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第60話「ダム工事開始です」

むー、こわもてなお兄さんはやっつけちゃいました。

でも、また来ないか心配です。

長老に話を聞きに行ったら昔話をいろいろ聞かされちゃいました。

なんでも昔、山の上の女王さまに術をかけられて、人の姿になったそーです。

でも、その女王さまの名前、どっかで聞いた事があるような気が…


 夜のぽんた王国は真っ暗。

 わたし、ポン太くんやポン吉と一緒に寝てたけど、二人が寝付いたのを見計らってコソコソ脱出です。

 昼間のこわもてさん達の事、ちょっと気掛りなの。

 長老にその辺、聞きにいきましょう。

 でも、家の中に長老いません。

 外に出て……おそば屋さんに明りが燈っています。

「長老~」

「ふむ、ポンちゃん」

「夜にお店ですか?」

「いや……夜は店はやってません」

「?」

「晩酌です」

「なんで家で飲まないんですか?」

「ポン吉がうるさいので」

「はぁ……」

「ポンちゃんも飲みますか?」

「お酒は口に合いません、ジュースがいいです」

 って、長老がビンのオレンジジュースを出してくれます。

 わたし、コップにジュースを注ぎながら、

「昼のこわい人達なんですけど……」

「以前から因縁をつけてくる連中です、大した事はないです」

「でも……」

「でも?」

「Gを食べるのはやめた方が……」

「ポンちゃんは食べた事ありませんか?」

「あ・り・ま・せ・んっ!」

「何故?」

「何故って、ともかく食べた事なんてないんです!」

「虫は食べ物……」

「わたし、野良の時から人間のお世話になってるんです」

「そうですか……人間の食べ物に慣れると確かに……」

 長老、目を細めて一口飲んでから、

「私が人間の食べ物を口にしたのは、私がまだ若かった……ずいぶん昔の事です」

「はぁ……」

「昔、まだ人間がそんなにいなかった頃の事です」

「……」

「人が行列で、山の頂上に行くのを見つけたのです」

「めずらしいの?」

「昔……ずっと昔は今みたいに道もよくなくて、山に登るだけで大事だったのです」

「その行列をどうしたの?」

「食べ物をたくさん持っていました、後を尾行ればくすねられると思ったんです」

「その時、人の食べ物の味を覚えたんだ」

「です……でも、それだけではなかったのです」

「なにが?」

「連中は山の頂上の祭壇に貢物を持って来ていたのです」

「貢物……で?」

「連中は貢物を置いて山を下りました、私はしばらく様子を見守ってから、それを食べに行ったのです」

「人がいないなら食べ放題」

「人がいたのです」

「え?」

「卑弥呼さまと崇められた人が、一人でいたのです」

 卑弥呼? ひみこ? ヒミコ? どっかで聞いた名前ですね。

「そう……卑弥呼さまは山の頂上にいることを運命付けられているとのことでした」

「へぇ……一人ぼっちでかわいそうだね」

「そう、卑弥呼さまは一人でいるさみしさから、私に術をかけてくれたのです」

「そ、それで人の姿に?」

「あと、無限の命を」

「そ、それで長老なんだ」

「私は卑弥呼さまとお話をして、たぬきの王国を作ってくれるとも約束されました」

「まさか、それがぽんた王国?」

「いろいろあって、私もなかなか卑弥呼さまの所に行けなくなりました」

「そうなんだ……」

「私はそんな卑弥呼さまの約束を忘れないためにも、この土産物屋を作ったのです」

 長老は髭を撫でながら、

「卑弥呼さまからかけてもらった術も弱くなったのか、私もすっかり老いぼれです」

「それでポン太くんに後を継いでもらおうと……」

「私は老いたといっても、山の中でやっていく事ができます」

「はぁ……」

「でも、ポン太やポン吉は野生で暮らす力はありません」

「ちょっと……長老、ここ、ダムが出来るんですよね?」

「知っていましたか」

「昼に来た巫女さん、あれ、わたしのお友達」

「そうでしたか……地鎮祭で来たのでしょう」

「うん……ダムが出来るってそこで初めて聞いたの」

 って、本当は長老を祓いに来たらしいのは黙っておきましょう。

 まぁ、長老の戦闘力をもってすればたまおちゃんにやられたりしません。

 でもでも、たまおちゃんのお父さんは強いから……心配かな。

「そう、ここにはダムが出来る事になってます」

「……」

「ガラの悪い連中も、ダム工事の一味です」

「そうなんだ」

「ぽんた王国もせっかくここまで……でもおしまいです」

「長老強いから、返り討ちしちゃえばいいのに」

「ダンプで突っ込まれたりしたら、さすがに無理です」

「む~、そうなんだ」

「人間にはかないません」

 長老はまたお酒を口にしてから、

「ポンちゃんは……TVに出ましたね」

「長老見てたんだ」

「あの時、言っていました」

 なんて言ってたっけ、忘れちゃいました。

「パン屋さんで頑張って、村おこしするんだって」

「そんな事、わたし言いそう……」

「ポンちゃんがタヌキなのもあったし……もしかしたらぽんた王国を救う方法を見つけてくれるかも……と、思ったりもしました」

 そんな事、考えてたんですか。

 む~、なんだか目の細い配達人に連れてってもらうの、悪い気が……

 いやいや、こんな「しんみり」に同情は禁物。

 なんたってわたし、誘拐されたんですよ。

「じゃ、わたし、頑張ります!」

「おお!」

「パン屋さんもわたしの頑張りで売上アップしたんだから、大船に乗った気で!」

 ふふ、ガッツポーズ。

 とりあえず言うだけ言っておきましょう。

 そう、わたし、誘拐されたんだから、帰って当然なの!


「ニンジャー!」

 ふふ、朝からポン吉、ニンジャ姿です。

「ハッスルしてますね」

「ニンジャ屋敷案内好きだぜ」

「似合ってますよ~」

「そうか~」

 ポン吉、わたしをじっと見上げてます。

「ポン姉、メイド服似合ってる」

「パン屋さんでずっと着てたからね」

 ポン太くんもやって来て、

「ボクもこの間から思ってたんです」

 ポン太くん、わたしを見て「ポッ」ってなってます。

 うふふ、わたしもメイド服を着たら、魅力アップみたい。

 わたし、二人を抱きしめて、

「わたしに任せておけば、ぽんた王国も再興間違いナシ!」

「ポン姉、痛いぜ!」

「えいえいっ!」

「痛いってばー、オレ、死んじゃうぜ!」

「えいえい……えいえい……」

 わたしが抱きしめて反応してくれるのはポン吉だけ。

 ポン太くんは黙ってます。

「どうしたの?」

「ポン姉は……本当は帰りたいんですよね?」

「!!」

「長老がさらってきた……誘拐してきたんですよね?」

「ポン太くん……」

「それなのに……そんなに言ってくれて……」

 ポン吉も急に真顔になって、

「そうだ……ポン姉、帰りたいんだよな」

「ポン吉まで……」

 ポン太くんがわたしを見つめて、

「ポン姉、ずっとここにいたら、ボクと結婚なんですよ」

「そ、それはそうだけど……」

「ポン姉がボクと結婚でいいなら……いいけど……」

「……」

「ポン姉、パン屋さんに戻りたいんだよね?」

「う、うん……」

「ボク、ポン姉が帰れるように、ボクらだけでも再興させます!」

「オレもやるぜ!」

「ポン太……ポン吉……」

 わたし、二人をギュっと抱きしめます。

 子供達に帰れるように言われるとは思ってもいませんでしたよ。

 なんてかわいいんでしょ。


「さて、いくか~」

 わたしがおそば屋さんに向かってたら……ダンプ到来です。

 観光バスが停まるスペースに駐車しました。

「あれ?」

 どっかで見た……ダンプなんてどれも一緒?

 いやいや、色とか汚れ具合とか、すごーい見た事あるようなのです。

 運転席のドアが開いて、

「あーっ!」

 出てきたの、現場監督さんです。

「監督さん、どうして?」

「あれ?」

「おそば、食べに来たんですか?」

「パン屋のねーちゃんか?」

「そうですよ?」

「え?」

 現場監督さん、わたしを見て首を傾げてます。

 なんでかな?

「あの……どうしました?」

「いや、なんでパン屋のねーちゃんがここにいるんだって?」

「う……その、誘拐されて……」

「いや、そうじゃなくて……」

「?」

「パン屋にねーちゃん、ちゃんといるぜ」

「え!」

「それなのに、なんでここに?」

「監督さん!」

「な、何っ!」

「ちゃんといるって、どーゆー事ですかっ!」

「いや、パン屋に……」

 現場監督さん、わたしの後ろに回りこんでしっぽをモフモフ。

「パン屋、タヌキがいるよ」

「え……」

「いや、本当に……最近タヌキに戻ったって」

 わたし、ショックで固まっちゃいました。

 この間たまおちゃんがポカンとしていた理由もわかったけど……

 パン屋さんにわたしの身代わりがいるんです。

 こ、こんな凝った事……長老ですね!


「理解いただけましたか? はい、天ぷらそばあがり」

「くっ……覚えてろ~」

 わたし、天ぷらそばを現場監督さんに持っていきます。

 なんだかショック大きすぎ。

 誰も探しに来てくれないの、ちょっと気になってたんですよ。

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