違います!」

「そうだよね。だからこれは、やっぱり、不思議だよね」


 メリーさんは言いました。もしも私がピンクのクマを返さず、知らんぷりを決め込んでいれば、その時点で縁を切っていたと。そのまま首でも斬って店内に飾っていたと。


 メリーさん怖すぎます。


「正直な子で良かったね」

「……馬鹿なだけです」

「馬鹿正直で良かったね」

「え、そこ言い直します?」


 何はともあれ、こうしてピンクのクマはずっと、私の手元に置かれる事に決まったのです。なされるがままに、というより流れるように弟のお願いを叶えてしまう事となった私ですが、そこは素直に喜ぶとしましょう。

 具体的には弟のベッドで、明日からはこのクマと一緒に寝る事にしましょう。


「また、来てもいいですか?」


 気づくと私は、このお店を不気味に思っていませんでした。よーく人形達も見てみれば、表情豊かな気がします。定められた顔にそういうのも、これまた不思議な話ですけど。


 持ち合わせのない私の、冷やかしとも取れる言葉を、メリーさんはお決まりのように、謎めいた笑みを浮かべながら答えてくれました。


「いいよ。うん。歓迎するね。私は人間のお友達が少ないから」

「……そですか」


 メリーさんの闇を見た気がします。


ーーお店を出るときに、お昼の太陽に照らされて、店内に光が差し込みました。そこでキラリと光るものがあったので、何だろうと近づくと……それは金貨でした。シルクハットを被って、仮面をつけてる、怪しく不気味な人形が抱きしめています。


……どこかで見た事があるような? そういえば、ピンクのクマの横に、この人形はいた気がします。お値段の紙がありません。ピンクのクマ同様、これも売り物ではないのでしょう。


 店を出る前に、本当に最後の質問として、私はメリーさんに、この人形の妥当な価値を聞きました。もしもピンクのクマと同じような値段であれば、将来側に置きたいと思ったからです。


 結果ーー


「値段? それ、本気で言ってるのかな?」


 ーー睨まれました。静かなる激怒をたっぷりと味わいました。


 結論、メリーさん、やっぱり怖い。

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