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闇夜に浮かぶ赤い月-2-

---皐月Side---

 数年前、俺は見てしまったんだ。 あの地獄絵図を。

 最初に見たときは怖くてたまらなかった。 あいつは今どうなっているんだ? 状況把握さえもままならない。

 ただ一つわかったことは、目の前には怪物がいたってこと。

 その怪物は自分が得た獲物から肉をそぎ落とし、内臓をぐちゃぐちゃにして気味悪く笑いながらそれを取り出す。

 滴り落ちる水滴、それが生み出す紅に、俺は魅力さえも感じてしまった。

 ……ソレガシンゾウダトキヅクマデハ。


---華Side---

 現在時刻、午後十一時五十六分。 時はきた。

「林檎と、ナイフ……満月も出てる、雲も周りにない」

 それを確認して、私はナイフを大きく振りかざし----------深く深く突き刺した。

 ナイフが突き刺さった林檎からは、果汁が滴り落ちる。 私には、血のようにさえ思えてきた。

 なんだろう……気持ちいい。

 現在時刻、午後十一時五十九分55秒。 林檎を闇夜に浮かぶあの綺麗な月にかざす。 五……四……三……二……一……零。


 五十七……五十八……五十九……六十。 現在時刻、午前零時五分、何も起きない。 勿論、黒マントの男さえも現れない。

「だよね……信じたあたしが馬鹿だったな」

 やはり都市伝説なんてあてにならない、迷信だ。 ちょっと内容がお姉ちゃんの殺害現場とかぶっていたからって理由で、その都市伝説が本当かどうかも分からないのに……。

 林檎から滴り落ちる果汁は、既に私の左手をベトベトにしている。 疲れた。 そう思い、かざしていた林檎を静かにおろし、月に背を向けた……その時、見るはずのない光景が私の目に入ってきた。

「ひっ!?」

 そこにあったのは、私の後ろに立っていた1人の青年の姿。 フードをかぶっていて顔はよく見えない。

「だ、誰!?」

 私は恐怖におびえ、肩を震わせながらもその青年に問う。 すると青年は、低く、響く声で

「貴様から俺を呼び出した。 なら、今更俺が誰なのか問う必要はない」

そう答えた。 それで私は、ようやく状況を理解した。

「じゃああなたが……」

 そう考えると、肩の震えが収まった。 前にいるのは恐怖の対象なんかじゃない、私が待ち望んでいた人物なのだから。

 月明かりが部屋に差し込む。 それによってさっきよりその人の姿が見えた。

 伝説の通り、黒いマントを羽織っている。 顔を隠しているフードからのぞかせる紅く輝いた、しかしどこか闇を放つその瞳に、どこか懐かしささえ思わせた。 なぜだろう。

「おい」

「っ!!」

 しまった、少し見とれていたな。

「言え、貴様の願いはなんだ」

 その紅い瞳が睨む。 怖くなって、その場から動けない。

「私の……願いは……」

 とっくに決まっている。

「湯野村皐月を殺すこと」

 そう、お姉ちゃんを殺した奴をこの手で殺す。 お姉ちゃんと同じ恐怖を味あわせてやる。

「……願い、聞いた」

 その人はにやりと笑い、私の耳元に顔を近づけた。

「今から貴様は、我の契約者だ。 契約者には、我の真の名を言おう。」

 そして、耳元で囁く。

「われの本当の名は……××」

 刹那、私の心臓が大きく脈を打った。 大きすぎて、だんだん苦しくなってくる。

「っ……!」

 苦しい、苦しい、くるしい、クルシイ……クルシイ? 

「クルシイって……何?」

 気がつけば、私に宿っていたコワイというものもなくなっている。 まあ、それがなんなのかももうわからないけど。

 ××は私の耳元から離れると、手を前に出して何かを唱えた。

「       」

 すると××の手に光が出てきた。 その光は××の手の中で踊るようにまわり、徐々に中心で固まっていく。 全てが固まるころには、その光は、紅く妖艶に輝く林檎と化していた。

「これに殺したい奴の名前を書き、その刃で深く突き刺せ。 それだけだ」

 そう言ったきり、××は姿を消した。 私は、茫然と立ち尽くすことしかできなかった。


 今日は学校がやすみだった。 私は私服に着替え、出かけることにした。 勿論、彼奴の家だ。

 今日が彼奴の命日になる。 お姉ちゃんの仇をとれる。 だからその前に、真実を吐かせてやる。 全てを語ってもなお自分はその罪から逃れられないと分かった時の絶望に満ちた顔を是非見たいものだ。

 私は××と契約を結んだあの日、カンジョウを失ったらしい。 それが代償なのだろうか、命ではないのだろうか。 ……ただ一つわかるのは、『嬉しい』と『憎い』という感情が残されたということだけだった。

 そうこうしているうちに、彼奴のうちについた。 インターホンを押す。

「はーい」

 ガチャっという音がしてドアが開くと、皐月が顔をのぞかせた。

「華じゃん! どうしたのー?」

 皐月君がいつもの爽やかな笑顔を見せる。 ああ、そうやってのうのうと今まで生きていたんだね、私とお姉ちゃんの気も知らないで。

「話がある、へやにいれてくれない?」

「……おっけい!」

 一瞬なにか考えたようなそぶりを見せたものの、皐月君は私を招き入れた。


「オレンジジュースでいいよな、今それしかないんだ」

「大丈夫」

 オレンジジュースの入ったペットボトルの口が、コポコポと音を立ててオレンジジュースをコップに流す。 その間は、ほんのりとオレンジの香りがする。 当たり前か。

「で、なんだよ話って」

 さっきまでのへらへらした顔とは打って変わって真剣な表情になった皐月君。 その表情は、何かを察したかのようにも思えた。 仮に察したのだとすれば、都合がいい。

「……単刀直入に言うよ、お姉ちゃんを殺したの、皐月君だよね?」

 皐月君はうつむいてしまった。 私は、話を続ける。

「数日前、皐月君はチャットでお姉ちゃんの殺害現場のことを言ったでしょ。 殺害現場の状況を皐月君に教えた覚えなんてないんだけど。 勿論、私の家族も教えたことなんてないって言ってた。 ……どういうことか説明してくれる?」

 私は語勢を強めて皐月君を問い詰めた。 できる限り睨みは聞かせたつもりだ。するとうつむいていた皐月君はようやくその重い口を開いた。

「確かに俺は咲楽を殺した……けど、本当に殺したのは俺じゃない」

「はぁ!?」

 怒りが爆発した私は、皐月君の胸ぐらをつかんだ。

「あんたこのごに及んでまだ白を切る気なの!? 馬鹿なの!? お姉ちゃんと私が今までどれだけ辛い思いをしてきたか、まだわからないの!?」

 あんたがわからない、憎い、憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくい!!!!!!

 皐月君をおもいっきり殴った。

 パァンと音がした。 

「もういい……この場でコロシテヤル」

 私はバックからあの林檎とナイフを取り出そうとした。皐月君の頬からは血がにじみ出ている。 そして皐月君は

「……ゴメン」

 それだけつぶやいたあと、パーカーのポケットから何かをとりだした。 

 

 そのあとのことは、私にはワカラナイ-----------。



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