ウィルドside 感情の名前
俺はこの町が結構好きだ。
住人はみんな笑ってて、とても楽しそうだ。
町を歩いてると此方も元気になる気がする。
いつも通り町を歩いていると、俺と同じくらいの女の子とすれ違った。
あんな子、この町にいたかな……
彼女から視線か外れなくて暫くの間ぼんやりと少女をみていたら、最近いい噂を聞かない商人に声をかけられていた。
助けなきゃ!そう思ったのに人が多くて思うように動けなかった。
そうこうしてる内に少女は連れ去られていた。
どうしよう、あの子は殺されてしまうのではないだろうか。
気が動転してうまく思考が働かない。
とにかくお父様に言いに行こう。お父様なら何とかできる。
俺は急いでお父様のもとに走っていって、少女が連れ去られた事を話した。
お父様はすぐに車を出して出ていった。
自分が子供であることがこんなに苦しいものだなんて考えたこともなかった。
あの子を助ける力が今の俺にはない。
ただあの子が無事に助けられることを祈ることしかできなかった。
━━暫くしてお父様が少女を抱えて帰ってきた。
少女はどこも怪我をしていなかったようだが何処か青白い。
何かあったのかとお父様に聞いてみると、
「車になれていなかったようで、酔ってしまったんだ。」
と困ったように話してくれた。
つまり彼女は怪我などは一切しておらず、酷いこともされていないと言うことだろう。
そのままお父様は客間に入っていってしまった。
彼女と話がしたい。
彼女のことが知りたい。
14歳にして初めて抱いたこの感情の名前を俺はまだ知らない。
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太陽が沈み始めた頃、屋敷に若い夫婦が慌てて入ってきた。
客間の場所を聞かれたので案内すると、少女の安否を確認しはじめた。
どうやら彼女の両親らしい。
今一度みてみると容姿がそっくりだ。
しかし、彼らは本当に人間だろうか?
どうも疑ってしまう。何故だか本能が彼らは人間じゃないといってる気がしてならなかったのだ。
少しすると少女が起きた。
宝石みたいな瞳に両親の姿を写すと、透き通るような声で両親を呼んでいた。
あの声が俺に向けられることはないのだろうか?
あの瞳で俺を見つめることはないのだろうか……
扉から覗いていると、彼女が俺に気がついて近づいてきた。
これって、もしかしてチャンスなのか?
声をかけようとしたらお父様に呼ばれたため仕方なく駆け寄った。
お互いに紹介しあったが少女は名前がないと言う。
両親は名前をつけなかったのだろうか?
とにかく彼女のことが知りたくてお父様に無理に頼んで彼女を案内することにした。
「……え、えっと……何で、あんたには名前がないんだ?」
「妖狐族だからだよ。
僕ら一族は名前がなくてもあまり支障がないの。 それよりさ、僕は君の口調が変わったことに驚いてるんだけど?」
妖狐族?ってもしかしてあの妖狐族?
成る程、さっきから感じてた違和感はこれだったんだ。
「わ、悪いかよ。俺だって時と場合によって変えることだってあるんだから。」
「あ、ごめん。別に悪いといっている訳じゃないんだ。
少し、驚いただけ。」
「なぁ、あんた。やっぱり愛称とかはないのか?
呼びづらい。」
「そんなことを言われてもな………じゃあセラススは?」
「セラスス?」
「とある世界の話で、春に咲く綺麗な花があるそうだ。それの名前がセラススと言うらしい。
僕はその花が大好きだから、セラススと呼んでくれると嬉しいかな。」
そのセラススという花がどんな花かはわからないけど、きっと美しい花なんだろう。
彼女に似合いそうな名前だった。
「うん、じゃあセラスと呼ぶことにするよ。」
「君に名前で呼ばれるのは、何だか少し照れるな。
では僕も君のことはウィルと呼ぶよ。」
セラスは柔らかく微笑んだ。
その笑顔が先程まで無表情だった彼女からは予想以上で、思わず見とれてしまった。
それから暫く屋敷の中を案内して、夜になったら両親と共に帰っていった。
別れ際に、
「今日はとても楽しかったよ、ウィル。」
「セラス、また会えるだろうか?」
「……君からそんな風に言われるとは思わなかったよ。
答えはもちろんYESだ。また遊ぼう。」
「う、うん。また!いつでも来ていいから。」
「……人間と友達になるなんて考えてもみなかったけど、悪くないね。
ウィル、僕は君と友達になりたい。
だからたくさん遊んで、お互いについて深く理解し合おう。」
「ああ。それじゃあ、また。」
「……ばいばい。」
セラスの姿が見えなくなった頃、ようやくその場から動いた。
屋敷内に入るとお父様がニコニコ(ニヤニヤか?)笑っていた。
「彼女と友達になったのかい?」
「はい。セラスはとてもいいこですよ。」
「そうか。まあ向こうはただの友達としか思ってないようだが……
まだまだ道は険しいようだな。
頑張れよ、あのタイプの女性は気づかないことが多いからな。」
父はなんの話をしているんだ?気づく?険しい?訳がわからない。
「……なんだ、お前自分の気持ちに気がついてないのか。
…………………それはそれで面白いからいいか。
まあ成長するごとに気がつくさ。
俺はまだ仕事があるから、明日の予習でもして寝なさい。」
「はあ、わかりました、お父様。」
腑に落ちないままお父様は書斎に入っていった。
ベッドに入ったあともあの時のセラスの笑顔が頭から離れなくて暫くの間眠れなかったためか、翌朝は爺の話によると隈が大分酷かったらしい。
眠い。