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第59話「あの人は!」

メイド服も装着しました!

これさえあればわたしだって「仕事人」なんです。

注文とったり配膳したりなんですけどね。

「てめっ、ざっけんじゃねーよ!」

うわ、こわいお兄さん達が来店です、どうなっちゃうんでしょう?


「おお、ポンちゃん、似合ってますね」

「む、長老、まちがってます」

「なんですと?」

「似合ってる……ではなく……かわいいでは?」

「ふふ……」

 あ、長老笑ってスルーしてます。

 今度隙を見てチョップをお見舞いするんだから。

「服の場所は……」

「ポン太くんから教えてもらいました」

「そうですか……黙っておくように言ったのですが」

「前からパンツはわたしのが出てたから、服がどこかにあるって思ってたんです」

「ほほう……なるほど」

 長老、たくわえた髭を撫でながら、

「ホームシックになりませんでしたか?」

「あ、なってました」

「ました? 過去形?」

「メイド服着たら、逆に復活です、今日はバリバリ働くんです」

 わたし、ガッツポーズして、

「ポン太くんやポン吉も隣の売店で頑張ってるから、わたしも負けられません」

「では……早速お客さんです」

 村長の目配せにわたしも営業スマイル。

 お店の引き戸がカラカラ鳴りました。

「いらっしゃいませ~」

 って、いつもの勢いで言って、わたし固まっちゃいました。

 入ってきたおじいちゃん……シロちゃんの元ご主人の刑事さん。

 注文をとっていると、またお客さんです。

「いらっしゃ……」

「!!」

 男女二人のお客さん。

 二人ともペアルック。

 ってか、袴姿なんですよ。

「え……」

 わたしと女の方のお客さん、同時です。

 女のお客さんって、たまおちゃんなの。

 なんでこんな所にいるんでしょう?

「たたたたまおちゃん!」

「え……ポンちゃん?」

「たまおちゃん、なんでこんな所に?」

「う、うん……その、まず注文いい?」

「あ、はいはい」

 わたし、たまおちゃんとお父さんの注文をとってから、たまおちゃんを手招きしてお店の隅。

 たまおちゃんのお父さんが微笑んで会釈してくれるのにわたしも頷きます。

「たまおちゃん、なんでこんな……」

「本当にポンちゃん?」

「え? なんで?」

「なんでって……」

 たまおちゃん、わたしをしげしげと見つめます。

 それから思い出したように……わたしのしっぽをモフモフ。

「ちょ、たまおちゃんなにをっ!」

「い、いや……これで本人か偽者かわかるかなって」

「見てわかりませんか!」

「い、いや、ほら、タヌキは人をばかすっていうから」

「たまおちゃん、信じられない、わたし先輩なんだよ!」

「……」

「誰のおかげで居候できてると思ってるんですか~」

「……」

「わたしが打ち出の小槌でたまおちゃんをやっつけたから……」

「本当にポンちゃんなんですね」

「あたりまえです」

「ふむ……」

「モフモフしないでください、モフモフ」

「いや……モフモフはウソつかないから」

 たまおちゃん考え込んだ顔で、

「わたしびっくり……本当にポンちゃん」

「パン屋さん、みんな心配してるよね」

「……」

「ね!」

「え、ええ……ポンちゃんの心配、みんなしてます」

「そうなんだ……ふふ……もうすぐお家に帰るから大丈夫なんです」

「だと……いいんだけど……」

 たまおちゃん、不安気な顔してます。

 わたし、おそば茹でてる長老を見ながら小声で、

『わたし、あの長老にさらわれちゃったんです』

『はぁ……』

『ここに配達に来る人、目の細い配達人なんですよ』

『……』

『だから、今度来た時にお家まで連れてってもらうんです』

『なるほど……』

 たまおちゃんの表情、イマイチ明るくならないけど頷いてくれました。

 一緒になって席に戻りながら、

「たまおちゃんはどうしたの? お父さんと一緒で?」

「あ、わたし……」

 たまおちゃん、お父さんを見ながら、

「ここには地鎮祭で来たんです」

「地鎮祭?」

「ここ、ダムを作るんです」

「ダム……それで地鎮祭」

 たまおちゃん、力なく笑いながら、

「その……ダム工事の会社から言われて……」

「へぇ……」

「ほら、パン屋のあるあそこもダムになるはずで……」

「ええ、知ってますよ、結局溶岩でダメになっちゃったですけど」

「その前に、なんかあったでしょ?」

 って、おそばが出来たので一度配膳。

「たまおちゃん、なにが言いたいんです?」

「コンちゃんがダム、壊しませんでしたか?」

 ありました、そんな事。

 現場監督さんがコンちゃんのお尻タッチが原因でした。

 ダムも山も盛大に壊れたんですよ。

「ここも工事にあたって、邪魔する者が……」

 って、たまおちゃん、わたしを見つめます。

「わたし、そんな事してないよ」

「まぁ、ポンちゃんは打ち出の小槌くらい……でも……」

 たまおちゃん、長老を見ます。

「あのおじいちゃんは……」

「長老……どうかしましたか?」

「しっぽ、ありますよね?」

「え、ええ……あります、わたしと一緒でタヌキですよ」

 って、刑事さんがお茶を要求。

 わたしが行こうとしたら、長老が先に動きました。

 長老がわたし達の横を通過。

 タヌキのしっぽ、丸見えです。

 たまおちゃん小声でため息まじりに、

『あのおじいちゃんタヌキをお祓いに来たんです』

『お祓い……長老やっつけるんですか?』

『ポンちゃんの知り合いですよね……』

『誘拐犯ですけど……』

『ともかくあの長老がバカ強なんです』

『はぁ……』

 イマイチ「バカ強」の程度がわかりません。

 コンちゃんみたいにダンプ飛ばしたりできるのかな?

 焼き物タヌキを「ひょい」っと運んじゃうくらい豪腕です。

 でも、コンちゃんみたいに術を使ってるのは見た事ないなぁ。

『たまおのお友達のポンちゃん』

『あ、お父さん、おひさしぶりです』

『おじいちゃん……長老……祓っていいですか?』

『むー、ちょっとだけど一緒に暮らしているから、それは……』

『私としても……』

 たまおちゃんのお父さんがつぶやいた時でした。

 またまた新しいお客さん、それも団体。

 わたし、お盆持って固まっちゃいます。

 任侠映画なんかで出てきそうな「こわもて」がゾロゾロ入ってきました。

 店内は一気に極妻みたい。

「かけそば」

 注文それですか。

「えーっと、全部で十五人、全部かけそば?」

「いや、一杯」

「は?」

「一杯」

「他のお客さんは……水だけですか?」

 わたし「こわもて」さんにビクビクしながら聞きます。

「他は……そうだな、取り分ける小皿を」

 くっ……今さら「一杯のかけそば」!

 それも15で割るとは、どんだけですか。 

 わたし「こわい」のどっかにいっちゃいましたよ。

 こわもてのくせに……格好悪い。

「こらー、仕事しごと~」

「は~い」

 わたし、長老の声に戻ります。

「ねぇ、長老」

「何ですか?」

「かけそば一杯だよ、あんなのお客じゃ……」

「注文あればお客です……小皿持って行ってください」

「は~い」

「かけそば一丁あがり」

「え……もう出来たんですか?」

「まぁ、入ってきた時点で読めていたので」

 長老言いながら、もう酒瓶傾けています。

 わたしおそばを持って行くのと酒くさいのからのがれるので、ともかく行きます。

 って、こわもてさん達、一杯のかけそばに群がってきました。

 まったく変な人達ですね。

「てめえっ、何、虫なんか入れとんのじゃ!」

 わっ、いきなり大声。

 こわもてさん、丼持ってわたしに迫ってきます。

「われ、何虫入れとんのじゃ!」

「は?」

「虫が入ってるってんだよ、ゴラっ!」

「……」

 また、どんだけベタな言いがかりでしょう。

 おそばの上にGが浮かんでます。

「えーっと……」

「おら、なんとか言ったらどうだ、ゴラっ!」

「なんとか……」

「ざっけんじゃねーよ!」

 どっちが「ざっけ」てんでしょうか。

 コテコテすぎて、内心笑いが止まりません。

 でもでも、これで叩かれたりしたら嫌ですね。

「ヒラヒラした服着やがってよ~」

 あ、わたしを取り巻いて、メイド服触りまくりです。

 今はちょっとこわいです。

 でも、やっぱり「一杯」「十五人割」「G」「ざっけんじゃねーよ」って言葉がグルグル頭を巡って肩が震えちゃうの。

「こわくて震えてんのかよ、オウっ!」

 笑いを堪えてるんですってば、モウ。

「どうしましたか?」

 って、ようやく店主の長老、登場です。

「てめっ、ざっけんじゃねーよ!」

「どうされました?」

「虫が入ってるだろーが!」

「ダシです」

 は?

 長老、なに言ってるんですか!

 そんな事言ったら火に油ですよ。

 でも、またどんな「コテコテ」があるか見たくもあります。

「ダシです」

 長老、Gをヒョイとつまんで口に放り込みました。

 あ、あまりの展開にわたしもこわもてさん達も固まります。

 長老、ボリボリとスナック菓子でも食べるみたいにして、最後にちゃんと飲み込んじゃいましたよ。

「さ、どーぞ」

 って、さっきまでGの浮かんでいたかけそばを突き返し。

 わたしもだけど、こわもてさん達もげんなりした顔になってます。


 いいがかり・つけたつもりが・スルーされ


 わたしがそんな事を考えていたら、こわもてさん達も我に返ったみたい。

 そう、こわもてさん達にも「任務」があるわけです。

「かまわねぇ、やっちまえ!」

「おーっ!」

「猪口才な!」

 長老の目がキラリ。

 秒殺? 瞬殺? 電光石火?

 長老が駆け抜けたら、こわもてさん達、全滅です。

 倒れたこわもてさん達を勝手口から裏に運び出して山積みにしちゃう長老。

「長老強~い」

「ポンちゃん……小皿とか割れてない?」

「あ、割れました、片付けておきます」

「あ、いいよ、割れたなら……」

 長老、こわもてさん達の懐から財布を抜くと、容赦なく回収。

 って、かけそば一杯しか注文しなかったけど、みんなお金持ちです。

「柿右衛門の小皿、一枚百万」

 絶対ウソです、安物の小皿ですよきっと。

 わたしがあきれ顔で見ていると、肩を叩かれました。

 たまおちゃんです。

『なになに?』

『ポンちゃん、長老、祓う?』

『祓ってもらおうかな~』


「長老~」

「ふむ、ポンちゃん」

「夜にお店ですか?」

「いや……夜はやってません」

「?」

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