第十五話 森での出会い
なんとか土曜日に投稿出来ました。
「うう、酷い目にあったわ」
「わう・・・」
びしょ濡れの女性と精霊は恨めしそうな目でこちらを見る。見た目は白い髪を一つに括ってポニーテールのような髪型だ。目はよく見ると左右の色が違う。赤と水色になっている。
確か授業で言っていたが、左右の目の色が違うのは精霊と契約した影響らしい。
自業自得じゃないのか?とも思うが流石にアクア・ブラストはやり過ぎだったかと反省する。
「すまん。ちょっと、やり過ぎたかもな。でも人の昼飯を勝手に食うのも悪い」
「それは仕方ないじゃない!お腹空いてたんだもの!目の前に食べ物があったら普通食べるでしょ!?」
「・・・そうか」
「そうよ!何か文句ある!?」
・・・反省の色は無しか。そういえば服が濡れてるな。魔法で乾かしてやるか。具体的にはフレイム・ブラストで。
俺は無言で片手を彼女等に向ける。手には火属性の魔力が集まる。
「え?まさかフレイム・ブラスト!?ちょ、待って、待って!!それは洒落にならないから!」
俺が何をしようとしたか気付いたらしく慌てて止めに来る。本当に放ったら乾くより燃える方が先かも知れない。
「冗談だ。こっちのなら良いだろ?」
俺はそう言いながら別の魔法を掛ける。
「あ、これって乾燥魔法?凄い。あっという間に全部乾いちゃったわ」
「わう!」
精霊の方も濡れて気持ち悪かったらしく、喜んでいる。彼女等にかけたのはドライ。効果は布や毛についた水を蒸発させるという、日常生活でも重宝される一般的な魔法である。
彼女等が落ち着いた所で話を聞こうか。取り敢えずは自己紹介から。
「えーっと。私はユーリ。精霊魔法士をやってるわ。この子は契約精霊で名前はクローム」
「わう!」
彼女の方はユーリと名乗り、クーロムと呼ばれた精霊は元気良く吠えた。なんか犬にしか見えない。
「俺はサクヤだ。それで?昼飯食べて元気になったか?」
何か言うことはないのか?と嫌味っぽく言ってみる。
「え、えっと、ありがとう。助かったわ。それと、お弁当食べちゃってごめんなさい」
「お礼ならコイツ等に言えばいい。精霊の声を聞いて助けるって言ったのはコイツ等だからな」
『いいの!またフィーちゃんに作ってもらうの!!』
『私も食べてみたかったのですが仕方ないですね』
「帰ったらまた作ってもらう様に頼むから今は我慢しとけ」
『はいなの!!』
『分かりました。マスター』
彼女が謝ると先程から俺の後ろに隠れていた二匹の妖精が小さな羽をパタパタさせながら顔を出す。少し残念そうではあるが、怒ってない様子だ。ふと、ユーリの方を見ると何故か唖然とした様子で固まっていた。
何故そんな顔して固まってるんだ?
「な、なにソレ?妖精?え?妖精って確か下級精霊で、喋らなかったような気がするんだけど・・・」
いや、喋らないって言われてもコイツ等、普通に会話出来るけど。それに下級じゃ無くて、成長したから今は中級だからな。その辺に違いがあるのかも知れない。
ただなんとなく、このユーリってのに喋ると、色々面倒な感じになると予想出来たので適当に誤魔化す。
「そうなのか?精霊についてはまだ勉強中でな。どんな種類がいるのかも良くわからないんだ」
「勉強?あ!よく見たら学園の校章をつけてるじゃない!もしかして君って在学生!?」
「まあ、そうだけど。そんなに驚く事でも無いだろ?」
「こんな所で会うのは驚くわよ!学園での授業じゃこんな所、通らなければ使いもしないし。何か特別な課題とか?」
随分と学園に対して詳しい。もしかして卒業生か?
「課題って言うか、授業で迷宮へ行く途中だが?」
「迷宮?ってことは、もしかしてヘリアズ迷宮?それってここから凄く遠いわよ?何処かに竜がいるの?」
「いや、竜は居ないぞ?訳あって竜に乗れなくてな。自力で今日の午後までに着かないと遅刻なんだ」
「はあ?いや、無理でしょ、ソレ。竜もいないのにどうやって行くつもりなのよ?」
ユーリは何言ってんの?みたいな顔をしいる。ちょっとイラっと来たぞ。
「そりゃ、魔法で。シルフィード使えば速いぞ?」
当たり前のように言うと何故か彼女は頭を抱え始めた。
「・・・なんか頭痛くなってきた。シルフィードって確か、戦闘補助系の魔法でしょ?魔法使いよりは騎士が良く使うヤツ。まさかアレで迷宮まで走るの?信じられないんだけど」
「信じられないって言われてもなぁ。じゃあ、ちょっと見せてやるよ」
信じられないと言った様子で疑いの目を向けられたので、論より証拠。ということでシルフィードを発動させて走って見せる。上へ下へ。縦横無尽に走り回る。
「す、凄いとしか言いようが無いわ。発動句も聞いたこと無いし、込められる魔力が桁違いに多い・・・」
十分に驚かせる事が出来たので、魔法を一旦解除し、地面に着地する。
『マスター。そろそろ行かないと』
『サクちゃん!あんまり遊んでると遅刻なの!』
メルルとロロナに言われ、時間を見ると授業の開始まで、一時間も無い事に気付いた。このまま急いで行っても昼飯の時間は無いかも知れない。
「マズイな、遊び過ぎたか。アンタ等は腹も膨れてるだろうし、もう大丈夫だよな?俺等は急がなきゃなんだ」
ユーリ達の状態を見るに、目立った外傷は見受けられず、ただ単に腹が減って倒れていたのだろうと思う。それなら腹が膨れれば、ここに放置しても大丈夫だと判断したのだが
「え!?待って!こんな所に放置されたら困るわ!!」
いや、困るって言われても。
「ユーリだっけ?精霊魔法士なんだろ?という事は実力はあるだろうし、大丈夫だと思うんだが」
「この森がなんだか知ってる?ここは実力のある術士や竜騎士さえ近付く事を躊躇う魔の森なのよ!」
「なんでそんな森に入ったんだ?何かあるのか?」
「そ、それは言えないわ。私にも色々事情があるのよ。それに本当は、臭い袋で魔物達を寄せ付けないようにしてたのに、アンタが水で流しちゃうから、多分どんどん魔物が近付いて来ちゃうわ」
臭い袋?ああ、通りで最初にユーリに近づいた時、凄い臭いがしたのか。俺はてっきり死体かなんかの腐敗臭だと思っていた。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「いや、別に。それよりどうするんだ?街まで送るか?」
「いいの!?でも多分遅刻するわよ?」
「放っておいたら死なれるかも知れないのに放置は出来ないな。遅刻は、しょうがない」
「あ、あれ?意外と優しいわね。私の予想では置いてかれると思ったのに」
ユーリは意外なモノを見るような目で見てくる。ちょっとカチンと来たので、魔法を発動させる。
「じゃ、俺はこれで」
「わああ!待って、待って!本当に置いてかれたら私、死んじゃう!」
コントみたいなやり取りをしてる時だった。ロロナとメルルから警告があった。
『マスター!気を付けてください!』
『サクちゃん!囲まれてるの!』
どうやらバカなやり取りをしてる間にどうやら魔物に囲まれたらしい。
「ちょっと!?ホントにヤバイわ!この辺の魔物は学園で出てくるようなのとは桁違いの強さよ!」
「わう!わう!」
焦ってる彼女とその精霊であるが、俺は冷静に聞いて置かなきゃいけないことを聞く。
「なあ?取り敢えずどこまで運べば良いんだ?あんまり遠いところは時間的に無理だぞ?」
「へ?えっとイルバスって街に私の荷物とか置いてあるけど、でもそんな事行ってる場合じゃないって!!ああ!こっち来る!」
魔物が今のやり取りを見て隙だと判断したのか押し寄せて来る。その数15匹。魔物は犬型から熊の様な大きな物までそれぞれだが、一気に向かって来られるとかなりの迫力がある。
「ロロナ!イルバスまでの最短ルートを検索。メルルは魔物のデータ収集!」
『了解なの!( です!)』
指示を飛ばすと先にメルルから魔物のデータが来る。ケータイを出してる時間も勿体無いので目の前に立体画面として表示させるが魔物の方が意外にも速かったので読んでる時間が無かった。辛うじて読めた部分にはこう書いてあった。
▽
byメルル
みんな雑魚なのでブラスト系の出力高めで余裕です。
▽
他にも種類や弱点とか書いてあったが、見るのは後回しにする。素早く無詠唱で4種類のブラスト系全てを同時に発動させる。
「う、ウソでしょ・・・同時発動でしかも無詠唱なんて・・・」
もはや何が自分の目の前で起こっているか分からない唖然とした様子のユーリ。そんな事はお構いなしに相手に両手を向け、叫ぶ。
「エレメンタル・ブラスト!全部まとめてぶっ飛べ!!」
目の前が爆発やら水やらで覆い尽くされる。自分で発動してなんだが四属性合わせるとヤバイな。そして戦闘の間にルート検索が終わった様だ。
『検索終わったの!まずはあっちからなの!!』
顔の横にナビが表示される。割と近いな。10分以内だな。
よし!魔物も大体片付けたし行くか。俺はユーリと精霊であるクロームと一緒に抱え込む。
「わう?」
「きゃっ!へ?もう行くの!?待って!心の準備が・・・」
「あんまり喋ってると舌噛むから気を付けろよ?」
「へ?あ、うそ、」
最後まで聞かずに俺は魔法を発動させる。
「シルフィード!!」
全身に風の魔力を纏いながら上昇し、ある程度まで上昇した所で空中を思いっきり蹴飛ばし高速で進む。
「待ってって言ってるのにぃぃぃ!!」
後に残ったのはどう倒されたのか分からない魔物の残骸と彼女達が魔物の除けに使っていた臭い袋だけが残っていた。
次は日曜日か月曜日です。




