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華の人形 ー緑の国 外伝ー  作者: watausagi
最終章 巡り花
29/35

ーーバックにーー出会った

◇◇◇◇◇


 貴女はまだ幼かった。貴女はその時一人ぼっちだった。


 ーーずっとこのまま? どうして誰も助けてくれないの? どうしてみんな私を無視するの? お母さんとお父さんはどこ?


 子供らしく取り留めのない感情ばかり生まれ、ただ泣いていた。


 そこへーー


『どうしたんだい』

『ひっ』


 いきなり知らない人に声をかけられた貴女は、失礼にも悲鳴をあげる。


 その人は男の大人だった為、確かに驚くのも無理のない事かもしれないが。それに少し変わった服装だった事も、警戒心を強めるには十分だったのかも。


『おっと、怖がらせてすまなかったね。……ん、そうだ、これをやろう』


 貴女が貰ったのは、まーるいお菓子。それは飴と呼ばれる甘いお菓子。


『……美味しい!』


 飴の魅力に負けて、食べて、そして甘さの上に警戒心を解いた貴女。


 子供はとても純粋だから。その時にはもう、すっかり機嫌が良くなり、泣いていた事さえ忘れていたのかもしれない。


『ははっ、そうだそうだ。笑顔でいよう。僕はそれが一番好きだ』



 悲しみも辛いのも、そんな面倒くさいものはゴミに出してしまえばいい。


 子供に聞かせるには少し難しい言葉を、貴方は言った。


『ところで、何故泣いていたんだい? そんなんじゃあ、可愛い顔が台無しだぞ。幸せだって逃げてしまう』

『……いやだぁ』

『おっと、だから泣くな。ほら、もう1つこれをやろう』

『アメ!』


 貴方はチョロイと思った。


『……ま、あれか、大方親とはぐれてしまったんだろう。そう悲観する事でもない。僕が一緒に探してあげよう』

『ほんと? あなた、優しい! えらい!』

『ははー……今の僕は機嫌がいい。どれ、名前をまだ聞いていなかったな。僕はーー。人形師をやっている』

『私ミリア! 人形……って、それ?』

『ん? ああ、そう』


◇◇◇◇◇


「にゃっふんだー!!」


 ガバァァッと、布団をめくり上げます。……………あ。


「おはようクマさん。クマちゃん」


 ピンクと黄色のクマに挨拶をします。私が思うに、この2人はきっとラブラブです。



 ……そっか、私、夢を見てたんだ。でも確か、夢の内容は子供の頃のだったと思うけど。誰だったかな。あの優しい彼の姿と名前がうろ覚えです。夢って、大概そんなもんですけど。


 私のこれは、そう簡単に忘れていいものだったのかな。とても、大事な事だったんじゃないのかな。


「ミリア〜、朝ごはん覚めちゃうわよ」

「いま行く!」


 ーー私は、朝ごはんを食べ終えた時にはもう、夢の内容すらすっかり忘れてしまっていました。


〜〜〜〜〜



 今日は土曜日。昨日の事もあり、せめて日が暮れる前に帰ってこいと言われた私は、その短い時間をやはりあの店につぎ込みます。


 徒歩20分もかからないそこへ歩き、猫ちゃん達に気をつけて、ドアの前まで着きーー私の目に飛び込んできたのは、closeという文字。


 今まで一度だって、それこそお仕事したくないと愚痴を言っていたメリーさんなのですが、休んでいるのを見た事はありません。


 もう1つ気にしなければならない事は、いつも扉の近くに座る桜スマイルさん。メリーさんのお気に入りの人形が、外から覗いても姿が見えない事でしょうか。



「にゃ〜ぉ」


 猫ちゃんが、誰にともなく鳴きます。私もちょっと、泣きたいかも。


 心のどこかでメリーさんならと思っていた。あの人がいれば、すべては丸く収まるのだと。

 私は事情を伝えに来たのではなく、本当のところ甘えに来たのかもしれません。彼女の優しさに縋ろうとしていただけかもしれません。


「ーーあれ、ミリアじゃない」


 これからどこに行くあてもなく、もしかするとそろそろメリーさんが来てくれるのではないかという一心で、店の前に群がる猫ちゃん達と戯れていると。


 ばったり出くわしたのは同級生。学校のお友達で、名前はシンシアちゃん。本人にそのつもりはないらしいですけど、とても良い子です。


「やっほー、偶然だね。何してんの?」

「シンシアちゃんこそ、どうしたの?」

「私はほら、あれだよ。優しい優しい母上様が、家で何もせずに寝転がる私におつかいを頼んでさ。仕方なく、ね」

「そっか。おつかいだなんて、とっても偉いよ。さすがシンシアちゃん」

「いやいや、私だって本当なら……って、ここ人形店じゃん!」

「え、あ、うん」


 そういえば、私はメリーさんを知っているからこそ、このお店に当たり前のように来られているけど、ここってそんな、良い噂がないんだった。


 それは、シンシアちゃんの反応を見てもよく分かります。


「ミリア、あんたここに魂でも売りに来たわけ?」

「ははっ……そんなんじゃ、ないよ」


 悲しいです。何だか、あれですね。こうしてみると、よく分かりますけど、私って……小さい人間です。


「私のパパなんかさ、夜遅くまで飲んで、帰り道に近いからってここを通って、危うくお店に引きずり込まれそうになったって」


 酔っ払いじゃん。


「その時に見たらしいんだけど、中の人形がバッ! と、こっちを見てたんだって」


 ただの酔っ払いじゃん。


「パパがさ、自信満々にーー」



 全部、酔っ払いの戯言じゃん。



「もういいよ。おつかい頑張ってね」



 聞きたくなかった。

 もういいや。家に帰ろう。


「ミリア? あ……おーい……」


 シンシアちゃんはなんにも悪くありません。私も混乱してたんです。誰も悪くありません。強いて言うなら、今日はちょっと、タイミングが悪かったんです。


 ……明日は日曜日だけど、明日こそメリーさん、ちゃんといるかな?

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