第54話「ようこそぽんた王国」
わたし、最近レッドに本を読んであげてるから知ってるんです。
よくあるんですよ、目覚めるとお姫さまになってたとか夢物語。
わたしが目覚めるとそこは「ぽんた王国」!
わたしいきなり「女王さま」!
ダンボールでおやすみしていたはずがどーして! どーして?
「おお、目覚めたようじゃのう」
「!!」
「お待ちしておりました、我らが女王さま」
い、いきなりなにを言い出すんですか、このおじいちゃんは!
しかし全然見た事のないおじいちゃんです。
村人は名前はともかく、大抵の顔は覚えちゃいました。
このおじいちゃんは知りません。
「あの……人違いでは?」
「いいえ、そんな筈はありませぬ」
「いえいえ、きっと人違いです」
だってわたし、女王さまじゃない、パン屋の店員さん。
たまにコンちゃんに「女王さま」にしてもらった事あるけど、このおじいちゃんの言っている「女王さま」とは……タブン違うような気がします。
それに人違いのはずです、だってわたし、本当はタヌキなんだから。
「人」じゃないんですよ。
「あの……タブン……きっと人違いですから」
わたしもお布団から出て正座です。
ペコペコ頭を下げながら、
「どう説明していいか……」
そう、タヌキなのは言っていいのか悪いのか……
村の人はもう気にしていないみたいだったから、しっぽを隠してなかったです。
でも、よその人に見せて、正体ばらしていいものか……
ほら、たまおちゃんのお父さんとか、即攻撃してきたし。
きっとあれが「普通の人」の反応なんです。
それに、早くパン屋さんに帰りたいし。
「ともかくわたしは……」
「ポンちゃん……でしたな」
「え!」
「一度、TVに出演された事、ありますな」
「は、はい……」
「あの日から、我々はあなたを探していたのです」
「え……」
おじいちゃん、立って縁側に行きます。
外は朝の光でまぶしいの。
手招きされたから、わたしもおじいちゃんの横に立ちます。
うわ、日本昔話に出てきそうな藁葺き屋根の家ばっかり。
「こ、ここは……」
うーん、本当に住んでた村じゃないです。
景色、全然違うんだもん。
あ、でもでも、自動車の音がすごいです。
住んでた村よりずっと騒がしいみたい。
「ここは?」
わたし、改めておじいちゃんに聞きます。
おじいちゃん小さく頷いてから、すっと右腕を上げました。
指し示す指先には「みやげもの・ぽんた王国」の看板。
「ぽぽぽ……ぽんた王国?」
「そうです、ここは『ぽんた王国』」
「おおお王国!」
「とはいっても、国道沿いのみやげ物屋です」
「そ、そうなんだ」
王国という割には、藁葺き屋根の家があるだけです。
「きゃっ!」
「ふふふ……しっぽ、ありますな」
「ななななにすんですかっ!」
おじいちゃんがしっぽをモフモフ。
わたし、固めた拳を振り下ろし。
でも、おじいちゃん、瞬間移動で避けちゃいます。
移動するの、見えませんでした、スゴ。
「TVで見た時、感じたのです」
「ここここのしっぽはコスプレで……」
いきなり正体をあかすのも……って思ったらおじいちゃんクルリと背を向けます。
なんと、おじいちゃんにしっぽついているの!
「ああああなたは何者っ!」
「ふふ……私はここでは『長老』と呼ばれておるのじゃ」
「ちょ、ちょーろー……タヌキなんですか!」
「ふふ……まぁ、その事はおいおい話していくとしましょう」
長老、パンパンと手を叩きます。
後ろの襖がすべる音がして、一人の男の子が入ってきました。
眼鏡をした男の子、レッドよりちょっと大きい、小学生くらい?
「ポン太、この方にお食事を」
「はい、長老」
「ポンちゃんは……」
長老がわたしを見ます。
いいタイミングでお腹の虫が鳴きました。
「……お食事どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「では、私は店の準備がありますので」
「ま、待って!」
「はい……何ですかな?」
「わ、わたし家に帰りたい」
「ダメです、ここで女王さまになっていただきます」
「嫌」
「ふふ……では、どうしますかな?」
長老の目がキラリとします。
な、なんとわたしの得物・打ち出の小槌は長老の手の中です。
「私を倒して……帰りますか?」
「そ、その通り!」
「得物はこちらにありますが……」
って、長老なにを考えたのか、打ち出の小槌をわたしに投げ返し。
当然わたし、構えます。
「勝負っ!」
同時にダッシュ。
長老の姿が消えた!
「うっ!」
な、なんだか視界がくるくる回って小さくなっていきます。
わ、わたし、負けちゃったみたい。
『ポンさん、ポンさ~ん』
ああ、わたしを呼ぶ声がします。
「ポンさん、ポンさん!」
段々近付いてきましたよ。
まぶたを開けばさっきの眼鏡の男の子。
「はわわ……わたし、負けちゃったんです」
「はい……長老とケンカするなんてこわいもの知らずですね」
「長老さんってそんなに強いの? おじいちゃんなのに」
「伊達に長生きしているわけではないんです」
「そ、そうなんだ」
あ、いい匂いがしてきました。
男の子……ポン太くんがちゃぶ台に朝ごはん並べてくれます。
ふふ、ホカホカごはんにシャケにお味噌汁、卵焼きもあり。
わたしの好きなメニューです。
早速手を合わせて「いただきます」。
「ボクもご一緒します」
「はい、どーぞ、みんなで食べるとおいしいもんね」
ふむ、なかなかの出来です。
ああ、なんか頭にポン太くんが浮かんできました。
「ねぇねぇ、これ、作ったのポン太くんだよね?」
「はい……わかりました?」
「ふふ……なんか味付けとか、そうかな~って」
「ポンさんは不思議な人ですね」
「不思議な人」って言葉で我に返りましたよ。
うーん、ポン太くんは良さそうな人だから、正体あかしていいかもしれません。
「その……ポン太くん、わたしにはすごい秘密が……」
「?」
わたし、箸を置いて立ち上がります。
振り向いてしっぽ見せ。
「わたし、人じゃないんです、本当はタヌキで……」
って、ポン太くんも立って背中を見せ……って、しっぽあります!
「うわ……ポン太くんもタヌキとか!」
「はい……ここの事、聞きました?」
「え? ここの事? えーっと、ぽんた王国……って!」
「長老はボクを将来の主にしたいんです」
「え……決闘の時、長老さんわたしに『女王さまになれ』って」
「ボクは長老にポンさんと結婚しろって言われてます」
「うわ……」
ポン太くんはよさそうな男の子ですが、結婚はちょっと……
なんたってわたしは店長さんと結婚するのが目標なのですから。
そんな事を思ったら、パン屋さんの事を思い出しちゃいました。
「早く帰りたい……」
「いてください!」
「え……」
「お願いだから、ここにいてください!」
わたし、鼻の奥がツンってしてたんだけど、ポン太くんの言葉を聞いていたらそんなの引っ込んじゃいました。
「お願いします……うう」
「うわ、泣かないでください、泣きたいのはこっちの方なのに!」
「だ、だってせっかく来てくれたのに、すぐ帰るなんて言うから」
「せっかく来た」んじゃなくて「連れて来られた」んだからモウ。
でも、涙目のポン太くん見てたらそんな気持ちもしぼんじゃいます。
ここはわたしの方がお姉さんなんだから、大人を示すところでしょう。
「はいはい、ポン太くん泣かない泣かない」
「だって……」
「わたし、ここにいるから、ね」
「本当!」
「本当ほんとう」
ふふ、ポン太くん、ぱぁって明るい顔になりました。
よかったよかった。
それに……
わたし、お家に帰りたくても帰り方わかりません。
眠っている間に連れてこられて、ここがどこだかさっぱりなの。
それに、ごはん食べてお腹も膨らんだら落ち着きました。
パン屋さんに戻る作戦はぼちぼち練るとしましょう。
それに長老さんもポン太くんも、そんなに悪い人じゃなさそうです。
「じゃ、ボクは仕事があるから行きます」
「へぇ、仕事ってなに?」
「ボクはお味噌とお醤油作ってます、さっきのお味噌汁はボクのお味噌です」
うわ、お味噌の作り方って知らないけど、ポン太くん子供なのにスゴイすごい。
行っちゃうポン太くん。
そんな背中に、
「あの……ちょっと……」
「はい、なんです、ポンさん」
さっきから気になっていたんですが、まずそこから。
「あの……わたしの事は『ポン姉』って呼びませんか?」
「ポンねえ……ですか?」
「うん……『ポンさん』はなんかちょっと……」
そうそう、「ポン姉」ってレッドも言ってたからね。
「はい、練習」
「ポンねぇ……ポンねえ……ポン姉」
「いいですよ、わたしの事、今度からそう呼んでください」
「はい、ポン姉」
「それから……」
「?」
「わたしの着替えないですか? パジャマのままだし」
「あ、それなら出しておきました、コレです」
コレって……着物みたいです。
そう言えば長老もポン太くんも着物ですね。
わたしに着れるでしょうか。
「あの……」
ああ、着方を聞こうと思ったら、ポン太くんもういません。
着物……コンちゃんやミコちゃんの最初着ていました。
でもでも、二人が着替えているのってしっかり見た事ないです。
ミコちゃんは普通に脱いだり着たりだけど、コンちゃんは術。
それに最初だけで、パン屋に来てからは二人とも普通に洋服が多かったような。
「ま、でも……」
とりあえずパジャマ脱いで、着物の袖通します。
こう襟を揃えてひもで結んで終了。
簡単かんたん。
本なんかで見た事あるけど、タブンこれは簡単なのです。
そうそう、よく考えたら一度甚平を着た事だってあるだから。
「ふふふ……ちょっと楽しいかも」
って、はしゃいでいたらわたしの野良センサー反応です。
視線感じます、もしかしたら着替え覗かれていたんでしょうか。
じっと部屋を見ます。
い、いました、襖から半分顔を出しています。
子供ですよ、ポン太くん?
そんな……ポン太くんそんな事するような子には思えませんでした。
「あれ?」
ちょっと目を離したら、いなくなっちゃいましたよ。
むむ……もしかしたら長老もポン太くんも悪人かもしれません。
わたし、丸め込まれちゃったんでしょうか?
着替えてたら視線がっ!
まさかポン太くんが「のぞき」でしょうか?
良い子みたいだったのにショック…って思ったら弟だそうです。ポン吉。
ポン太くんと違ってポン吉はわんぱくな男の子。
でもでも、情報を聞き出すにはちょうどいいかも…