第58話「クスン、ホームシック」
ポン太・ポン吉がニンジャの格好で現れた!
わたしも「くノ一」で応戦です。
新聞紙で作った手裏剣を刀で弾いちゃうんですよ。
って、わたしもプラスチックの刀なんですけどね。
ふふ…「女の武器」でポン吉やっつけちゃうんだから~
「ふう」
毎日楽しく過ごしてきました。
でもでも、いよいよ我慢できなくなりました。
朝ごはんでついついため息です。
「ポン姉、どうかしたのかよ!」
「うん……」
「オレに話せよ」
「うん……」
ポン吉、わたしの顔をじっと覗き込みます。
わたし、視線を返すけど、笑ってみせるけど、やっぱりしんどいの。
「ポン姉、ごはんモリモリ食べたらきっと元気になるぜ」
「うん……」
「オレの卵焼き、あげるから」
「ううん、まだ残ってるから、大丈夫」
わたし、お皿の卵焼きを口に運ぶの。
メザシなんかはいいんです。
でも、ごはんや卵焼きやお味噌汁は……ミコちゃんのと味が違うの。
ポン太くんのごはんもおいしいけど、ミコちゃんのごはんが食べたい。
「風邪でもひいたのか?」
「ううん……でも、ちょっとね……」
「オレ、なにかできないかな?」
「ポン吉優しいね……でも、大丈夫、わたし、ちょっと休むね」
「ポン姉……」
「寝てたら元気になると思うから……」
「本当に大丈夫?」
お布団で寝ていても、お家を思い出しちゃいます。
帰りたい……帰り方わかりません。
って、落ち込んでいたら足音近付いてきました。
足音聞いただけでわかるんですよ、ポン吉ですね。
襖が動く音がして、わたしの方に近付いてきます。
気分じゃないから、タヌキ寝入りしちゃいましょう。
「ポン姉、どう?」
今は寝ているから聞こえません。
目、つむってるけど、ポン吉の顔がすぐそこにあるの、わかります。
「ポン姉、遊ぼうよ~」
ポン吉……目つむって声を聞いていたらレッド思い出しちゃいますよ。
「ねー!」
「……」
「ねーったらねー!」
「……」
「もー!」
「……」
ふふ、あきらめて行っちゃいました。
でもでも、すぐに戻ってきますよ。
「ねー!」
「……」
「もー!」
「……」
「起きろー!」
「……」
知らん顔……って思ったらお布団に入ってきました!
むむ、ここはがまんのしどころです。
わたしがタヌキ寝入りをつき通すか?
ポン吉がわたしを起こすのに成功するか?
って、腕にしがみついてきました。
「痛いっ!」
腕、噛まれました。
わたし起き上がって、腕に噛み付いているポン吉にチョップ。
「なにするんですかー!」
「ふがふが……」
「ふがふがじゃ……って、ポン吉、なんて格好してるんですか!」
「ポン姉、目、覚めた?」
「ポン吉、噛むのはダメです、で、その格好は?」
ポン吉、黒い服、ニンジャ服です。
ポン太くんも同じ格好で現れて、二人並んで、
「ニンジャー!」
「な、なんのつもりですか!」
ポン太くんがニコニコ顔で、
「ポン姉が元気ないので」
「それがニンジャ?」
「明日、団体予約があるので、ニンジャ屋敷をやるんですよ」
「に……ニンジャ屋敷?」
わたしが首をかしげていると、ポン吉が赤いニンジャ服を出して、
「楽しいよ!」
なんだか拒否できそうにない空気。
わたし、赤ニンジャ服を着て、ポン吉に手を引かれてニンジャ屋敷へ!
お醤油作っているお隣が「ニンジャ屋敷」でした。
今まで入った事なかったので知りませんでしたよ。
「ふわわ……ここが……ニンジャ屋敷!」
「ポン姉、見ててー!」
「はいはい、見てますよ」
「にんにん!」
ポン吉、手と手を合わせてつぶやきます。
って、背後の壁がクルッとなって、ポン吉いなくなっちゃいました。
見え見えでしたよ。
わたし、壁を押して、
「ポン吉発見」
「おおっ、ポン姉、もう術を見抜いた!」
「見え見えのバレバレですよ、ダメニンジャ」
「ふふ、見えるようにやってるんだいっ!」
「負け惜しみ~」
ポン太くんがやってきて、
「ポン姉、元気になったみたいですね」
「ここはこんなのばっかり?」
「はい……この掛け軸の裏は壁です」
「普通、抜け穴が開いてるのでは? アニメで見た事ありますよ?」
「掛け軸を右に引っ張るとさっきみたいに通れます」
「おお!」
ポン太くん、隠れました。
わたしもやってみます。
「む……開きません……」
「掛け軸を右に引っ張るんですよ」
あれれ、ポン太くんいつの間にか後ろにいます。
ポン太くんはニンジャ免許皆伝ですね。
「あ、左でした……右に引っ張って、開いた開いた!」
言われた通りにやったら壁がクルリ。
裏には廊下があるんですね。
「わわわ、わたし、どうしたらいいの!」
入ってきた壁はもうピクリともしません。
戻れないでモジモジしてたらポン吉登場。
「ふふ、助けて欲しい?」
「助けてください」
「どうしよっかな~」
む、ちらちらとわたしを見る目に優越感がうかがえます。
もう、即ポン吉を確保。
しっぽを捕まえてぶーらぶら。
「わーん、痛いー!」
「黙って助ければいいんですよ」
「オニー!」
「さっきわたしを噛みましたね?」
「わーん、ごめーん!」
謝ったところでゆるしてあげましょう。
ポン吉に手を引かれてさっきの場所へ。
「ふへー、ここ、ニンジャ屋敷だったんだ」
「気に入ってもらえましたか?」
「気に入るというか、びっくりしたかな」
わたし、ポン太くんと話しているのに、ポン吉が手裏剣投げてきます。
新聞紙で作った手裏剣ですよ。
わたし、ポン太くんの腰の刀……ってプラスチックのおもちゃを抜いて弾いちゃいます。
ふふ、パン屋で戦った経験があるから子供の攻撃なんかへっちゃらなんだから。
手裏剣、右に左に刀を振って落としちゃいます。
「ポン姉、やるな!」
「ポン吉なんかに負けません」
「このー!」
あ、ヤケになって投げたの、大暴投。
全然明後日の方向、天井……って思ったらぶつかってわたしの額にヒット!
「うう……」
「やったー! 勝ったー!」
うう、なんか油断して負けちゃったんで悔しさ満点。
うずくまって……泣いてるの隠しましょう。
「うう……」
「ポン姉、大丈夫?」
「クスン……」
「ポン姉、痛かった? ごめんね?」
ポン吉も優しいところ、ありますね。
わたしの背中、トントンしてくれます。
でも……
「クスン」はウソ泣きなんですから。
罠なんですよ、ええ!
「それ、捕まえた!」
「どわ!」
「そーれ、しっぽぶらぶらの刑です、ぶーらぶら!」
「わーん、痛い! いたーい!」
「えへへ、わたしの勝ちですよ!」
「わーん、降参!」
ふふ、そうです、ニンジャとはこーゆーものなんです。
わたしは女ニンジャ「くのいち」なんだから「女の涙」も術のうち。
でも、なんだか痛い視線を感じます。
ポン太くんがジーっとわたしを見てますよ。
わたし、視線で返します。
『ポン太くん、なにか?』
『ポン姉……卑怯だ』
『ポン太くん、生きていくとはそーゆーものなんですよ』
『見損ないました』
『うう……』
なんかポン太くんの視線、心に刺さりますね。
三人そろって縁側でお昼です。
ポン吉は食べたらすぐに寝ちゃいました。
「食って寝るとはお子さまです」
「ポン姉は眠くないんですか?」
「うん……ありがとう」
「?」
「わたしを慰めてくれたんだよね?」
「まぁ……明日団体が来るのも本当なんです」
「ふうん、そうなんだ……あれは?」
そう、縁側からおそば屋さんのある藁葺き屋根が見えるんだけど、そのお隣にたくさん人がいます。
ニンジャ屋敷も今日初めて知ったけど、おそば屋さんのお隣も知りません。
「あ、まだ案内してませんでしたっけ?」
「うん」
「あそこはお土産屋さんです」
「おそば屋さんで売ってるのに?」
「おそば屋さんはお味噌とかお醤油とか、ここで作ってる分だけですよね」
「うん……」
「あれは近所の農家や漁師の人が持って来るんです」
「へぇ……」
「ここで作るだけだと、団体さん相手だと足りなくて」
「ふうん、そうなんだ」
「あの……ニンジャ屋敷、楽しかったです?」
「うん、時代劇で見た事あったから、面白かった」
「明日、一緒にニンジャ屋敷やります?」
「ううん……それはやめておく」
「!!」
ポン太くん、わたしの顔を覗き込むように見上げます。
「ふふ、もう元気だから、大丈夫」
「……」
「ニンジャ屋敷は楽しかったけど、わたし、おそば屋さんを手伝っている方があってるみたいだから」
「ああ、それで」
「うん、ニンジャ屋敷、いつもと違う体の動かし方で……ね」
って、見てたらお土産屋さんから人が出てきて手を振ってます。
ポン太くんを呼んでるみたい。
「ボク、行きますね、ポン吉も連れて行きます、ほら、起きて!」
「なんだよアニキ!」
「近所の人が来てるから行かないと!」
「あーい、わかったー!」
ポン吉、目をこすりながら一度奥に引っ込みます。
ポン太くん、ちょっと困った顔で、
「ポン姉、すみません、ボク行かないと」
「はいはい……もうすぐお昼だから、わたしはおそば屋さんのお手伝いに行くよ」
って、わたし、ニンジャ服でした。
「ねぇ、ポン太くん」
「?」
「わたしの服……もしかしたらあるんじゃない?」
そう、普段は着物を着てるんです。
ここに来てからは、ここで出されたのを着てました。
でも、「パンツ」だけはわたしのが出てきます。
わたしの服がどこかにあると確信してたんですよ。
「ねぇ?」
「長老には黙っておくように言われたんですが……」
「でしょ!」
「押し入れにありますよ」
わたし、早速部屋に戻って押し入れ開けます。
ダンボール……わたしがお外でお休みに使ったのです。
服もたくさん入ってました。
「ふふふ、ありましたよ~」
すぐにメイド服にチェンジ。
「!!」
服をくんくんしたら、お家のにおいが残ってましたよ。
一瞬目がうるうるしちゃったけど、すぐに元気になりました。
そうです、目の細い配達人が来れば帰れるんです。
「ポン吉、ポン太く~ん」
わたし、荷物を運んでいる二人に大声。
二人はわたしを見て、抱えていた荷物落としちゃいました。
荷物大丈夫かな?
「ねぇねぇ、どう、かわいいですか?」
「オレ、すげーびっくり」
「ボクも……」
二人は固まったまま、わたしをじっと見てます。
でも、最初に意味不明なリアクションしたのはポン吉。
なんで首傾げるんですか?
「あの、ポン姉……」
「なに、ポン吉くん、ホレなおしましたか?」
「あの、わざとやってるんですよね?」
「え? なにが?」
「後ろ、パンツ丸見えですけど……」
「え!」
うわ、スカートまくれて、ひっかかってます。
こっぱずかしい。
「ふ、二人とも先に言ってーっ!」
「ふふ、ポン姉、元気になったみたいだな!」
「ボクも安心しました」
「元気になったけど、気持ち、くじけましたよ」
って、二人は笑ってます。
なんだかこっちもおかしくなっちゃいました。
「じゃ、わたし、メイド服でおそば屋さんやっちゃいます」
お別れのその日まで、わたし頑張る事にしました。
メイド服のわたしのかわいさで、売上アップ間違いなしなんだから!
「おお、ポンちゃん、似合ってますね」
「む、長老、まちがってます」
「なんですと?」
「似合ってる……ではなく……かわいいでは?」
「ふふ……」