表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウサギの駆け引き  作者: 河合彩
1/3

ウサギのポジション

とにかく愛子という人物はお調子者で要領が良い。

産まれたのは出産予定日ぴったりで、小・中・高・大と学校の成績もまぁそこそこ無難に維持してきた。

ただ社会に出た時期には恵まれなかった。昨今の不景気により就職活動は思ったとおりに進まず、何とか入社できたのは流通業界。この業界の常らしく労働基準法なぞ意味も持たない。残業代も出ない上、残業時間も半端ないので阿呆らしくなって半年も経たずに辞めてしまった。

離職後に気づいたが、正社員の枠というものがどれだけ狭いものか。「新卒とはスゴい切り札だった」と今更ボケた様に懐古している。

しかし過ぎてしまったもんはどうにもならないと気持ちを切り替え、大手の契約社員の総合職として働くことにした。

これが良かった。

残業代は出るわ出るわ、元来の世渡り上手を発揮して企業の人間や顧客先にも評価されるわ、「このまま美味い汁吸い尽くしたるわ」と調子に乗っていた。

だが現在やっと自分のポジションに気付いた。契約更新は最長でも3年までだ。現在10月初旬。12月末の契約終了まであと少し。


「森本さん。このスケジュール見直して。隙間があります。」

愛子を呼んだのは正社員の女主任である。

コイツ本当腹立つわと心でボヤきながらよっこらせと席を立ち上がり主任の席まで歩いていく。

「は〜いどれですかねぇ。」

「言葉遣いを正しくしなさい。これを明日の朝までに終了させること。いい?」

「残業申請をしていないので時間が足りません。私はできません。」

主任は上品に笑いながら「でもミスをしたのは誰?あなたでしょ?スケジュール企画してその通り動かないと仕事が前に進まないわ。」

仕事の役割なんか説かれても知らん。だが自分の作成した時間割にミスがあったことがプライドを傷つけられる。

「では私はお先に失礼します。」

ババアは何か顔を赤らめながら帰りやがった。あいつ合コンかそれとも更年期か。


契約期間を満了させて失業保険を貰えば楽に転職活動でもしようと思っていたが、企業側としては契約終了まで待つのが痛手なのか辞めさせようと画策してきている。今まで雰囲気の良かった職場が腐食し始め、課全体が淀んでいた。

「あっ!」

最近物忘れが酷くなってきた。今日は友人との食事が8時からあるんだった。あと30分。5分で処理を済ませて車でファミレスまで向かった。


「でさ〜ババァが帰るのよ〜!あいつ絶対欲求不満なんだわ〜。なんか顔がだらしないしさ〜。」

「他のお客さんの迷惑になるよ…」

「なんか注目浴びてる感じでいい気分だわ〜!もうちょっと化粧濃くしてくるんだった。」

「愛子はキレイだから大丈夫だよ。」

周囲の客は2人の女を気味悪そうに見る。少し離れたところから女性客が「女の人がいいって人もいるから」と呟いたのが聞こえた。

愛子は「デカいと目立つから大変だわ。」と舌をベロベロ横にスライドさせながらおどける。

身長は普通よりちょっと高いだけだが骨太のためか大柄なのが悩みだ。無論ダイエット不足もあるが。顔もまぁ人生通りそこそこ。さして美人と絶賛されるまでもないが髪が長いのと下品な癖にどことなく品を感じさせるのが愛子の外見の長所である。

「そのベロの癖治らないの?」

このいかにも優しそうな友達の名前はそのままだが優子。彼女は中学の時の友達だが地元が近いため未だに仲が良い。新卒で入社したベンチャー企業で劣悪な労働環境に身を置きながらも、正社員として必死で頑張るその姿は涙ぐましい。愛子より小柄だが少しふっくらしており、美人とは言い難い。

「優子は頑張るよね〜…辞めればいいのに辞めれば〜。」

「私はダメだもん…転職活動とか自信ないもん…」

「じゃあ専業主婦とかなれば?」

「だって…辞めても収入源無くなるし…彼氏いないから結婚もできないし…愛子結婚しないの?」

「もう少しかな〜?今度タカさんに聞いてみるわ。」

結婚はもう少ししたくない。彼氏である豊はとても頼りがいがあるが彼を支える位の女にならなければいけないと愛子は思っている。

「私も結婚式には呼んでくれるか」と優子が不安げに聞くのに対し、「アンタには絶対来て欲しい」と笑顔で応えて2人共ファミレスを出た。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ