第二十一話 迷宮での事故 後編
ーーーここが転移門か。
十四階層でお荷物を拾い、歩く事半日。俺達は十五階層の最終フロアの転移門がある場所へたどり着いていた。
「これ全部が転移門なんですか・・・」
「思っていたより・・・というか予想外です」
ミリアとセルカが驚きながら門を見上げる。俺も声には出さなかったが、内心では驚いていた。
十五階層の廊下を抜けると、そこには地下とは思え無い程の広大な空間が広がっていた。大きさは学校の体育館ぐらいだろうか。そのフロアの側面はゴツゴツとした岩があるだけだったが、奥の壁の周りには装飾がされていた。何かと思い近付いて見ると、それは目的の転移門だった。
「最初はお前達か。思っていたよりずっと早い到着だな。どんな裏技を使ったんだ?」
三人で門のデカさに驚いていると後ろから声をかけられた。純粋な驚きとわずかに、からかうような感じで話しかけて来たのはノイ先生である。
「あ、ノイ先生。ここまで早く来れたのはサクヤさんの力です。おかげで道に迷わずに来れました」
「ほう?初見では分かりづらい道も幾つかあったと思うが、よく迷わなかったな。道を知っていたのか?」
ミリアが自慢げに言う物だからノイ先生の鋭い視線が俺に突き刺さる。
「いや、まあ、そんな所だな」
頭を掻きつつ適当に答える。
「・・・まあいい。ところでお前が背負ってるのはなんだ?」
ノイ先生も俺がまともに答えるとは思っていないらしく聞いただけのようだった。だが俺が背負っている物を見て、首を傾げる。
「ん?ああ、これはーーー」
答えつつ、背負っていた物を地面へ放り投げる。
「あたっ!?ちょっと!いきなり降ろさないでよ!」
「見ての通りお荷物だ」
声が聞こえて来たが無視する。そんな態度にカチンと来たのか立ち上がり抗議をしてくる。
「お荷物は酷くない!?これでも結構頑張ったわよ!」
「ふーん。頑張った、ねぇ?」
「な、なによ?なんか文句あるの!?」
「いや別に?ただ、研究のためだとか言って、勝てない魔物に戦いを挑んで返り討ちになったり」
「そ、それはアンタ達に任せると魔物が跡形も残らなくなるし・・・」
「お腹が空いたと言っては弁当を幾つも食べましたし」
「はい。途中から疲れた、歩きたくないとか言ってましたね」
「ミリアちゃん、セルカちゃんまで!?だ、だってお腹空いてたし、疲れたんだもん!」
思わぬ所からの言葉にショックを受けるアニス。いや、だもんって子供か。
「まあ、あれだ。最終的に罠に掛かって眠ってくれたのが、唯一良かった所だな」
「「そうですね」」
「それって遠回しに要らないって言ってるの!?」
十五階層へ続く階段を見つけた時、何を思ったのかアニスは階段へ向かって走り出した。その途中に床の色が違う場所があったのだが気付かずに踏み抜いてしまい、床に掛けられた魔法によって眠ってしまったのだった。
その床を近くで見れば、明らかに罠と分かる表示があったので、普通は掛かるものじゃないと思う。大体にして走り出す奴なんていない。まあ、治療魔法で起こせるのだが、うるさくなると思ったので背負ってここまで来たのだ。
最初はセルカの竜に運んでもらっていたのだが、意識が無い人を運ぶのは難しいらしく、かなり頻度で落っことしていたので、仕方なく俺が変わりに運ぶ事になってしまった。
「あれ、眠ってくれた?そう言えば私、途中から記憶がないんだけど・・・って、転移門がある!?もしかして十五階層に着いたの!?」
今更ながらに自分がどこにいるか気付いたアニス。
それから立ち上がり「ていうかこんな所にケガしてる?服も破れてるし・・・」と自分の体を触りながら確かめていた。その傷は多分、竜から落ちた時のやつじゃないだろうか。
自分で自分に治療魔法を掛けて傷を治しつつ、改めて俺たち三人に体を向ける。
「ここまで運んでくれてありがと!こんなに早く着くなんて思わなかったわ!」
「まあこっちも色々迷惑掛けたしな、うん」
「そうですね。私達も悪かったですし」
「じゃあ、お互い様ってことで。私は先に戻るわ」
「ああ」
「気を付けてくださいね」
アニスは俺たちに別れを告げて転移門を通る。そのまま帰るのかと思いきや、転移せず、ぐるっと門を一周回っては首を傾げて、ペタペタと門を触っては首を傾げていた。そして何故か戻って来た。
「どうした?」
「いや、なんか動かないのだけど」
動かない?確かくぐればいいんじゃ?
「そんな筈は無いだろう?今の今まで動いていたんだからな」
ノイ先生が怪訝な顔をして近づき、門をくぐる。だがアニスと同じ様にぐるぐる回っているだけだ。
「なんだ?壊れたのか?」
俺たちも門へ近づく。
ピシッ
ん?途中でピシッと音がした気がしたが気のせいか?
「サクヤさん、何か変な音しませんでした?」
「私も何かヒビの入ったような音が聞こえた気が」
二人も聞いた様なので気のせいではないようだ。正面をみるとアニスとノイが手をこちらに向かって振っている。なんだ?早く来いという事だろうか?
ちょっと小走りで彼女達の方へ向かう。そうすると門がピシッ、ピシッと軋みをあげ始める。
ようやく彼女らの声が聞こえる所まで近づく。
「なんで来たんだ!?離れろと言う合図だったのに!」
「なんか君が近付くと門が壊れそうな気がするの!危ないから下がって!!」
何故か怒られた。え?これ、俺が原因なの?
だが聞いている暇も無くパキンと大きな音が聞こえた瞬間、大きな門がこちらへ倒れてくる。
「え、ちょっと!あたっ」
「早く逃げろ!!」
その音と光景にびっくりしたアニスが途中でこけてしまう。
このままでは潰されてしまう。そう思った俺は飛び出して彼女を抱え上げる。
だが彼女は門の方を指差して
「ちょっと待って!あれも一緒に!」
見るとそれは彼女の持っていたボロいローブだった。
「あんなの捨てろっての!!ああ、もう!ミリア、こいつを頼む!」
「はい!」
ミリアにアニスを任せて俺は素早くローブを回収する。
「「きゃあああああ!!」」
だが、なぜか急に崩落が早まったらしく、俺とミリアとアニスを押し潰そうと迫ってくる。
このままじゃ潰される。魔法で吹っ飛ばすか?いや、魔法じゃ周りに被害が行ってしまう。じゃあ、あそこだ!
俺はミリアとアニスを抱え、セルカ達が逃げた方向と逆へ逃げる。
「サクヤさん!?」
「あっちは空洞だろ!?なら奥へ行く方が安全だ!」
そう。門は扉がないため真ん中は空洞になっている。セルカ達が逃げた方向は障害物が多く、ギリギリ間に合わないかと思ったので反対側を選択する。
「姫様!!サクヤさん!!」
「待て!大丈夫だ!!門は機能してなかったしあちらの方がスペースがあるから安全だ!」
ノイ先生がこちらへ飛んでこようとしたセルカを引き止めてくれていた。
俺は二人を連れて空洞がある所まで一気に移動する。ここまで来ればーーー
「え?待って、門が起動してる!?」
上を見ると空洞部分に膜が張られ発光している。だがもう遅かった。
崩落する音と共に俺たちは門の放つ光へ包み込まれてしまった。




