第七話 精霊の悪戯
ちょっと長めにしてあります。説明回が終わります。
「精霊ってさっきの話にも出てきたけどそういう種族の誰かが悪戯で俺をここまで連れてきたのか?」
精霊って聞くとマンガやゲームなんかに出てくるのを勝手に想像していたがこの世界では違うのだろうか?
「誰か、といのは表現としては正しいとは言えないわ。精霊というのは基本的には意志を持たない存在なの。」
「意志がない?生物では無いのか?」
「生物では無いわね。まず実体がなく普段は目には見えないの。でもこの部屋にも外にも精霊は存在してる。精霊は私達が魔法を使う上で必要不可欠な存在なの」
生物ではなく精霊には意志が無いとアリシアは語る。だが意志が無いのなら悪戯とはなんだろう。それに魔法に必要不可欠っていうのはどういう意味なんだろうか。
話を聞くうちに色々な疑問が出てきて少し混乱してしまいそうだ。
アリシアはというと混乱している俺を見て苦笑していた。
「ちょっと難しいかもしれないわね。まず魔法という物を理解して貰わないとダメね。じゃあ、ちょっと外へ行きましょう。言葉で説明するのには限界があるから取り敢えず実践しながら説明するわ」
と言って外の庭へ案内された。
玄関を出て庭へ向かう。あ、あれ?確かこの場所ってさっき竜がいた場所だったような。と考えた辺りでーー
「ちょっとリリー!?止まりなさい!」
「へ? 」
アリシアの鋭い声が耳に届いたときには俺は既に竜に押し倒されていた。あまりに突然すぎて声どころか頭が状況に追いつかない。唖然としている俺を見て何を思ったかリリーと呼ばれた竜は俺の顔を舐め始めた。
「きゅいっ!きゅうう!」
ぺろぺろ、ぺろーん、ぺろぺろ。
こ、こいつは何故俺の顔を舐めているのだろうか。い、息が出来ん。
「や、やめ・・あ、アリシアさ〜ん!ちょっと助け、うぇ」
「あ、そうだったわ!リリー!なにいきなり襲いかかってるのよ?早くその人の上から退きなさい!」
アリシアにも予想してない出来事だったみたいで俺が助けを求めるまで呆然としていた。俺の声でショックから解放されたのか慌ててリリーに詰め寄る。
「きゅぅ〜」
アリシアがこの竜の主人か何かなのだろうか、残念そうな声で鳴きつつも退いてくれた。
退いてくれたのは良かったが俺の顔はリリーの涎でいっぱいである。リリーという名前からして性別は雌だと思うけど、これで雄だったりしたらショックで立ち直れないかもしれない。
「ちょっと顔を顔を拭くものを持ってくるわね。ねぇリリー?次、変な事したら晩ごはん抜きにするからね」
「きゅきゅっ!」
主人公の言葉を理解しているのか元気良く返事をするリリー。今度は襲われることは無かったがリリーはアリシアが布を持って来てくれるまでずーっと俺を見ていた。なんか隙を見せたらまた襲われそうだったので俺もリリーから目が離せないでいた。
しばらくの見つめ合っているとアリシアは空の容器と乾いた布を持ってきてくれた。
「随分彼女に好かれているわね。貴方を最初に見つけたのも彼女だし」
ああ、良かった!性別は雌みたいだ。まだ女の子に舐められたと思えば気分は軽くなる。まあ相手は竜だが。それはそうと。
「そういえば助けられたって言ってたな。あまりに突然で驚いたけど、ありがとう。といっても言葉は分かんないか」
「きゅっ!」
「どういたしまして。だそうよ。それから驚かしてごめんなさいって言ってるわ」
え!?いまの「きゅっ」にそこまでの意味があったのか!?
「まあ取り敢えず顔拭きなさい。今、水を用意するから。ついでだから魔法を見せてあげるわ」
アリシアは持ってきた空の容器を地面に置き三歩後ろへ下がって目を閉じる。
「まあ、本当はこんな事しなくても出来るけどまずは基本のやり方からやるから良く見てなさい」
そう言ってアリシアは手を前に突き出して言葉を紡ぐ。
「ーー我、汝に求めるは水の力。我が魔の力を糧に大地の恵みを分け与え給えーーアクア・レイン」
彼女が呪文を詠唱すると同時に突き出された手を中心として小さい手のひらサイズの紋様が現れる。見た感じ魔法陣だろうか? その時、魔法陣の彼女の周りに無数の光が現れた。色は青っぽく光っているように見える。
そのホタルのような光は魔法陣に吸い込まれるようにして消えて行ったかと思うと、代わりに魔法陣が青っぽい光に包まれ、同時に水が溢れ出した。
「これが魔法・・・」
想像していたよりも神秘的な光景で言葉がうまく出なかった。
「はい。これでよし。早く顔を洗っちゃいなさい」
「あ、ああ」
戸惑いながらも魔法で出した水で顔を洗った。水はいい具合に冷たくて気持ちよかった。
「今のが魔法を使う大まかな流れね。何をしていたか見えたかしら?」
「そう、だな。手を突き出した先に模様が現れて、そこに周りに浮いていた光が吸い込まれた様に見えた。その後にから水が出てきた・・もしかして吸い込まれて行ったのが精霊?」
今のを見て感じたことを言って見た。アリシアは予想外といった様子で驚いていた。
「魔法を見るのは始めてよね?それで精霊まで見えたってことは魔法を扱う才能があるかもしれないわ」
「やっぱり精霊だったんだな。アレ」
「ええ。基本的な魔法の流れは、まず最初に精霊を呼び出すための精霊陣を作ることから始めるの。そして使いたい魔法をイメージしながら呪文を紡ぐ。そうすることで精霊陣には、その呪文に対応した精霊たちが力を貸してくれるわ。そして最後に引き金になる言葉を発する事で魔法が発動する。今のようにね」
つまり魔法を扱うには精霊を呼び出す必要があり力を貸してもらう必要があるわけか。
「魔力は精霊を呼び出すために使うの。多ければ多い程精霊の質や数が違ってくるわ。でここから本題なのだけど」
そう言ってまたアリシアは目を閉じて精霊陣を描く。今度は手のひらサイズではなくアリシアと同じくらいの大きさだ。だが陣は大きくなったが詠唱はまだしてない。どうするのだろうと見ていたら陣をその場に固定してこちらに来て説明を続ける。
「精霊は一般的に空気中に漂っているだけなのだけれど、精霊陣を使って集めると今見せた様に、魔法を私達にもたらしてくれるの。でも中には自然発生した力場が存在することがあるわ。その作用は精霊を集めることだけしか出来ないけれど」
と今作った大きな魔法陣を指差す。
「あれは自然発生した力場を擬似的に作った物よ。こうして説明している間にも精霊が集まって来ているのが見える?」
「あ、ああ。なんかだんだん形が出来て来ている様な・・?大丈夫なのかあれは・・?」
放ったらかしにされた精霊陣は周りの精霊を取り込みながら大きくなって行く。見ているうちにある変化が現れた。混ざり合った精霊たちはある一つの形を取って行く。
四つん這いになり尻尾が生える。キツネのような外見に変化した。
「あれが意志ある精霊。精霊たちが精霊陣に収まらないぐらいに密集するとああなるわ。まあ動物型にはそれ程強い自我は生まれないけどね。リリー。あれ食べていいわよ」
「きゅい!」
リリーは嬉しそうに生まれたばかりのキツネ型の精霊へ走って行った。・・・リリーよ。お前さっきから人の隣でソワソワしてたには食べたかったからか。
「じゃあ精霊の悪戯ってのは・・・?」
「多分だけど、あんな感じで大きくなって行った精霊が貴方を呼んだのでは無いかしら。高位の精霊は空間魔法さえ操るというし、もっと高位になれば異世界から人を召喚出来る精霊もいるかもしれない。というのが私の推測ね。ふふん」
なぜかアリシアはドヤ顔で言ってきた。ふふんて。いや、そんな顔で言われても俺には正解は分からんし。
「精霊か。じゃあ元の世界に戻るのは諦めた方がいいのか・・・はあ〜。迷惑な精霊も居るんだな」
正直な話、異世界にいても目的も特に無い分、この先どうなるのか不安で仕方が無かった。どうせなら家でマンガ読んでゴロゴロしたかった。まだ続きが気になるアニメとか沢山あったんだがなぁ。
「なあアリシアさん。どうも俺は自分の居た世界へ帰るのは難しいかもしれない。それに貴女にあまり迷惑も掛けるのも良く無いと思うんだ。でも多分今放り出されたらすぐ死んじゃうかもしれない。だからせめて最低限の生きる術を身につけるまでここに置いてくれないだろうか?」
腹を決めてこの世界で生きるための決死をする。ここで決めなゃどうしようも無いからな。
「元からそのつもりよ。というか死ぬとわかっている子を放り出す程、私は薄情では無いつもりよ」
アリシアはある程度俺の言葉を予想して居たのか考える様子もなく答えてくれた。ああ、彼女が本当に女神に見える。
「でも私の修行は厳しいから覚悟しておいてね?」
・・・お手柔らかにお願いします。
この日から厳しい修行の日々が始まるのであった。
次回から厳しい修行が始まります。主人公の能力の片鱗がだんだんと見えてきます。




