第55話「ポン太とポン吉」
着替えてたら視線がっ!
まさかポン太くんが「のぞき」でしょうか?
良い子みたいだったのにショック…って思ったら弟だそうです。ポン吉。
ポン太くんと違ってポン吉はわんぱくな男の子。
でもでも、情報を聞き出すにはちょうどいいかも…
「ポンさん……じゃなくてポン姉」
「……」
「おせんべいとお茶、置いておきます」
「……」
「ボク、お仕事終ったら案内とかしますから」
「……」
「トイレはそっちで……TVはわかりますよね?」
「……」
「ボク……なにか気にさわることしました?」
むむ~
さっき襖の影で着替えを覗いていたのは、やっぱりポン太くんじゃないみたい。
そうそう、ポン太くんは眼鏡だけど、さっき覗いていたのは眼鏡ナシでした。
それに目つきが違います。
ポン太くんは優しい感じだけど、さっきの覗き魔は獲物を狙うような鋭いまなざし。
「じゃ、あと一時間もしたら終りますから」
って、ポン太くん行っちゃいました。
「!」
そうそう、もしかしたら、あの眼鏡を取ったら豹変するのかもしれません。
うーん、眼鏡は伊達で変装とか?
さっきのポン太くんを思い出します。
あんなに素直な良さそうな子だったのに……
もしもアレがお芝居なら、すごいイタズラっ子……
人をだますのもお茶の子とか……
ああ、なんだかさっきから疑い出したら止まりません。
「ポン太くん……悪い子なのかなぁ」
覗いていた、半分しか見えなかった顔を思い出します。
ポン太くんからは想像もつきませんよ。
おせんべいに手をつけて……
お茶もじっと見つめます……
おせんべい……もしかしたらコースターかもしれません。
お茶……牛のおしっこかもしれません。
「まさかね」
わたし、おせんべいを一口、お茶もすすりました。
大丈夫、普通のおせんべいとお茶です。
ポン太くん、疑ってごめんなさい。
それもなかなかの絶品ですよ。
おいしくてやめられません。
「!」
って、わたしがお茶飲んでたら、なにか飛んできました。
「?」
当ったの、輪ゴムです。
「なんで?」
わたし、輪ゴムを拾って見つめます。
って、また飛んできました。
額に当って落ちます。
「……」
最初、どこから飛んできているのか、さっぱりわかりませんでした。
でも、目を閉じて、心を静めたら、かすかな発射音。
この音は覚えありです。
輪ゴム銃ですね。
むむ……しつこく撃ってきます。
発見、襖の陰から出たり引っ込んだり……例の覗いてた男の子。
ふーん、ポン太くん以外にもう一人いるんですね。
さっきポン太くんを疑わないで聞いておけばよかった。
し、しかし……しつこい……まだ撃ってきます。
さっきから狙ったように額にヒットしまくり。
ここは一発仕返してやりましょう。
わたし、輪ゴムを指にひっかけます。
出て、撃って、引っ込む。
次出てきたらシュートです。
1・2・3……
出た!
わたし、見ないフリして輪ゴム発射。
見事に男の子の鼻に命中。
びっくりしたみたいで、大きな音させて転びましたよ。
「このイタズラ小僧~」
わたし、メラメラと怨念オーラを背負って行きます。
ふふ、見つけました、涙目で倒れてるの。
「輪ゴム銃人に向けて撃ったらダメじゃないですか!」
「な、なんだよバーカ!」
「口が減りませんね……名前は?」
そうそう、この男の子がポン太くんじゃないのは間違いなさそう。
「お前に名乗る名前なんてねーよ!」
「ムカ! わたしはポンちゃん」
「ふざけた名前」
「って、ポン太くんもポン付くよ」
わたし、男の子を捕まえます。
逃げようったってダメです。
わたしの方が大人なんだから、捕まえるなんて簡単かんたん。
「放せー!」
「名前は?」
「ガブっ!」
「!!」
うわ、腕を噛んでます。
い、痛い……でも、直感でここは逃がしてはダメ。
男の子……ありましたよ、しっぽ。
わたし、容赦なくしっぽ引っ張ります。
「ほらほら、しっぽもげちゃうよ~」
「ぴー!」
「ほらほら~、早く降参しろ~」
「ぴ~!」
ふふ、わたしの腕を噛んでて言葉になりませんね。
でもでも、しっぽ引っ張られて痛いみたい。
目から涙、ポロポロこぼれてます。
しかしわたしだって痛いの。
早く決着つけたいもんです。
あ、ようやく噛むのやめましたよ。
「ほら~、人に怪我するような事、しちゃだめでしょ」
「うう……ポン姉のバカ」
「ポン姉……ポン太くんから聞いたの?」
「ポン姉のアホー、死ねー」
「あ!」
隙を突かれて逃げられちゃいました。
結局名前を聞けなかったです。
まぁ、ポン太くんに聞けばわかるでしょう。
ポン太くんに聞こう……って思っていたらポン太くん連れてきました。
例の男の子。
「あの、ポン姉」
「ポン太くん、聞こうって思ってたんだけど、その子は?」
「ボクの弟のポン吉です」
って、ポン太くんが言った途端にポン吉怒ります。
「てめ、アニキ、なに勝手に個人情報言うんだよ」
「ポン吉、いい子にしてないと……」
「いい子にしてても、ろくな事ねーじゃんかよー!」
「……」
「いい子にしてたら、どんないい事があるんだよー!」
「いい子にしてないと……ポン姉に案内してもらうんだから」
ポン太くん言ってから、わたしの方に向き直って、
「あの、すみません、今日はお客さん多くてボク離れられなくて……」
「お店、繁盛してるんだ」
「観光バスが寄ってくれるから……」
ああ、その辺はパン屋さんと一緒ですね。
「だから、ポン姉の案内をポン吉にって……」
「えー、この子ー、ポン吉ー!」
わたし、すごい嫌そうに言っちゃいます。
本当はそんなに嫌じゃないし、ポン吉の事も知りたいくらいなの。
わたし、ちらっとポン吉を見たら、バツ悪そうに足元蹴ってます。
「ま、ポン太くんがそこまで言うなら、ポン吉で我慢する」
「な……てめっ、我慢するとは何事!」
「意地悪する子は嫌~い」
えへへ、言いながらさっきの輪ゴムをチラチラ見せます。
ふふふ、ポン吉そっぽを向いてしまいました。
「じゃ、ボクはお店に行きますから」
ああ、ポン太くん行っちゃいました。
わたし、ポン吉捕まえます。
「わ、なにすんだ!」
「ほらほら、この辺を案内する係りでしょ~」
「ポン姉、オレの事嫌いなんだろー!」
「うん、嫌い」
「アニキに案内してもらえよー!」
ふふ、じたばたしてます。
子供だから無駄ムダ。
ギュっと抱きしめてあげましょう。
「わわ、なにすんだ!」
「ポン吉しかいないよ~」
「オレ、ポン姉嫌いー!」
「わたしもポン吉嫌い」
「放せー!」
それ、ギューってさらに抱きしめ。
「ポン吉は男の子ですよね?」
「当たり前だろー!」
「男の子のくせに、女心解ってませんね!」
「!!」
「嫌よ嫌よも好きのうちって」
「えっ!」
ふはは、ポン吉、顔を真っ赤にしてテレてます。
わたしの作戦成功みたい。
ポン吉勘違いしてるんでしょう。
「ね、わたし、この辺の事わからないから、案内して」
「そ、そこまでポン姉が言うなら……しょうがないな~」
「じゃ……わたしはポンちゃん、ポン姉って呼んでね」
「?」
「じゃ、ポン吉も自己紹介して」
「は? オレの名前知ってるじゃん」
「ポン吉からちゃんと聞きたいの」
ふふ、ポン吉、耳まで赤くなってます。
「ね!」
「う……オレ、ポン吉、よろしく」
うふふ、ポン吉にフラグ立ったの確信しました。
とどめにほっぺにチューしてあげましょう。
子供のハートをキャッチするなんてお茶の子なんだから。
そうそう、ポン吉を味方につけて情報収集開始です。
この辺を案内させて、お家に帰る方法を探りましょう。
帰り方がわかったら、速攻でここを脱出するんだから!
長老・ポン太くん・ポン吉・わたし。
一緒に夕飯を食べてます。
「ポン姉、川遊び楽しかったよな~!」
「う、うん、楽しかったね」
「オレ、魚たくさん釣ったぜ、夕飯、オレの釣ったの~!」
「うん、そうだね」
そう、近所を歩いて回ったんです。
でも、なーんにも情報なかったの。
「ポン姉もでっかいの釣ったよな~」
「うん、そうだね」
そう、歩き回って、結局最後は一緒に釣り。
ポン吉に負けたけど、わたしも大きな鯉を一匹釣りました。
釣り……楽しかった。
情報……さっぱり。
わたし、結局なにやってたんでしょう。
「じゃ、お風呂に入ってください」
ポン太くんに案内されてお風呂です。
って、連れて行かれた先にあるのは「でっかいお釜」。
「ぽ、ポン太くん……わたしを狸汁にする気?」
「え?」
「共食いって言うんですよ、信じられない!」
「これ、お風呂です」
「お釜……」
「五右衛門風呂っていうお風呂です」
「へー!」
「ポン吉が湯加減やってくれますから」
「湯加減って薪で火を燃やして?」
「そうですけど……」
言うとポン太くん行っちゃいました。
小窓からポン吉が覗いています。
「エッチ……」
わたし、小窓に顔を寄せて、
「女の子のお風呂を覗くなんてエッチ」
「ヌルい時は言って」
って、小窓閉まっちゃいました。
でもでも、どうしたもんでしょう。
五右衛門風呂……フタがプカプカ浮かんでます。
それに入ろうと思っても縁が熱いんですよ。
「ねー、ポン吉、ちょっといい、こっち来て」
「えー!」
「わたし、お釜のお風呂、入った事ないもん」
「はぁ?」
「縁、熱いよ、火傷しちゃう」
ポン吉入ってきました。
タオルをぬらすと縁に置いて、
「こうしたら大丈夫」
「そうなんだ……でもでも」
「?」
「このフタ、おかしいよね、小さいよ」
「これはフタじゃねー!」
「!!」
「これに乗って入るの、バカだなー!」
「えー! そうなの! なんでー!」
「だって、何もないで入ったら、足火傷しちゃうだろ」
「うう……いろいろ作法にうるさいお風呂ですね」
「じゃあな」
って、ポン吉行こうとします。
わたし、発見しちゃったんですよ。
もうポン吉捕まえます。
「ななななにすんだー!」
「ポン吉一緒に入ります」
「えー!」
そーれ、着物ひんむいちゃえ。
わたしもとっとと脱いで、手桶でポン吉にお湯を浴びせます。
「な、なにすんだー、バカー!」
「ふふ、さすが小学生くらいの事はありますね、泣きません」
「あ、当たり前だー!」
「でも、体ちゃんと洗ってないでしょ!」
「!!」
そうそう、ポン吉の耳の後ろ、真っ黒です。
男の子はどーも、体洗ったりするのが「テキトー」でダメですね。
ガンガン洗ってしまうんです。
「や、やめてー!」
「ふふ、お姉さんの言う事を聞けーっ!」
えへへ、ポン吉最初はイメージ悪かったけど、すごく仲良くなれたような気がします。
「ポン姉、今日もたくさん釣ろうぜ」
「そうですね、今日も勝負しますか」
「ふふ、オレ、負けないかんな~」
「昨日だってポン吉の勝ちじゃないですか」
「でも、ポン姉、でかい鯉釣ってた」