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出会い

 目の前には瞳と髪の色が茶色の顔が整った若い男がいた。

 優し気に微笑んだその笑顔は、得たいの知れない安心感を抱かせた。


「……貴方、僕が怖くないの?」


 僕は妖狐族なのに、この人は他の人間のように恐れたり蔑んだような眼差しを向けてこない。


「怖くないよ。むしろ愛らしいくらいだ。

 君の親は?この町に来てるの?」


「………………」


 変な人間。妖狐族なのに愛らしいなんて馬鹿じゃないだろうか。

本当に人間かこいつ。

 思わず疑いの眼差しでみていると男は困ったように笑った。


「ああ、自己紹介をしてなかったね。ここの領主のイシュカ・フェアフュールングだ。

 よろしく。妖狐のお嬢さん。」


「……………貴方、変な人間だね。妖狐の僕によろしくだなんて。

 普通の人間ではあり得ないよ。」


「そうかな?

 まあ他の人間は妖狐族にたいして誤解してるみたいだしね。しょうがないよ。」


「……貴方は妖狐族の話、信じてないの?

 妖狐族が人族の領域に侵入したこと。」


「信じてないよ。あんなのでっち上げだ。

 昔馴染みに妖狐族がいてね。

 よく話を聞いていたんだ。」


 妖狐族が人間と?そもそも妖狐族は僕らしかいないはずなのに………


「……その妖狐族、どんな人?

 容姿について詳しく教えて。」


「君と同じ髪色で琥珀色の瞳の男だ。

 今でもよく話すかな。」


 父さんだ!

じゃあこの人は信用できる人なのかな……


「じゃあ、貴方のことはたぶん信用できる人だと思う。

 父さんが貴方と昔馴染みと言うなら僕は貴方を少しは信じる。」


「ありがとう。取り敢えず我が家で話をしたいから着いてきてもらえるかな?」


 この人を完全に信用したわけではないけど、ついていった方が多分特だと思う。

 僕は無言で頷いた。


 立とうとして足に力を入れるも変な香水を嗅がされたせいか力が入らなくて、男をジーっとみていると男が察してくれたらしく、お姫様だっこで車まで運ばれた。

 誰も姫抱きで運んでくれなんていってないはずなんだが。

 解せぬ


***********************


「━━━気持ち悪い……………………」


「大丈夫……?

 馬車にするべきだったかな?」


 車になれていない僕は大分酔った。

お屋敷について客間に案内されたが、酔いが酷くて話ができない状態だったため今男に膝枕された状態でいる。


「うぅ………」


「狐に戻らなくて大丈夫?」


「……妖力とは関係ない。だから大丈夫。」


「……そう。今君の父上を呼んだから、直ぐに来ると思うよ。」


「父さんが?………ありがとう。」


 お礼を言うのは何だか恥ずかしくて、少し声が小さくなったけど男には届いていたみたいで、頭を撫でてくれた。

 その手が暖かくて、次第に頭が霞がかって瞼がどんどん落ちていった。


 次に目が覚めたのは夕方。相変わらず男の膝の上で寝ていた。

そして目の前には父さんと母さんが。


「とーさん、かーさん…………」


「ああ!よかった、起きたのね?!」


 母さんは目に一杯涙をためて僕を抱き上げてきた。


「……イシュカ、ありがとう。娘を助けてくれて。

 本当に感謝している。」


 父さんも涙声で男に話しかけていた。


「全く、普段笑顔の君がこんなに表情を崩すとはね。

 気にしないでくれ。私も息子に言われなければ気が付けなかったからね。」


「本当に、本っとうにありがとうございます!

 どのように恩をお返しすればいいやら……」


「恩返しなんていりませんよ。」


 母さんの腕の中で母さんの温もりに触れていると、扉の方に人の気配を感じた。

そちらを見ると同い年くらいの男の子が此方を遠慮がちに覗いていた。

 母さんの腕から抜け出して近づくと、男の子が部屋に入ってきて僕らは向き合う形になった。


「……ん?ああ、ウィル。おいで。この方たちを紹介しよう。」


 ウィルと呼ばれた少年は男のもとに駆け寄っていった。

僕も母さんのもとに歩いていった。


「紹介しよう。私の息子のウィルドだ。

 ウィル、挨拶しなさい。」


「初めまして、ウィルド・フェアフュールングです。

 よろしくお願いします。」


「初めまして、私たちには名前がないの。

 だから自己紹介出来ないわ。ごめんなさいね。

 でも、よろしく。」


「一応僕は愛称があるけどね。

 イシュカは僕のことをフックと呼んでいるから、君もそう読んでくれて構わないよ。よろしく。」


 父さんと母さんが僕もしなさいと言うような目で見てきたので男の子の前にたった。


「初めまして、僕も名前がないんだ。

 だからどう呼んでくれても構わないよ。よろしく。」


 右手を出して握手を求めると、男の子も右手を出して握手してくれた。


 人間なんて信用できないけど、この二人なら信用できる気がした。



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