第56話「ぽんた王国お手伝い」
ポン吉と釣りをしてばっかりは…
わたし、パン屋で働いていたから遊んでばっかりはちょっとね。
早速「ぽんた王国」をお手伝いするとしましょう。
ポン太くんはお味噌やお醤油を作ってるんだって。
そこに見覚えのある人物が…
今日もポン吉と川遊び。
お弁当にポン太くんお手製のおにぎり持ってです。
「ポン姉、今日もたくさん釣ろうぜ」
「そうですね、今日も勝負しますか」
「ふふ、オレ、負けないかんな~」
「昨日だってポン吉の勝ちじゃないですか」
「でも、ポン姉、でかい鯉釣ってた」
「まぁ、ですね、一番大きいのはわたしでした」
「オレ、大きさでも数でも負けない!」
「はいはい、頑張ってください」
わたし、釣り針になにも付けないで竿を出します。
最初から勝負を捨ててる訳ではありません。
実は……気になる事があるんですよ。
昨日もそうだったけど、わたしのお供はポン吉です。
「ねぇねぇ、ポン吉」
「なに?」
「ポン太くんは、どうしてるの?」
「アニキは醤油造ってる」
「うん、知ってるよ」
「それが?」
なんかすぐに会話終っちゃいます。
「ねぇねぇ、ポン吉」
「なに?」
「長老はなにしてるの?」
「長老はそば打ってるよ」
「そうなんだ……お店をやってるの?」
「そうだぜ、ぽんた王国はみやげ物屋だから」
「そうなんだ……」
「……」
「ポン吉はなにもしないでいいの?」
って、途端にポン吉のキツイ視線が返ってきました。
「ポン姉はオレと一緒に遊ぶの嫌なのか!」
「そ、そんな事はないけど……」
でも、正直なところを言うと、ここに来てちょっと調子狂ってる感じ。
パン屋さんだったら朝からいろいろあったんですよ。
起きたらコンちゃんの祠にお参り。
朝ごはんを食べたらお店の掃除にパンを並べるの。
じゃんけんで負けたら配達もあるし……
観光バスが来たら大忙し……
それがココに来てから……なんだかお客さん状態。
わたしが考え込んでいたら、いつのまにかポン吉目の前です。
「ポン姉、ぼーっとしてる!」
「え、あ、ゴメンごめん」
「オレと遊ぶの嫌なのかー!」
「うーん、魚釣りは楽しいけど……」
「なんだよー」
「わたし、パン屋さんで働いていたから、なんだか遊んでばっかりじゃ……」
「ポン姉、女王さまになるんだろー!」
「そ、そうだけど、その女王さまってやめてほしい」
「なんで?」
「だ、だって……」
わたしの中で「女王さま」はボンデージで鞭をフリフリだから……ね。
「女王さまは遊んで暮らすもんだぜ」
「そうかもしれないけど……」
わたし、「ぽんた王国」の方を見ます。
釣り場から小さく見える「ぽんた王国」。
藁葺き屋根……駐車場には車はいません。
目の前の道路を車がビュンビュン通り過ぎていきます。
「ねぇ、ポン吉」
「なんだよー!」
「わたしが女王さまで、ポン太くんと結婚って事なんだよね」
「うん、だな」
「わたし、女王さまって言っても『ぽんた王国』の女王さまだよね?」
「そだ」
「『ぽんた王国』って『アレ』だよね?」
「ポン姉、文句あるの?」
「わたし、女王さまでも働かないとダメなんじゃないかな?」
「えー!」
「なにが『えー!』ですか!」
「お店、つまらないぜ」
まぁ、なんとな~く、ポン吉がお店に寄り付かないのはわかるんです。
でもでも、わたしはお店に、ぽんた王国にすごい興味あり。
「ポン吉、お店に行きましょう」
「えー!」
「なにが『えー!』ですか、なにが!」
「だ、だってつまんないもん」
「ポン吉、誰が女王さまです?」
「知らな~い」
「わ・た・し・が・じょう・お・うっ!」
もう、捕まえて強制的にお供です。
「ポン太く~ん!」
ポン吉に聞いて、まずはポン太くんのお仕事拝見です。
なんだかいい匂いのするところですね。
大きな樽が並んでいます。
「あ、ポン姉……どうして?」
「えへへ、ちょっと気になって……」
「遊んでてよかったのに……」
「わたし、パン屋さんで働いていたから、遊ぶばっかりはちょっと……」
「……」
ポン太くん、なんだかわたしをじっと見てるみたい?
いえ、ポン太くんが見ているのはわたしが捕まえているポン吉です。
ポン吉、ここに来るのをすごく嫌がっていたから。
さっきからわたしの手から逃げよう逃げようとしてます。
ふふ、わたし、ポン吉のしっぽを握って放しません。
ポン吉ほっぺを膨らませて、
「ポン姉、一人で来ればいいだろ~」
「なに言ってるんですか、ポン太くん働いてますよ!」
「ふん、子供は遊ぶのが仕事だいっ!」
うまいこと言いますね。
でも、まぁ、ここまで案内してくれたから放してあげましょう。
わたしがしっぽから手を放したら、脱兎のごとく飛び出して行っちゃいました。
「ねぇねぇポン太くん、なんでポン吉は……」
「昔はポン吉もお味噌造ってたんです」
「へぇ……」
「でも、ボクより上手に造れないからって……」
「それでヘソまげたんだ」
「でも、ポン吉、釣りとか上手でしょ?」
「なんとなく、遊び名人っぽい」
「ボクは釣りとか、ポン吉にかないません」
「ふふ……二人で得意不得意あるんだね」
「ポン姉はわかりませんか?」
「ううん、なんとな~く、わかる、わかる」
どことなくわたしとコンちゃんみたいかな。
「せっかく来てくれてなんですが……」
「?」
「今日はもうやる事ないです、お仕事終わり」
「なんだ……って、お店やってるんじゃないの?」
そうそう、「ぽんた王国」には「おそば屋」と「売店」があるんです。
「おそば屋さんも、売店もやってなかったけど……」
この大きな樽のあるのは、住んでいる家のお隣。
お店の二つ奥にあります。
「お店……売店は週末だけやってます」
「はぁ……」
「そば屋はお昼だけやってます」
「なるほど……」
って、わたし、眉間に縦しわ寄っちゃいます。
「ポン太くん……そんなんでいいんですか?」
「は?」
「わたし、パン屋さんで働いていたけど、毎日やってたよ」
「そ、そうなんですか……」
「そんな……土日だけお店やっててもダメでしょ、儲かりませんよ!」
「で、でも……お客さん来ませんから」
「え? なんで? 車すごく走ってるよ!」
ポン太くん、お醤油のビンとお味噌の小壷を台車に載せながら、
「全然来ないわけじゃないけど……お醤油やお味噌はそば屋で売ります」
「そ、それでいいのかなぁ~」
「どの車も『通るだけ』なんです」
「本当?」
「この辺、なにもないでしょ、温泉とかもないし、観光名所もないし」
そうです、本当にあるのは「自然」だけかも。
「でも、週末は川遊びなんかに来る人がたくさんいるから」
「そうなんだ」
車はパン屋さんのある村よるずっとひっきりなしな気がするのに……
「じゃ、台車を押すくらいわたしが……」
「そんな、女の人に力仕事なんか……」
「わたしの方が大人だし……」
そう、きっとわたしの方が力があります。
「じゃ、一緒に……」
「ふふ、ポン太くんの言う通りにするよ~」
一緒になって台車を押します。
「ちょ……ポン太くん!」
「?」
「これ、結構すごくない?」
お醤油もお味噌も結構な数ですよ。
「まぁ、ボクの自信作ですから」
ポン太くん胸を張って自慢気です。
うん、ポン太くんのお味噌汁、美味しいもんね。
「ちわー、綱取興業で~す」
わたし達が出ようとしたら声。
それも、どっかで聞いたような声です。
見ればパン屋に来ていた配達人、目の細い配達人ですよ。
「あ!」
もう、わたし、思わず声でちゃいました。
でも、目の細い配達人は気付いてないみたい。
わたし、目で訴えるけど、やっぱりダメです。
む~、人違いとか?
声そっくりだし、わたし、パン屋さんでたくさんの人を見たけど……
こんな「目の細い人」は見た事ないです。
寝てるんじゃないかってくらいですよ。
「はい、サイン」
「毎度、大豆は表に置いてますから~」
「はい、どうも……今日はどうします?」
「醤油と味噌、いつもの分だけもらっていきま~す」
目の細い配達人、台車から箱に移して、持って行っちゃいました。
「あの、ポン姉」
「な、なんですか?」
「ボク、大豆の袋を中に運ばないといけないから……」
って、見れば山のように袋が積んであります。
わたし、目を細めてから、
「これ、奥に運べばいいんだよね?」
「え……」
「わたしがやるから……あとでいろいろ聞きたい事あるから」
「はぁ……」
わたし、腕まくりで袋を運びます。
ふん、こんな量の大豆袋運び、やった事あるんだから。
こ、コンちゃんがやったら術でフヨフヨ飛んで行くところです。
わたしだって出来るんです!
でもでも腕力を使ったら、胸がしぼんで腕がパンパンになっちゃうの。
む~、一度経験しちゃってるから、なんか余裕。
あっという間にコンプリートです。
「どうですか!」
「ぽ、ポン姉、すごい……」
「ふふ、見直しましたか、えっへん!」
「ぼ、ボク、ポン姉と結婚してもいいかも……」
「ポン太くん、それはどーゆー事ですか!」
もう、チョップですよ、チョップ! チョップ!
さて、ポン太くんをしっかり抱きしめます。
「ねぇねぇ、さっきの人、また来るの?」
「ええ、週に一度は大豆を運んでもらってます」
「そうなんだ……」
って、鼻がツンってしちゃいます。
帰るきっかけをみつけました。
わたし、何度もこのおそば屋さんの前を見てます。
でも、近くでじっくり見たのは初めて。
入り口入ってすぐに「アレ」がいたんです。
そう、学校のおそば屋さんの前にいた「焼き物」が!
「ポン姉はこっちは初めてですよね?」