貴女が僕のマスターです
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桜の花言葉は 「優れた美人」「純潔」「精神美」「淡泊」
ーー降り注ぐ桜の花びらをバックに、貴方は1人の少女と出会った。
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初めて意思を持ったのはいつだったか? 僕がそういうことを考え出すと、最終的に最初から意思はあったんだという結論に至る。ただ、自覚していなかっただけで。
ところでここで、唐突に宣言しよう。僕は、人形である。心がないとかそういう話ではない。実はあの人の操り人形とかでもない。
正真正銘の人形なのだ。あのクリクリとした目を持ち、カクカクとした動きを見せる人形なのだ。
ーー初めて自分が人形だと自覚した時は、別段驚きもしなかった。先ほど言った通り、生まれた時から、生み出された時から、僕は人形である事を無意識のうちに受け入れていたのだから。おかしな話、知らぬ間に4年と2の月の日を跨いで、僕は人形に馴染んでいたのだ。
もう分かっているとは思うけれど、僕には前世がある。そんな気がする。多分、死んだんだろう。死因もろくに思い出せない過去に興味はない。
だから僕が興味を示すのは、今のマスター。僕を作り上げた、齢十四の人形師である。因みに、女の子である。詳細、美少女である。
『おはよう、スマイル』
彼女からの第一声は、挨拶と、そして僕の名前だった。
『んん。違うね。もう少しこう……そうだ。私の名前と合わせて、桜スマイル。貴方の名前は、桜スマイルよ』
ピンクピンクしい笑みだ。と、もちろんあの時の僕は思わなかったけれど。煤汚れた金髪と、オイルまみれの服の彼女を、とても美しいと感じていたのは。きっと、あの日からに違いない。2日も徹夜していたらしくて、その顔にはクマがあったが。
僕は、マスターの10歳の誕生日プレゼントにとマスター自身に作られた。
自分で自分の誕生日プレゼントを? と思うかもしれない。しかし仕方がないのだ。何故なら僕は、未だにマスターの父と母を見かけたことがない。多分きっと……
おっと、僕はセンチメンタルな気分に浸るつもりはない。明るい話をしよう。
自慢だが、マスターの1番のお気に入りはこの僕だ。うむ。許せ他の人形達よ。僕がマスターにいつも抱きしめられて寝ているからといって、出せない涙を必死に流そうとしても無駄である。もっと自分磨きに時間をかけなければ。
僕だって今日からは努力をするんだ。きちんと自分が自分である事を意識した今日から、頑張ることに決めたのだ。
そうだね……
当面の目標は、マスターと一緒にお風呂へ入られるようになる事。それしかないだろう。




