あたしと彼とバレンタイン
初めての投稿です。稚拙な文章ですがよろしくお願いいたします。
◇
『麻美が作るのを面倒くさいと思うなら、手作りチョコなんかいらんよ』
『ーーなっ……!』
「あつっ!」
一昨日彼からの言葉を思い出した瞬間、チョコを湯煎してるお湯に指を入れてしまった。
作るのが面倒くさい……?なんでそう受け取る?
彼、葉木 立哉とあたし、倉持 麻美は 同期入社で、配属支店も一緒になった。新人の社会人同士で苦楽を共にした縁から付き合い始めて、早7年ーー。
世間でいう倦怠期も通り越して、 惰性で一緒にいるだけかも。いや、あたしは好きだ。たぶん……。
でも立哉は?
転勤で離ればなれになってからもう長いけど、今の配属支店で立哉に仲の良すぎる女の子がいるっていうウワサを、最近耳にした。
『なあ、今年バレンタインは土曜日やん? 泊まりでどっか行かん?』
ウワサの真相を確かめる勇気もなく、彼から久々に旅行のお誘い。
めっちゃ行きたい! 絶対行く! どこ行こ? 今の時期は、やっぱり温泉かな? 城崎とか……あっ! 二人で初めて行った有馬温泉もいいなあ。めっちゃ楽しみ!
心の中ではそう答えた。でも、言葉には出せなかった。
『もちろん、バレンタインと言えばあれやんなあ?麻美の手作り期待してえんか?』
そう続けた立哉に、ひねくれたあたしはーー
『今さらあたしが作ったチョコなんて、ほんまに欲しい? もっと美味しい手作りチョコ、他の子からもらえるんちゃうの』
『麻美が作るのを面倒くさいと思うなら、手作りチョコなんていらんよ』
そう言って、立哉は帰ってしまった。
それからLINEもないし電話もないまま、バレンタイン前日の金曜日……。
って! 今日、13日の金曜日やん!
「なんやねん! なんで“他の子からもらえるんちゃうの”にはスルーなんよ。身に覚えがあるから、スルーしてんの? それ隠して旅行とかあり得んし、手作りチョコなんか作れるわけないやん!」
「……いや、姉ちゃんチョコ溶かしてクリーム泡立ててる時点で、作る気満々やん。先に風呂入ったで。独り言とか怪しいし、はよ立哉さんと仲直りしいや」
「うっさいわ! 彼には、新しいお相手がいるんやて! あたしは二股かけられて、捨てられるねん」
風呂から出てきた弟の絶妙なツッコミに、声を荒げながらチョコレートを溶かしてしまう。
よっしゃ、チョコうまい事溶けた。今からの工程、めっちゃ大事や。
…… チョコなんか作れるわけないと言いながら、作る気満々なあたし。弟の言う通りやん。
甘いものが苦手な立哉でも食べれるようにと、ビターの生チョコを作ってる。明日、会うことも疑わしいのに。
ささくれた気持ちのまま作るチョコはさらにビターになっているはず。そして立哉に食べてもらえずにきっと、あたしの胃におさまるんだ。
「あのさあ、何があったか知らんけど立哉さんにちゃんと聞いたん? 姉ちゃん、自分で勝手にマイナス思考になるやろ。付き合い何年になるねん。立哉さん姉ちゃんのこと、大事にしてくれてるやん。そこは見逃したらあかんで」
「……そんなん! 1番あたしがわかってる。でも、もうあかんかも。あたしがほんまのこと怖くて聞けへんかった……。立哉から旅行に誘ってくれたのに、突っぱねてしもた」
涙が止まらん。
チョコレートが固まらないうちに、次の工程に移らないとあかんのに。
あたしの心が固まってしまった。
「あっそ。ほんなら、早よほんまの事聞き。LINE着てるで。立哉さんから違うか?」
「‼︎」
手を伸ばしたスマホの液晶に、LINE通知。そこにはーー
何を勘違いしてんのかわからんけど、おまえのチョコしか食べたくないに決まってるやろ。明日、楽しみにしてる。
「……うわあああん」
だめや、涙腺決壊。
「先寝るで、おやすみ。早よ風呂に入りや」
弟の発した言葉を背に、あたしは涙の中返信した。
あたしも、立哉しか手作りしたい人はおらへん。とびっきりのチョコ、楽しみにしといて。
はあ…。
涙が止まった頃には、湯煎して溶かしたチョコレートはまた固まってしまった。
もう一度、やり直そう。
意地の張ったあたしの心もチョコレートと一緒に溶かして、とびっきりのバレンタインチョコを作るんだ。
Fin
お読みいただき、ありがとうございました!




