第十九話 迷宮での事故 前編
遅れました。予約投稿だったんですが上手く行って無かったみたいです。
迷宮に入ってから七日が経った。訓練の日程は三日だったはずなのに、俺達はまだ迷宮の中に居る。
俺は、前を先導して歩く一人の冒険者を見る。俺の視線に気が付いたのか、その冒険者は恐る恐る、こちらを見て問いかける。
「あの、まだ怒ってる・・・?」
「何がだ?」
「いや、だから、その、ね?」
「ああ、アンタの所為で、来るはずの無かった所まで連れて来られた事か?別に怒ってないぞ?流石に少しイライラしてるがなっ!」
そう言いながら冒険者の背後に近付いていた魔物を、魔法で攻撃する。至近距離で魔法を撃たれ、腰を抜かしてしまう冒険者。ちょっと怖がり過ぎだろ。
「あ、あっぶな!やっぱり君達、怒ってるじゃ無い!」
「だから怒ってないっての。なあ、ミリア?」
「ええ。私も怒っていません。でもこの迷宮に入ってからもう七日が経ちます。三日だけであれば食事もどうにかなったのに、貴女の所為で結局、魔物を食べないといけませんでした」
隣を歩いていたミリアに問いかける。どうやら相当にストレスが溜まってるらしい。満足に食事や風呂に入れなければ女子の方がキツイかも知れない。
ちなみにセルカと他の生徒は昨日、学校へ着いたと連絡があった。彼女は非常に申し訳なさそうに謝っていたが、彼女は悪く無い。悪いのはやはり、目の前で土下座して、ミリアに謝っている冒険者だと思う。
ーーーというかこの世界にも土下座ってあるんだなぁ。日本じゃ実際に見た事は無かったから、記念に写真でも撮ろう。
俺が面白半分にケータイで写真をパシャリと撮っていると、一通り冒険者が謝ったようで、ミリアも溜飲を下げて、先へ進むよう促し冒険者を先頭に再び歩き出す。
ーーーそもそも何故、こんな事になったのだろうか?
目の前を歩く冒険者は女性だ。見た目はミリアと同じくらいの背丈。黒い髪で透き通った紅い目をしている。手には剣を持っていて可愛いと言うより美人と言ってもいい外見なのだが、出会いからしてユーリと近いものがあり、なんとなく残念美人の匂いがするなぁと思う。
彼女との出会いは、十四階層。そして事故が起こったのは十五階層目。
転移魔法陣にて帰ろうとしていた所で、ある事故が起こり、巻き込まれてしまった。その事故と彼女は関係ないと思うが、俺達が巻き込まれたのは彼女の所為である。十四階層での出会いと、十五階層目での事故思い出し溜息を付く。
※
時間は迷宮探索を始めて二日目の夜に遡る。俺達は十四階層目の入り口で夕飯を食べていた。ペースとしては、迷宮探索初心者とは思えない程のスピードだった。何故早いかと言えばナビのお陰なのだが。他の生徒達は、まだ十階層付近にいるらしい。
ちなみに他の生徒達の居場所が分かるのは、ここまでの間、ずっとナビアプリを起動していたためか、妖精達が成長し、いくつかの新機能が使えるようになっていたからである。その一つが位置検索であった。人が居る所は青いマーカーが点灯していて、魔物は赤いマーカーで示されている。今は、十階層に青いマーカーが集中している。
「このままのペースだと明日のお昼前には着きそうですね。お弁当我慢しないで食べていれば良かったです」
「まあ、このペースで来れたのはロロナ達のお陰だけどな。でも、他の連中はまだ十階層に居るみたいだけど間に合うのか?」
今十階層と言うことは、ここまで来るのにかなりの時間を要するだろうと思う。そんな俺の疑問に応えるのはセルカである。
「そうですね。あと一日ですが、フィアナ先輩の話だと、四日目の朝までなら大丈夫と言ってました。なんでも、大半の生徒が徹夜して十五階層まで辿り着くので、半日は休息時間が設けられているかららしいです」
なるほど、着いてすぐ出発じゃ、確かに大変か。
「なら、俺達は結構時間が空くのか。・・・よし。二週目行くか?」
「「いえ、行きません」」
冗談で言ったのだが割と本気で返されてしまった。まあ雑談はこの辺で終わりにしておいて、一つ気になっていたことを言ってみる。
「なあ、二人に聞きたい事があるんだけど」
「はい?」
「なんでしょう?」
二人は同時に小首を傾げる。
なんか和むなぁ。じゃなくて。
「いや、この地図って、人だったら青いマーカーで、魔物だったら赤いマーカーで表示されるんだけど」
「えーと、その説明は聞きましたよ?」
「この、俺達の近くにある黄色いマーカーって誰のなんだろうなと思ってな」
そう言って俺はケータイの画面を彼女達に見せる。
「この三つの青いのは私達で緑が竜ですよね。あ、凄く近くに黄色いマーカーがあります。この黄色はなんでしょう?セルカ、分かりますか?」
「近くと言っても周りには何にもーーーあれ?」
ミリアに問われ辺りを見回し、マーカーの差す方向を注意深く見るセルカ。どうやら何かを発見したようだ。
俺はセルカ達が見ている場所に何かが居ることは気が付いていたが、正体が分からなかったので放置しておいた。黄色いマーカーは識別不能とある。
害が無ければ放って置いても良かったのだが、奴はこちらが気が付いてないのを良い事に、少しずつ距離を詰めて来ていたので、二人には取り敢えず教えておく。
「な、なんか動きましたね。あれは魔物じゃ無いんですよね?」
「ついでに言うと、人でも無いかもな。俺でも何か分からない。なあミリア、魔法打ってみたら?なるべく威力が低いやつで」
「サクヤさんがそう言うなら・・・」
ミリアは右手を前に出して唱える。俺が教えていることもあり無詠唱で放てる。
「フレイムーーー」
視線の先にあった得体の知れない何かは、ミリアがフレイムまで言った所で、何かをされるのか悟ったようで、慌てた反応する。そして突然、がばっと立ち上がった。なにか喋り出したが恐らくミリアは聞いてない。
「ちょっと待ーーー」
怖かったのだろうか。ミリアが一瞬ビクッとなったかと思うと、目目の前の物体を睨みつけ、手に魔力を込めて叫ぶ。
「ーーーブラストォォ!」
割と大きな炎が謎の物体を包み込む。
「あっつ!あっつい!誰か、水!水下さい〜!」
炎の中からのたうち回るような音と女性の声が聞こえてきた。
俺はミリア達と顔を見合わせて水は?と問いかけるが首を振られる。
というわけで水を頼まれたが飲み水しか無い。だが得体の知れない相手に使う程、余っていない。
「なあ!水無いから魔法で良いか?」
「え、あ!お願い!」
「んじゃ、衝撃に備えてくれ」
「へ?」
「アクア・ブラスト!」
俺が使える中で最弱のアクア・ブラストで消化してやった。
威力を抑えるために直接ぶつけるのではなく地面を伝わせて放つ。
だが予想外に勢い良く出てしまう。やべっと思った頃にはもう、遅い。
ここは外ではなく迷宮の中であり、魔法を放った先は、他と比べると狭い廊下だ。そんな所に水を勢い良く流すとどうなるか?
答えは簡単。
そこには一時的な川ができる。水は燃えている声の主の方まで行くと、ジュっと火が消えたような音が。
そして流されて行く物体。しばし呆然と見ていた俺達だったが、ドスン!という音が物体が流されていった方向から聞こえた。
その音で我に帰り、俺達は流されて行った方向へ向かう。
そこには入口の近くの壁に激突し、伸びている女性の姿があった。
あれ?どこかで見た光景のような。それもつい最近。
後半で迷宮は終わるかも?書ききれない様でしたら中編とかにするかも




