第十話 そして旅立ちへ
今日の投稿はこれで三つ目です。いよいよ主人公が旅立ちます。でもまだ登場人物は変わりません。
「1年間、ご苦労様。これで貴方は大抵のことは出来るし、魔物に襲われても簡単には死ぬことは無いでしょう」
修行を始めてから1年の月日が流れた頃、ある日の修行の終わりにアリシアに言われた。
「そうか、もうこの修行の日々も終わるんだな。アリシア、今まで面倒を見てくれてありがとう。このことは一生忘れない」
「いやね。これで一生の別れでは無いわ。困った事があったら頼ってくれていいし、いつでも会いに来るといいわ。その時は美味しいご飯を用意しといてあげる」
俺が頭を下げるとアリシアは苦笑しながら言う。
「まぁ準備は色々あるでしょうし、今日はいつもより豪華な料理にしたから期待しててちょいだい」
その日の夜はとても豪華な食事だった。俺はしばらくこんな食事も出来ないだろうなぁと味わいながら食べた。食事を摂った後はこれからの事ついての準備や説明を受ける。
「まずは学園に通う必要があるわ。ここでは冒険者になるのも簡単では無いのよ。ある程度の常識がなければギルドに登録すら出来ないの」
「が、学園って・・・でも今俺は21だぞ?学園って聞くともっと下の年齢の人達が通うところなんじゃないのか?」
「大丈夫よ?学園といっても子供達が毎日通うところじゃ無く、魔法や竜の扱い方を専門的に習うところなの。だから年齢はバラバラね。そこで卒業資格を得られなければ冒険者にもなれないのよ」
そうなのか・・・冒険者って聞くと無法者のイメージがあって誰でもなれるようなものだと思っていたが違うようだ。
「まぁ、学園に通わなくても冒険者の依頼は受けられるけど、やっぱり依頼する側もちゃんとした人にして受けてもらいたいと言うのがあるから、強い人でも依頼を受けにくくなるわね」
まあ確かに、いくら強くても学歴も常識も無いような無法者に依頼をしたいと言う人は少ないかもしれない。
「学園はどのくらい行けばいんだ?やっぱり2年、3年とかかるのか?」
「普通は2年かかるわ。中には例外があって1年で卒業して行く人だっているの。早いうちに精霊や竜と契約して力をつけたり、年1回の試験に合格すればだけど。試験は相当な実力者でなければ合格するのは難しいと言われているわ」
確かにこのまま冒険者をしても依頼が受けにくくなるのであれば通うしかないか。なら1年後の試験に合格出来るように頑張らなければ。
「そんなに難しい顔をしなくても心配要らないわ。貴方の実力であれば1年後の試験には難なく合格出来ると思うし、実力が認められれば学園に通いながら冒険者も出来るから」
「じゃあ後1年、頑張ってみるか!」
「決まったわね。ちょっと待ってて」
とアリシアは奥の部屋から服を持って来てくれた。
「これが制服ね。1着は用意しておいたからボロボロになったら自分で買いなさい」
そういってもアリシアは俺に服を渡す。なんだろう学ランと言うよりはブレザーみたいな感じの服である。
「あとこれは戦闘着ね。これは決まったものがないから私から手作りをプレゼントするわ。戦闘着は特にボロボロになり易いから、安い物をたくさん送っても良かったのだけれど、折角だからね。ふふ。なんとその服は自動修復機能付き。破れたり汚れたとしても魔力を込めれば元に戻るわ」
戦闘着の説明を得意げにするアリシアだった。
「何から何までありがとう」
「ふふ、どういたしまして。あ、あとこれは貴方が来た時に持っていた物だけど」
俺が持って来てた物って・・ああ!ケータイだった。この世界に来て2日と立たず電池が無くなって動かなくなったしアリシアにくれと言われたので渡していた。
ちなみに腕時計は今も使っている。この世界と地球の時間の進みはほぼ同じらしく文字盤の表示を変えてやるだけで日付も時間も合わせられたので重宝していた。
「ん?ケータイは別にいらないって。どうせ電源入らないし。まあ使えたら便利だと思うけど」
「使えるわよ?私が改造しといたから」
え!?電気も無いのに動くのか?てか改造ってなんだ。
「そもそもの原動力は電気だけど、魔法で雷を売っても壊れるだけだと思ったから原動力を変えて見たの」
といってケータイを渡される。電源を押してみると起動する。
だが起動画面からしておかしかった。たしか起動するとケータイ電話メーカーのロゴが出るはずだったのに見たことない模様が浮かんでいた。
ーーなんだろうこの模様?精霊陣に似ているような・・?
アリシアは得意そうな顔をしてとんでもないことを言った。
「その模様は精霊の契約陣よ」
「え、契約陣って精霊と契約した証のアレ?」
「そう。でも中に入っているのは私達が契約する様な高位の精霊ではなく低級の精霊なの。その子が魔力を電池へ変換する役目を担っているのよ。だから充電したい時は魔力を送り込むと充電出来る様になるわ」
そして!とアリシアは得意げに言いながら続ける。
「私も同じ物を作ったから、これで通話って奴が出来る様になるわ!」
「だから困った時はこれを使って連絡して来なさい。もしかしたら助けてあげられるかも知れないから。私が無理な時もリリーが行くわ」
「きゅぃ!」
聞こえていたのか、家の外からリリーの鳴き声が聞こえてきた。なぜ聞こえるんだリリーよ。
そろそろ時間も遅くなって来たし明日の準備をしてから床に就いた。
いよいよ旅立ちだ。彼女たちと離れ離れになるのは寂しかったが、いつまでも世話になるわけには行かない。なるべく早くに準備を整えてここを出よう。
これからどうなるのか不安ではあるが楽しみでもある。精霊魔法士を目指すのもいいし竜と契約して竜騎士を目指すのもいい。アリシアみたいにどちらとも契約せず起用貧乏な冒険者を選択したっていいのだ。道は多くあるーー
これからの自分がそうなるのか想像しながら俺は眠りについた。
ーーそして朝。俺は度の準備を整えアリシアに別れを告げて旅へ出る。リリーは学園のある街の近くまで乗せてってくれるらしい。
「これでさよならだな。アリシア、今まで本当にありがとう」
「いいえ。これでさよならでは無いわ。ケータイでいつでも話せるし、会いにこようと思えばリリーが迎えに行くわ。だからーーーさよならじゃなくて行ってきます。よ?」
俺はその言葉に涙が出そうになった。
「ああ、また連絡するし、たまには帰ってくるよ。だからその時は美味しいご飯をよろしく。ーそれじゃあ、行ってきます」
俺がそう言うとアリシアは近づいてきて
「行ってらっしゃい。美味しい食事を用意して待ってるわ」
と言いながら俺の唇にキスをした。
「なっ!え?ちょっ」
思っても見なかったアリシアの行動に赤面して「なっ!」と声をあげたら急に視界が高くなり「え?」と振り返って見るとリリーが俺の服の襟首を咥えていた。文句を言う暇もなくそのまま背に載せられリリーは空へ上がっていく。言葉にしようと思ったがあまりに早く「ちょっ」までしか喋れなかった。
こうして立花朔弥は長い修行を終えて本当の意味で異世界へ足を踏み入れる。
ーーーーなんとも締まりの無い始まりではあったけれど。
この次から学園編が始まるわけですが名前に困っています。人の名前を考えるのって難しいです。




