第十四話 寄り道
新キャラ登場?
ーーーさて、どこから迂回するか。
ケータイを片手にルートを探す。とはいっても道は大空なので、目立たなければどこを駆けてもいい。
ーーーしかし、失敗したな。すぐ同じ方向に行ってしまったら追いつくに決まっているじゃ無いか。
心の中で反省しながら、どう迂回して目的地まで行こうか考える。今、朔夜は山の上を飛んでいる。眼下には荒野が広がり、人影はなく魔物達がちらほらいるくらいだった。
このまま進むとまた途中で鉢合わせそうだし、大回りして反対側から行くか。
そう決めると精霊を実体化させ、ナビをしてもらうようにする。最短ルートであればケータイの機能だけで事足りるのだが、回り道となると道に外れる度に警告されるので面倒なのだ。
『サクちゃん、何かお呼びなの?』
「ちょっと反対方向から行くようにするから、ルート案内頼めるか?」
『まかせてなの!!』
そういって俺の肩に座り、指を差す。
『うーんと、あっちの方から行くの!』
ロロナの指を指した方向を見ると山の向こう側だ。あっちは行ったこと無いな。
「よし。まだ余裕も三時間くらいあるし焦らず行こうか」
『おー!なの!!』
ーーー何故でしょうか。とても不安になって来ました。
実体化してない精霊の呟きを聞いてる者はいなかった。
※
その頃、生徒達が飛び立った校庭には、一人の男の姿があった。
「ふむ。まさかあのような移動手段まで持っているとは、予想外ですね」
その男は講師の着る戦闘服を着ているので、遠目から見ると講師にしか見えない。
「認識阻害の魔法を掛け、講師達に近づいたというのに、無駄になりましたか」
この男は自らに認識を曖昧にさせる魔法を使い、ノイやジェイドに自然に近付き、遠征訓練で行く方法が無い朔夜を魔法で連れ出すという計画を立ていた。
「当初の計画では研究所まで連れて行き、例の魔物と戦わせようと思っていましたが、計画を変えねばなりませんか」
言う言葉は残念そうではあるが、どこか楽しそうでもある。
ーーーあれは、あの魔法は発動の仕方も含めて私の知っているシルフィードでは無かった。基本魔法を高度なレベルで使いこなすだけかと思っていましたが、実際は違う。やはり彼には何かある。ああ早く彼の本気を見せてもらいたい!!
ああ、そうだ。ミリア嬢の暗殺も忘れないようにしなければね。ふふ。
男は誰にも気付かれないまま学園を去って行く。
不穏な影を残しながら。
※
ーーー山を越えて結構大回りをしてしまったけど、この辺は小さな村があるくらいか?やっぱり学園のある街が一番大きいのか。
今俺はロロナのナビ通り山の反対側を駆けている所だ。大きな街は見えず村が点々とあり荒地が多く見える。
『むむ!何か感じるの!サクちゃん、すとーっぷ!なの!』
ん?ロロナが俺の耳を引っ張って叫んでいる。いや、止まれって言われてもな。こっちは速度が出ているのだから急には止まれない。まあ、仕方ないか。
今、朔夜はシルフィードの魔法を使い高速で飛んでいるため、止まるにしても別の魔法を使ってブレーキを掛けなければいけない。
「エア・バースト!」
前方に空気を一気に噴出させる。本来であればもっとゆっくり風を操りながら止まるのだが、急ブレーキとなればこうする他無いのである。文字通り空気を爆発させるので、その衝撃は並大抵では無い。
「おお!?衝撃が。急に止まるのってキツイな。それで、ロロナどうしたんだ?」
『なんか仲間の声が聞こえたの!メルルも聞いた!?』
『はい。私も聞きました。恐らく、この辺りで叫んでいるのでは無いかと思われます』
どうやらロロナ達は何かの声を聞いたらしく、辺りを気にしている。
「どんな事を言ってる?俺には聞こえなかったんだが」
『恐らくマスターは高速移動中だったので聞き取るのが難しかったのではないかと思われます。声の方はーー』
『助けを求めてるの!早く助けてあげないと危ないかもなの!!』
助けか。よく分からないけど急ぐか。
「その場所まで案内を頼む」
『じゃあ、行くの!先ずはあっちなの!』
俺は魔力を抑え、小回りが効く程度まで速度を落として移動する。ロロナはよほど焦っているらしく、俺の肩から離れ自ら先導するように飛んでいく。メルルの方も不安なのか、気持ちがこちらにも伝わってきている。
『今、声が途切れました。早く助けに行かないと危ないです』
『見つけたの!!サクちゃん、あれなの!』
ロロナの指した先には森が広がっていて肝心な姿はまだ見えない。
森の中に入り、辺りを見回すと居た。そこにはうつ伏せに倒れてる人と、
隣に魔物らしきものが倒れている。
魔物は犬型だが見た目はそれほど怖くない。あちらの世界で例えるなら柴犬だろうか。
あの犬に襲われたか?いやよく見ると感じられる気配が違う。ということは、あれは精霊か。
恐る恐る近づいてみる。ローブを着ていたので遠目には分からなかったが、どうやら女性のようだ。取り敢えず肩を揺さぶる。
「ん・・・うう」
息はしているようなので死んではいない。良かった。
だけどコレ、どうするか。こんな森の中に放置する訳にはいかないだろうし。目が覚めるまで待ってると遅刻は確実だ。街へ運んだ方がいいのか、この場で治療してやるのが良いか悩んでいると、肩に下げているカバンからゴソゴソと動く気配があった。
「おいロロナ、お前、人のカバンに体突っ込んで何してるんだ?今、忙しいんだけど」
見るとロロナがカバンに体ごと入り込み何かを探している。
『実体化して動くとお腹減るの!だから食べ物欲しいの!』
食べ物?食べ物っていっても昼に食べようとしてた弁当くらいしか入ってないが。え、まさか弁当を食べようとしてる?
「もしかして弁当食べたいのか?」
『そーなの!フィーちゃんが作ってくれたの食べたいの!』
弁当は今日から遠征訓練ということでフィアナが俺とリリアとセルカの三人に弁当を用意してくれていた。生徒会長なのに作ってくれて、ありがたい話である。どうやらロロナはよほど食べたかったらしい。
「分かった、分かった。でも食べて良いけど少しだからな?」
『大丈夫なの!この身体じゃそんなに入らないの!』
弁当を出して下に置いて、ついでにメルルも実体化させる。
「ほれ。ちゃんと残しておけよ?あとメルルも食べてていいぞ」
『ありがとうございます!私もちょっと食べたいと思ってました』
俺の方は倒れている女性と精霊の方に向き直るが、いつの間にかそこには脱ぎ捨てられたローブだけしか無かった。
あれ?気が付いて何処かへ行っちまったか?すぐ動けるような状態じゃ無かった気がするが。
居なくなってしまって少し心配ではあったが、何処に行ったかも分からないのでは、探すのは手間だなぁ。と考えていると後ろからロロナ達の声が聞こえてきた。
『うわーん!それ私のなのー!!』
『何しているんですか!その手を離しなさい!』
おいおい。喧嘩か?
「おーい、ロロナにメルル!喧嘩すんな・・・・よ」
俺は最初、ロロナ達が弁当取り合って喧嘩してると思い注意しようと振り返る。だが目に入って来たのは予想外の光景だった。
「ガツガツ!ごっくん!むしゃむしゃむしゃ!」
「わう!わう!わおーん!」
「うっ!つ、詰まった!そこのお兄さん!水頂戴!」
ロロナ達から奪い取った弁当を抱え込み、一心不乱に食べ続ける一人の若い女性と犬型の精霊が居た。女性の方は焦って食べ過ぎたのか喉を詰まらせて苦しそうだ。
「水か。ちょっと無いな」
「そ、そんな!あ、じゃあ魔法でいいから水出してよ!早く!息が苦しいよ!」
「魔法ならお安い御用だ。ちゃんと口開けろ」
「え?うん。じゃあ、あーん」
リクエストがあったので魔法を放つ。
「アクア・ブラスト」
「へ?あれ?それ確か攻撃用のまほ・・・あばばばば!お、溺れるぅぅ」
悪いが一番弱いのでコレだからな?文句は先生に言え。最小限に抑えてあるし安心して水を飲んでくれ。
人の昼飯を勝手に食べたんだ。これくらいの仕返しがあってもいいだろ。
ーーーなあ、メルル?こいつらなんて叫んでたんだ?
『腹減った。誰か助けて。です』
・・・勢いを少し強くしてやった。
次は土曜日でしょうか




